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白揚社だより2020年春号!

はい。見間違いではありません。6月なのに春号です。今年の春は新刊の発行を見送っていたため、公開するタイミングをうかがっていたら梅雨に突入してしまいました(汗)。7月新刊の『ブロックで学ぶ素粒子の世界』に春号を挟み込む予定ですので、書店で見る機会がありましたら、ぜひご確認ください。

▼「白揚社だよりvol.4」の表紙。表紙を飾ったのは『羽』

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『羽』ソーア・ハンソン著、黒沢令子訳、四六判、2600円+税


◆今回の注目書『ブラックホールと時空の歪み』


今回の注目書は、『ブラックホールと時空の歪み』です。著者のキップ・ソーンは2017年にノーベル賞を受賞した物理学者で、同書は映画「インターステラー」の原作にもなった名著です。今回ご紹介いただくのは、NHKラジオ「子ども科学電話相談」で科学をご担当の法政大学、藤田貢崇教授です!

『ブラックホールと時空の歪み』キップ・S・ソーン著、林一/塚原周信訳、A5判、5500円+税

0077ブラックホール


ブラックホールについて知りたいすべての人に


 ブラックホールの存在は、一九一五年にアインシュタインが提唱した相対性理論から論理的に導き出される。ところが、シュバルツシルトがブラックホールを最初に主張したとき、アインシュタインはそれをきっぱりと否定した。その後、チャンドラセカールもブラックホールにつながるアイデアにたどり着いたが、指導者のエディントンにやはり否定される。オッペンハイマーは大質量の恒星が最後を迎えたとき、重力によって極端な密度にまで収縮するという理論を導いた。その先にはブラックホールがあったものの、マンハッタン計画の責任者となり、研究はあえなく止まってしまう。「ブラックホール」という名前で、その存在が世に出るのは、一九六七年のホイーラーの研究まで待たねばならない。ブラックホールの存在が広く知られるようになるまで、こんな紆余曲折があったのだ。本書では、それぞれの研究者がなにを明らかにしようとしたかが、そのときどきの社会情勢も織り込みながら紹介され、ブラックホールの理論が確立されるまでの研究史が丁寧に描かれる。

 もちろん、歴史が語られるだけではない。著者のキップ・S・ソーンは相対性理論の著名な研究者で、多数の研究論文を発表している理論宇宙物理学者である。この本は多くの人々が感じているであろう、「ブラックホールとはいったいなんなのか」という疑問に明快に答える。本書は、いわゆる〝決定版〟だ。物理学には通常、方程式が欠かせないが、この本に式の類は一切登場しない。方程式は物理学者にとっての便利な道具ではあるが、その意味することは言葉でも説明できる。問題は言葉による説明が誰にとってもわかりやすいかということで、ここで優れた科学書かそうでないかが分かれる。本書はもちろん前者だ。物理現象の説明には無駄がなく実にシンプルで、誤解が生じにくい。さらに、必要な箇所に的確に挿絵が入れられ、理解を助けてくれる。

 物理現象を理解するには「順序」が鍵になる。たとえば、ブラックホールは極めて強い重力をもつ天体だが、そのような天体には白色矮星や中性子星もある。いきなりブラックホールの極端な状況に挑戦するのではなく、白色矮星、中性子星、そしてブラックホールと順を追って説明される。その間、高校レベルの物理学も丁寧に解説され、知識が無理なく深められることを感じてもらえるだろう。なぜそうなるのかという疑問から始まって、物理理論の成り立ちを順序立てて的確に述べることができるのは、ソーン自身が研究者だからこそではないだろうか。

 この分厚い本は、しかし、その見た目に反して驚くほど読みやすい。それは、ブラックホールに挑んだ研究者のドラマを追い、そのなかで読者と一緒に謎解きをしてくれるからだろう。物理学の話題が出てきたと思えば、研究者の人となりにクローズアップ、ときに当時の社会背景も織り交ぜる。研究者の人間性が本人の研究のみならず科学全体にどのような影響を及ぼしたのか、さながらドキュメンタリー映画のように浮かび上がらせる手腕には脱帽するほかない。ブラックホールそのものについて理解することはもちろん、天才理論物理学者たちの日常をかいま見ることのできる、貴重な一冊である。(藤田貢崇・法政大学教授)


『ブラックホールと時空の歪み』紹介ページ

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