わたしのプレゼン必勝法
世にあまたある“プレゼン必勝法”なるものをわたしもしたためてみようと思う。
プレゼン方法ではなくて必勝法というぐらいなので勝ち負けがそこには存在する。プレゼンテーションで勝った、負けた、をいい大人たちが繰り広げている。
それがビジネス社会なのだ。南無三大菩薩。
わたしのプレゼン必勝法。
それはシンプル極まりない。
「弾丸は、速く飛ぶために美しいフォームをもった」
コピーライター秋山晶さんのコピーを、同じくコピーライターの仲畑貴志さんが評した言葉である。わたしは、わたし自身のプレゼン必勝法について振り返った際、このフレーズを思い出し、同じことが言えるなと思った。
あらためて、わたしのプレゼン必勝法。
それは、コンペには金輪際参加しない、というものである。
参加しない、ではない。
金輪際参加しない、だ。
並々ならぬ拒絶である。
コンペに参加しないということは、競合相手はいないということになる。競合相手がいないということは、プレゼンテーションで負けること自体がありえない。
つまり負けない。必ず勝つ。なんなら最初から勝っているのである。
戦略とは読んで字の如く、いかに戦いを略すか、だ。プレゼンに勝つにはコンペに参加しない。これに勝る戦略はないといえるだろう。
だからわたしはご相談の段階でその案件が競合コンペであるとわかるやいなや、お詫びを述べつつ丁重に辞退させていただいている。どんなメジャーなプロジェクトでも、どんなにデカいバジェットだとしても。
なぜか。
本稿のテーマである負けないため、ということが理由の最上位であるが、それとともにコンペの場合いくつか気持ちのよくない場面に出くわすからである。
ひとつはコミュニケーションが十分でない段階で判断されることから過去の実績やセールストークの上手い下手で決まる点。もうひとつは見積もり金額の高低で決まる点。そして最後にプレゼンを通すためにクライアントに阿った企画や表現になりがちな点である。
過去実績やトークでプレ負けした場合にありがちなのがプロジェクトが走りはじめてから実は口ほどでもなかった…みたいなケース。発注したはずのコーポレートサイトや通販ページがぜんぜんローンチされないな、と思っていたらいつのまにか頓挫していた、という話はこの業界なら一山いくらで売るほどある。
見積もりで負けるということはあまりないのだが(わたし自身はかなりエコノミーな価格でやってます)それでもときどきびっくりするぐらい低料金の価格提示をされて、そこに飛びつかれてしまうケースがある。ただ、さすがに値は値だよね…という仕上がりとなり結局翌年作り直し、みたいな結末を迎えがち。
そしていちばん難なのが企画への忖度である。ついプレゼンを通すことを大義にクライアント受けする企画や表現に走るというもの。そうやって作られたクリエイティブは決してクライアントのためになるとは限らない。それどころか当初の目的を果たすことなくWebの海を漂うデブリと化すことも多い。
しかしこの忖度企画制作、確かに褒められたものじゃないが一概に責められるものでもない、とわたしは思う。
だってにんげんだもの。
そういう状況でも真に価値のある、正直で誠実な企画やアイデアを提案することがクリエイターのあるべき姿ではないのか、と言われると返す言葉もない。
しかし残念ながらわたしはそんなに大人物ではない。たぶんこれを読んでいる人の多くもそうなんじゃないか。
長いものがあれば巻かれたくなる、ごく普通の弱い人間なのだ。
いつだって悪いのは人間ではなくシステムだ。この場合は競合コンペという仕組みがそもそも間違っていると思う。
とはいえここまでコンペが蔓延るにはわけがある。それが名誉や金である。前述したが競合コンペを張るだけの企業はデカく、有名で、予算も潤沢だ。人間界でいえば偉いさん。つまり選べる立場、なのだ。
だからコンペでは選んでやるのだ。選ばれた側は「ははーっ!」とひれ伏して、今日もせっせとデブリをつくるのである。
でも、わたしはそういうのはもういい。
あのころは良かった。あのときは若かった。あんときさんざんやった。
このコンペには絶対勝つ!と気合を入れた徹夜明け、巨大なポートフォリオを持ってボスのあとをついて回っていた。
富も名誉も栄光も、コンペに勝った先にすべてはあった。
そういうのはもう充分やった。
いまはもういいわけよ。
それよりも本当にお互いのことを理解し、リスペクトしあえる関係性の中でヒリヒリと仕事をしたいのである。よくないものはよくないと遠慮なく言い合えるクライアントと仕事がしたい。そっちの方が健全だし精神衛生上もすこぶるよろしい。
わたしがいうまでもなく人生はそんなに長くないし、何度も繰り返せる訳でもなさそうだ。だったら何かをだましだましやらなきゃいけない仕事にかまけている暇はない。好きなことだけ、好きなだけやるべきなのである。
以上がわたしのプレゼン必勝法である。
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