ああ言えば、こう言おう
門仲のさ、駅出てすぐのとこ。そうそう、赤札堂があるところ。バス停の前の居酒屋。そうそうそう。その対面、その店。
みたいな会話することありますよね。
そういわれてもまったくピンともこない。
映像も浮かばない。
だけど相手は一生懸命説明しようとしてくれている。どこかのお店のこと。せっかく盛り上がっているところ
「いや、拙者には何のことやら」
と会話を日輪刀でバッサリ斬るのも大人げない。そんなときに便利なフレーズをこないだ発見しました。
それは
あー、銀行の方ね。
です。
そうするとほぼ100%「そうそう!USJ!」と勢いよく返してくれるので「うんUSJはテーマパークね。下着で行っちゃダメなとこ。そうじゃなくてUFJな、U・F・J!」と会話をDA PUMP方面に運べます。セットポイントです。ダブルスコアでセルビアに圧勝です。
温暖化の影響だよ。
このフレーズもかなりユーテリティが高いです。
たとえば仲間とBBQの買い出しに行くとする。「西友」「いなげや」あるいは「ダイエー」あたりの特価型スーパーをチョイスしたいところだが生憎近隣にはない。あるのは「アオキ」や「サカガミ」「クイーンズ伊勢丹」などのハイクオリティスーパー。
とはいえそんな目の玉が飛び出るほど高くは…あるんですね、これらのスーパーって。それだけ品物がいいんですが、腹ペコヤングの空腹を満たすために必要な量を確保しようとすると、レシートを確認してえづくぐらいの値段にはなります。
きっとカゴを載せたカートを押すあなたの隣で友人Aや友人Bは言うでしょう。
「高けえな…ステーキ肉」「うわっ!こんなにすんの?アワビ…」「エビ人数分って、買えるの?」「えっちょっと待ってサンマこれ無理…」みんなの顔から血の気が引いていきます。
そんな中、あなたのお目当てのエリコちゃんも不安そう。
そこであなたが口にすべきセリフが、冒頭のアレなんです。
「サンマ焼いて食ったら旨いだろうけど、漁獲量減ってるから高いよね。温暖化の影響だよね」
このフレーズでエリコちゃんはただ愚痴るだけの無能な友人Aや友人Bとは違い、背景や原因にまでまなざしを向けているあなたのことをリスペクトするでしょう。
そしてエリコちゃんはあなたを江東区のグレタ・トゥーンベリとして慕い、環境活動家として一目置くことになるのでした。
そう考えるとエルニーニョもまんざら悪くない、とは思いませんか?ちなみにエルニーニョは海面水温が高くなる現象なので磯釣り仲間からも評判悪いです。ハラペーニョと似てますが違います。
そしてラニーニャはその逆で水温が低くなるやつでラザニアとよく間違えられます。アーニャとは全く関係ありません。
昔から飲み屋で避けるべき話題として「野球」「政治」「宗教」この3つがあげられます。いずれも意見の対立が想定されるからです。
さらに「音楽」「演劇」「文学」もあまりふさわしくないと考えられます。この3つは深掘りすればするほど一つの潮流にこだわり、原理主義的な主張をはじめるようになります。
たとえば比較的温厚な音楽の話題でも。
「やっぱ布袋のカッティング最高だよね」
「カッティングはフルシアンテ一択だろ」
「いや、いまみちともたかに限るよ」
「お前プリンス聴いたことないの?」
「鈴木茂を知らないのか不幸だな」
「達郎のスパークルのイントロはさ…」
「絶対ナイル・ロジャースだって!」
ああ、めんどくさい。演劇も文学も同じ。ファンビジネスというものはすべからくこうなる運命なのですね。
決定的なのが「プロレス」でしょう。やれ新日だ、全日だ、DORAGONGATEだ、国際だ(もうない)レッスル夢ファクだ(もうない)FMWだ(懐かしいわ)うるさいうるさい、なのであります。
「なあ、お前の好きな団体はどこ?」
そんなカオスな状況でこう聞かれたら、こう返しましょう。
埼玉プロレス。
ほぼ100%「え?」と聞き返されますので「ええ、埼玉プロレス。サバイバル飛田率いる埼玉プロレスですがなにか?」とソッコーで打ち返す。それはもう女子バレー日本代表石川真佑の弾丸スパイクばりに。
「知らないの?埼玉プロレス。埼玉のスーパーの駐車場とかで興行やってんだよ。俺のベストバウトはサバイバル飛田VS空き缶ポイ捨てへの怒りボーキサイト・ミディアムだね」
一気にまくし立てればあなたは凡百のプロレスファンから一目置かれる存在になれます。なりたいですか?ぼくはなりたくありません。
こんなことばかり書いていると「こいつはうわっつらだけで会話しているんじゃにゃあか」と思われるかもしれません。
しかし、しかしですよ!
ここ数年、わたしたちは極めて「会話」の少ない空間に閉じ込められていました。
いやいやmeetとかさ、zoomでさ、という輩はうるさいうるさい、です。
オンラインの会話は会話ではない、とぼくは断言します。あれは情報の交換に過ぎない。
やはり会話というのはその場の空気が伴ってナンボ、でごわす。
だとしたら、その場の空気を盛り上げたり、頷くものにしたり、ぎゃふんと言わせたりするフレーズは、決して無駄なものではないといえるのではないでしょうか。
ぼくはこれからも無駄をだいじにしていきたいと思います。このような文章も含めて。
ご愛読ありがとうございました。
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