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白揚社だより2021年春号『美の進化』『ニュートンの贋金づくり』を紹介!


白揚社だより2021年春号をお届けします(白揚社だよりとは、白揚社の本に挟んでいる出版案内のことです)。「白揚社だより春号」は春の新刊『家は生態系』『ハナバチがつくった美味しい食卓』『歪められた食の常識』に挟んでいますので、書店で見かけたら、ぜひ手に取ってご覧ください!(下の書影をクリックすると紹介ページにとびます)

0223家は生態系

0225ハナバチ

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さて今回の表紙は『細菌が世界を支配する』です。「バイキン」として毛嫌いされるこのと多い細菌ですが、実は病原菌はそのごく一部で、他の大多数の細菌は人間の役に立っていたり、地球にとって欠かせない存在だったりします。そんな知られざる細菌世界、総まくりの一冊です。

▼「白揚社だよりVol.7」の表紙

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『細菌が世界を支配する』紹介ページ

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今回の注目書◇『美の進化』◆ポピュラーサイエンス書研究家の鈴木裕也さんが注目する一冊を紹介

0216 美の進化

『美の進化――性選択は人間と動物をどう変えたか』リチャード・O・プラム 著 黒沢令子 訳3400円+税


鳥の繁殖戦略観察から導かれた 「審美進化説」

 口絵のカラー写真には熱帯の鳥たちの美しい姿が多数並ぶ。著者のプラムは世界的な鳥類学者だ。本書の前半では、なかなか観察することが困難なマイコドリの求愛行動や、美しい鳴き声や〝翼歌〟などの複雑な仕組みが詳細に報告され、ページをめくる手が止まらなくなる。カモの交尾行動においてはオスが繁殖戦略として強制交尾を行うなど、鳥たちの興味深い習性が実に生き生きと描写される。決して鳥好きとはいえない私でさえ、著者がリポートする鳥たちの生態は面白く読めた。これだけでも優れたフィールドワークの記録として楽しめる。
 ところが本書の主題はそこではない。著者は、こうした鳥たちの求愛・繁殖行動の観察から、現在の進化論研究で主流となっている適応主義に異を唱えていくのである。
 ダーウィンはその著書『種の起源』で、生物は突然変異と適した性質が子孫に伝わることによって進化したとする自然選択説を唱えた。発表当初こそ守旧派たちに批判されたが、今では生物学のみならず経済学、心理学にも応用されるほどのグランドセオリーとなっている。だが、ダーウィンには自然選択説だけでは解明できない謎に悩まされていた。クジャクの華美な尾羽は足手まといになり、捕食者から逃げにくくなるのに、なぜこのような形に進化したのか。
 しかし、ダーウィンは新たな仮説でこの謎を解決した。異性に好まれる形質は配偶者獲得の成功率を高めるという性選択説を新たに見出したのだ。
 しかし、ダーウィンの性選択説はまたしても多くの批判を浴び「危険思想」扱いされてしまう。そして現在では、性選択は自然選択の一形態に過ぎないと結論付けられてしまっている。
 プラムは、オス鳥たちの美しくも奇妙な求愛行動を観察して、これほど美しいものを自然選択説だけで説明することはできないと考えた。オスはメスたちに選ばれるため、より美しくなる方向に暴走(ランナウェイ)した――「美の生起」仮説である。この美に基づく進化(審美進化)を再検討することによってダーウィンの性選択説の復権を唱えたのだ。この思考の過程は本書の最大の読みどころだろう。

審美進化説で読み解く 〝進化の謎〟

 ただし、本書のすごさはそれだけではない。プラムはさらに、審美進化説をベースにして「大きな乳房」「陰茎骨がないペニス」「女性のオーガズム」「同性愛」などのヒトの性に関する進化生物学の難題にも挑戦していく。
 たとえば同性愛。自然選択説をとれば、子孫を残さない同性愛は消えゆく運命にあるはずだ。著者は、女性による配偶者選択という性選択説の視点で説明を試みる。詳細は本書に譲るが、女性が男性の社会性を選ぶことで男性の性行動は変わりうると著者は推論する。さらに、同性愛行動は男性の性的支配と社会支配を覆す可能性すらあると論じていく。
 後半はややフェミニズム寄りの論考になっていく感はあるが、いずれも深く考え抜かれた説得力ある〝新説〟になっている。これだけの内容をよくぞ一冊にまとめたと感嘆するしかない読書体験だった。
(鈴木裕也・科学読み物研究家)

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『美の進化』紹介ページ


白揚社の本棚◇『ニュートンと贋金づくり』◆マニアックになりがちな白揚社の本たち。その読みどころをカンタンに紹介

0167ニュートンと贋金


『ニュートンと贋金づくり』トマス・レヴェンソン著 寺西のぶ子訳 四六判・2500円+税

 ニュートンと言えば、万有引力を発見した偉大な科学者というイメージを持っているのではないでしょうか。いやいや、錬金術師でしょ、という人もいるかもしれません。しかし、かの天才科学者にはさらに違う一面がありました。ニュートンは数々の科学発見を成し遂げた後、イングランド王国の王立造幣局監事へと転身し、局内の改革から貨幣の改鋳、紙幣発行、金本位制への転換など、八面六臂の活躍をします。そしてなんと、当時大問題になっていた贋金づくりのボスを追跡、逮捕し、さらには起訴までおこないました。『ニュートンと贋金づくり』は、王立造幣局時代のニュートンに焦点を当てたユニークな評伝。執拗な捜査で悪党を死刑台に送り込んだ、天才科学者の意外な顔を知ることができる一冊です。

『ニュートンと贋金づくり』紹介ページ

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