見出し画像

書店カバー烈伝:丸善の巻

あまたある書店カバーの中でもひときわ存在感を放っているのが、明治2年1月1日創業という歴史を誇るごぞんじ丸善のカバーであります。

丸善のカバーといえば日本地図、日本地図といえば丸善のカバーといわれるほど図案化された日本地図を大胆にあしらっています。

そして、どや、おまえさんの街にもあるやろ、丸善が。

と、主要都市に点在する丸善の店舗をあたかも全国ネットワークっぽく主張しております。

ぼくの配偶者は愛媛県出身なのですが、丸善のカバーを見るたびに北海道にも九州にも丸善はあるのに、なぜ四国にはないの?と聞いてきます。なぜなんでしょうね。松山、文学のまちなんですけどね。

表紙がうっすら透けて見えるのもご愛嬌
さて、この本はいったいなんでしょうか

しかし、何かと世知辛い昨今。やれハラスメントだ、やれコンプライアンスだ、やれ炎上だ、と以前なら気にもしなかったことに対してやたらピリピリする空気がまん延していますよね。

その流れで、この地方差別に取ろうと思えば取れなくもない、地域格差の火種にもなりかねなくもない、カバーの図案が全国の店長会議で問題になったのでしょうか。

最近、丸善のカバーにちょっとした異変が起きているようです。


ある日、日本橋の丸善で本を買いました。

書店員さんの「カバーおかけしますか」の声に食い気味に「お願いします」と頭を下げるぼく。職人芸のような手さばきでシュシュっとカバーをかける書店員さん。

話はそれますが書店員さんが華麗な手つきでカバーかける工程って見ていて飽きませんよね。あれ、人によって得手不得手があるのかな。見ているぶんにはみんな上手だなあと思います。

でも渋谷MODIの7階『HMV&BOOKS』の書店員さん(美しい女性)はどなたもかなりタイト目に折りを入れるので、販売時についているジャケットの袖を入れるのに苦労します。たいそう楽しい苦労です。

すみません、話を戻すと、そうやって書店員さんの手で丸善のブックカバーが装着された本を手渡されたとき、ぼくは目を疑いました。

堂々たる「丸M」のあしらいよ

ん?

なんだこれ。

いつもの丸善のブックカバーとは違う!

「日本の知、本の力。丸善」

なんか力強いキャッチフレーズまであしらわれています。

ヘルベチカで「MARUZEN」

これは!

まさに地域格差を是正、というか、なかったことにしようという意思決定が会議室で行われた結果に違いない。

丸善はしれっと書店カバーをこの高級感あふれるクラフト紙に切り替えて、丸善がある街の人は丸善へどうぞ丸善のない街にお住まいの方はどうぞ丸善のある街まで足をお運びくださいそこには日本の知、本の力が集まっているんですよおほほ、と、これまでの所業をなかったことにしようとしている。

やはり事件は会議室で起こっているのだ。

これはさっそくXで問題提起せねば…と思ったんですけど、よくよく調べてみるとこのカバーは日本橋店限定なのだそうです。

なーんだ、それならそうと早く言ってよ。

と、いうことでこの素敵な丸善ブックカバーは日本橋店で本を買えば入手できます。みなさんもお近くまでお寄りの際はぜひ。

ちなみに、この時に買った本はこちら!

カバーの袖にいいこと書いてある

写真家、幡野広志さんのエッセイ集『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』です。

息子さんのことやご自身のご病気のこと、旅先での出来事、羽釜の素晴らしさ、写真のこと。

写真が上手い人は文章も上手いというのが持論なのですが、幡野さんもご多分に漏れず。写真家特有の対象物を掴むセンスと解像度の高い表現力で日常のひとコマを鮮やかに切り取ります。

しかも文章とは無関係のようで、だけど読み手は関係を想像してしまう写真が添えてある。読者が参加できる“よはく”があるのが幡野さんの写真や文章のすてきな特徴です。

ぼくはこのエッセイの中では「チョココロネ」の話と「北九州のヤクザ」の話が大好きで、どちらも自分にはできないなあ、とおもうことが書かれています。

みなさんもぜひ、お近くの書店で手にいれてみてください。紙のブックカバーをつけてもらうのをお忘れなく。そして読み終えたら紙カバーは外しましょう。表紙の写真がとてもいいから。

触れることから、本との冒険は始まる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?