「良い旅を」ぐらいの外国語は覚えておいても悪くないのではないか
これといって決まった習慣を持たないわたしでも、毎日風呂に入るとか夜寝る、朝起きる、腹が減ったら飯を喰う、ぐらいの決まりごとはある。
毎朝犬の散歩をする、もそのうちのひとつ。
わたしの愛犬はもはや愛息と言って差し支えないほど溺愛しているフレンチブルドッグのオスなのだが、彼の大好物が散歩なのだ。
まあ歩く歩く。春と秋冬は朝5時から、夏場は4時からたっぷり1時間以上、あっちに行ったりこっちに行ったり。わたしの教育方針は自主性のソンチョウなので、あくまで彼の意思にそって歩くことになる。
そんなわたしの一日の平均歩数は優に1万歩を超えている。
わたしと愛息が暮らす地区は湾に面していて、比較的近年開発が進んだエリアだ。
古くからある書店や馴染みの喫茶店、創作料理でもてなしてくれる居酒屋、男好きのするママと近所の女子大生が働くスナック、などは一切なく、ワープロで書かれた恋文のような味気ない街。
代わりに大型商業施設やタワーマンション(驚くことにタワーではないマンションを見つけることが難しい)、コンサートホール、多目的展示場、そしてホテルが点在している。
なかでもいくつかあるホテルはコロナが沈静化してからインバウンドの戻りを如実に享受しているようで、外国人観光客で毎日ごった返している。ホテルに直結しているコンビニエンスストアなど夜は人種の坩堝ではないかと思えるほどだ。店員も全員が外国人であったりする。
そうするとあれだ。早朝から元気いっぱいの外国人観光客のみなさんはラフなかんじでわらわらと散策をはじめるのだ。
外国人観光客の方々はわが愛息に対して好意的に接してくれる(ことが多いように思う)。
昨日も富裕な感じの欧米中年夫婦がすれ違いざまに頭をなでてくれた。たぶん母国でも愛犬家なのだろう。
愛犬家同士のコミュニケーションに言葉はいらない。犬を挟んでのアイコンタクトとスマイル。これで気持ちは通じ合うから便利だ。
しかしわたしはそのときふと思った。
「もしも英語が話せたら」
もちろん西田敏行の脂ぎった笑顔とセットであることは言うまでもない。
このときほど己の不勉強ぶりを呪ったことはなかった。中1のときはじめて手にした教科書『New Horizon』を不良にカッターナイフで刻まれたからって英語のことまで避けなくても良かったのに。
悔やんでも時は遅し。
遅しではあるがまだできることはある。
ごくわずかな単語でのコミュニケーションでもいいじゃない。
と、いうことで「あなたはどこから来たのか?」と「良い旅を」を覚えることにした。まず最初に笑顔とともに投げかける「あなたはどこから?」これは英語一本でいけるはずだ。
Where are you from?
これでいい。詳しいことはわからないが「ホゥエアユフロ?」ぐらいで通じそうだ。大切なのは勇気。100%勇気。
もし「Aha?」もしくは苦笑いを浮かべつつ小首を傾げてきたら(大丈夫、俺の英語はジンバブエ訛りなんだ)と自分に言い聞かせてゆっくりと「フェアーユーフローム?」と笑顔で繰り返そう。
そこで帰ってきた国名に合わせて以下を返してみる。きっと、その空間は平和そのものになるような気がする。
Have a nice trip
bon voyage
buon viaggio
旅行愉快
좋은 여행을 보내십시오.
Buen viaje
Gute Reise
fazer boa viagem
Maligayang paglalakbay
iter tutum facete
เที่ยวให้สนุกนะ
addaan iti nasayaat a panagbiahe
きりがないのでこの辺で。自分に置き換えて想像すればわかると思うけど、異国の地で自国の言葉で声をかけてもらえると嬉しいんじゃないか。たとえたどたどしくても、少なくとも気持ちは伝わるのではないか。
それにしても世界は広い。わかっていたけどやっぱり広い。聞くところによると世界中には6500種類の言葉があるそうだ。
まだまだ知らない言葉、知らない文化、知らない価値観、知らない常識というものがある。それでいいとおもう。
なんでもわかったような気になっているのは大間違いですね。
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