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白揚社だより2020年夏号!

 夏と言えば、やっぱり恐竜ですよね。金曜ロードショーでも「ジュラシック・ワールド」が放送されていました。映画ではフルCGで迫力のある恐竜が描かれていますが、それはすべて想像というわけではありません。科学的知見に(ある程度)基づいています(科学的知見より、「映え」が優先されることもあるそうですが)。
 恐竜の研究も日進月歩で、10年前、下手したら数年前に描かれたCGが今のものとは全然ちがうということも起きてしまいます。そうした新しい恐竜の姿に興奮しつつも、昔の恐竜は、あれはあれでよかったのになぁ、と思っている人もいるのではないでしょうか。そんな人におすすめなのが『愛しのブロントサウルス』。科学の進歩によって、いかに恐竜の姿が変わってきたのか。その象徴的な存在ブロントサウルス(なんといっても、研究が進んだおかげで存在自体が否定されてしまった恐竜です)をマスコットにして、恐竜の変わりぶりを科学的に見ていくという、恐竜エッセーです。
 そして、今回の注目書は『ダイエットの科学』。夏になるとダイエットが話題に上りますが、一過性のダイエット法ではなく、本当に体にいい(ウエストにもいい)食事について読んでみてはいかがでしょうか。


▼「白揚社だよりVol.5」の表紙。夏にピッタリ恐竜物

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『愛しのブロントサウルス』ブライアン・スウィーテク著、桃井緑美子訳、四六判、2500円+税

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今回の注目書◇『ダイエットの科学』◆ポピュラーサイエンス書研究家の鈴木裕也さんが注目する一冊を紹介

『ダイエットの科学』ティム・スペクター著、熊谷玲美訳、四六判、2500円+税

0194ダイエット


ダイエットに失敗する理由は腸内細菌に聞け

 若かりし頃、スノーモービル遊びで事故を起こし、夫婦で大怪我をした。妻は顔面骨折、私は左膝靱帯断裂。この時、治療をした医師は私たちに意外なひと言を告げた。「キミたち夫婦は治りが早い。きっといい食事をしているんだね」。確かに私は料理好きだったが、それまで健康な食を意識したことなどない。思い当たることと言えば、ドレッシングもそばつゆも市販のものを使わずに手作りしていたことだけだ。
 時を経て、私は独り者になり、料理をやめた。10年以上の不健康な外食の結果であろう、立派な慢性内臓疾患患者だ。後悔先に立たずだが、食と健康との関係の本質をわかりやすく解説した本書を、もっと早く手にしていれば私の健康も損なわれずに済んだかもしれない。
 食と健康にまつわる情報はそこらじゅうに氾濫している。だがそれらには流行り廃りがある。著者によるとダイエットに関する書籍は3万冊を超えるほどあるが、世界中で肥満に悩む人の数や胴回りのサイズは増え続けている。糖質制限やパレオ(旧石器時代)式など実践者が多いダイエット法さえも効果がある人はごく一部で、多くはまた別のダイエット法を試しては諦める「ダイエット難民」になってしまう。
 なぜそんなことになるのか。疫学と遺伝学が専門の著者は、食品成分ラベルに従い、カロリー、各種脂肪酸、糖類、食物繊維……と、ひとつひとつ検証することで、食事にまつわる神話を崩していく(原題は「ダイエットの神話」だ)。
 カロリーの章では、カロリーが同じだが異なる種類の脂質をサルに食べさせる。すると、トランス脂肪酸を与えられた群の内臓脂肪の値は、天然由来の植物油を与えられた群の3倍になった。カロリーにだけ注目するダイエット法神話は、いとも簡単に崩された。また飽和脂肪酸の章では、これまで悪者とされてきた飽和脂肪酸が心臓疾患の原因になるという証拠は何一つ発見できなかったと述べる。

ファストフード食で腸内細菌は貧弱化

 なぜこのように、ウソの健康神話がまかり通ったのか。それはこれまでの〝常識〟には、腸内細菌(マイクロバイオーム)の役割が抜け落ちていたからだと著者はいう。腸内細菌の組成は誰一人として同じではない。そのため、ある食品を食べた際の反応は人によって異なる。よって万人に効果があるダイエット法はなく、「こうすれば痩せる、健康になる」というような甘言は神話にすぎないのだ。
 著者は息子の協力のもと、ファストフードを10日間食べ続ける実験を行った。すると、腸内細菌の生態系は大きく悪化し、田舎に住む健康なベネズエラ人に近いものから、多くのアメリカ人の腸内細菌のように多様性に乏しいものに変化していた。
 本書はダイエット本ではない。だが、今までダイエットに失敗し続けた理由や、よくある健康法のまやかしに気づけるはずだ。一読すれば、食についての意識を根本から変えうる、革命的な体験ができる可能性がかなり高いと思う。(鈴木裕也・科学読み物研究家)


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『ダイエットの科学』紹介ページ


白揚社の本棚◇『バイオハッキング』◆マニアックになりがちな白揚社の本たち。その読みどころをカンタンに紹介

0205バイオハッキング


『バイオハッキング』カーラ・プラトーニ著、田沢恭子訳、四六判、2700円+税


 あなたは今の知覚体験に満足していますか? そんなこと考えたこともない、という声が聞こえてきそうです。しかし、世の中は広い。自分の知覚を拡張しようとしている人たちがいます。たとえば、磁場を知覚できるようにと指先に磁石を埋め込んだ人は、見えも聞こえもしない、人間には感じることのできない磁場に磁石が反応して動き、それが触覚を介して知覚できるようになったと言います。
 こんな、自らの身体を実験台に知覚の限界を越えようとする人たちを取材して書かれたのが、『バイオハッキング』 です。そう言うとキワモノと取られそうですが、本書はちゃんとした科学書。五感研究のホットなトピックスをはじめ、文化によって知覚経験が変えられてしまうという心理学の研究成果や、VR (仮想現実)やAR (拡張現実)まで網羅する、知覚や感覚について総合的に知ることができる本なのです。

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