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FMレコパル vs FM STATION

小学生高学年ともなるとクラスはFMエアチェックをする党しない党に分断された。

令和のいま、エアチェックってなにそれおいしいの?勢が人口の三分の一を占めているであろうから解説せねばなるまい。

エアチェック(英: air check, aircheck)は、個人が私的にラジオ・テレビの放送番組を録画・録音して楽しむこと、またその録画・録音した媒体のこと。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

本題に戻ろう。

する党は勢力を拡大するため、しない党の主な理由である誤解を丁寧に解いていく。しない党の誤解は主に以下のようなものだった。

ラジオは音が悪い

テレビの歌番組を録音すればいい

テープに無断で録音すると著作権侵害で頭脳警察に逮捕される

ひとつめの「ラジオは音が悪い」という子に聞くと、ほとんどが1石~3石ぐらいのポケットラジオ愛用者であった。当然、彼らの言う音の悪い「ラジオ」はAMでなおかつモノラルのイヤホン越しである。そりゃ悪いわ。

ふたつめの「テレビを録音すればよかんべ」族にどうやっているのか聞く。すると100%の確率でテレビのスピーカーにラジカセのマイク部分をくっつけて録音するという。そんなもんで満足していてはいかんだろう。

最後の「著作権侵害」だが彼らはカセットテープの裏面の注意書きに怯えるがあまり思考停止となっている。待て待て、商用目的でなければいいんだ個人で楽しむ分には自由に録音していいんだよ。厳密にはグレーのようですがそんなのは世の中にいっぱいあらあっ!(スーパー食いしん坊風)。あと頭脳警察はバンドな。秘密警察の間違いだろ?SPY×FAMILYの読みすぎだな。まだ連載開始まで40年近くあるけどな。

ナニワトモアレする党の地道な啓蒙活動の結果、5年生の2学期にはクラスのほぼ2/3がエアチェックを楽しむ良い子へと洗脳されていった。

いつしか話題はカセットテープの都市伝説的なものに移行していく。代表的なものを挙げよう。

メタルテープは磁気が強いのでヘッドの傷みが激しいが、46分一本1000円以上するTDKのダイキャスト製のヤツは例外である

洋楽はマクセル、歌謡曲はTDK、ニューミュージックはソニー、YMOはフジカセットが向いている

ノーマルポジションでクロムテープを使うと高音が強調されるがその逆をやると録音すらできない

ソニーのフェリクロムポジション『DUAD』の名前の由来は「妥当UD!目指せAD!』である

情報も知識も乏しい地方の小学生らしい、たわいのない井戸端ネタばかりだが、当時は真剣に議論を交わしたものだ。

つまりそれぐらいにはクラスの結束は固まりつつあった。しかし、固まったら固まったで今度は党内での派閥が生まれるではないか。人間とはなんと業の深い生命体。

それがFM雑誌論争であった。

ざっくり見積もって当時、エアチェックする党員が読むFM雑誌の比率は以下であった。ちなみに購入だけではなく借りて読む、あるいは好きといった数値も含まれる。

FM fan … 5%
FMレコパル … 40%
週刊FM … 15%
FM STATION … 40%

完全に肌感かつ曖昧な記憶で申し訳ないのだが、ざっくり雑感を記しておくとFM fan は硬派であった。専門的なオーディオ情報やBillboardチャート、クラシック、洋楽など中心で小学生には手が出しにくい。

そこを逆手にとってクラスでいちばんのお金持ちのご子息が意気揚々とページをめくっていたのを覚えている。しかしあまり羨ましがられることはなかった。

そして週刊FMはアーティストの情報が充実していた。推しのアーティストがいる党員は間違いなく週刊FMを手にしていたような気がする。ただ、どことなくミーハーな印象が拭えなかった。あとなんとなく地味?音楽之友社から出版されていたことも理由のひとつか。

と、なると表題でもあるFMレコパルとFM STATIONの二大勢力争いである。

♪エ~フエ~ム レ~コパ~ル(画像はオークションサイトから転載)

FMレコパルはなんといってもアーティストの半生をコミック化する企画が小学生にヒットした。しかも石ノ森章太郎や貝塚ひろし、聖日出夫(ズッ!で有名な)、望月三起也など一流の漫画家が描いていたのだ。

またゴダイゴのタケカワユキヒデがエッセイを連載していて、結構な人気を誇っていた。小学生にレキシコンのリバーヴの話が理解できたとは思えないがとりあえず固有名詞を覚えるぐらいの影響力があった。

レコパルの発売日翌日はクラスのレコパル派がこぞって回し読みしていた。常に3人から5人ぐらいが購買担当で、残りはちゃっかり便乗タイプであった。しかしさすがは小学館。誌面づくりにおいて一日の長があり、派閥内での話題の共有には事欠かない。それが小学生のハートを捉えた。

本来ならそのままみんなレコパルへおいで!みんななかよし5年2組!になるはずだった。

鈴木英人のイラストによるカセットケースレーベルがクラス内を流通するまでは。

こういうやつです(画像はオークションサイトから転載)

こんなん一発でやられてしまいますやん。東海地方の小学生の心をいっきにわしづかみですわ。このウルトラクオリティを誇る鈴木英人先生のイラストインデックスカードが毎号ついてきて、なおかつ他の雑誌よりも大判。当時は専門的なことはわからなかったが中綴じだったためFM番組表が見やすかった。

また取り上げるミュージシャンや音楽ジャンルも邦楽やポップスが中心で、その点も地方小学生にとっては親しみやすい存在であった。

ここにきて一気にレコパル派からFM STATION派に宗派替えするクラスメートが目立ちはじめる。あやうしレコパル派。レコパル派の運命やいかに。

みんななかよし5年2組は顔ぶれそのまま6年2組になり、ある者は小学校生活最後の部活動にチカラを入れ、ある者は私立中学受験に向けて猛勉強をはじめ、またある者はラジオを聞くなどという辛気臭い趣味を早々に卒業し恋人をつくるなどしていった。

気づけば誰ひとりFM雑誌の話題を口にする者はいなかった。

翌年、みんななかよく中学生になった。

  終
制作・著作
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