わたしの革下駄、三年目の夏
つい先日、Twitterでつながっている山本栄晶さんの投稿に激しく反応してしまった。
投稿文に「わかる!その気分!」と深くうなづき、思わず引用RTで共感した旨を吐露した。
しかし、実はその共感以外にもおもうところがあった。
山本さんの写真の4枚目、スナワチプロデュースの吉靴房製『革下駄』。この革下駄のいろかたち、佇まいを見て時の流れを感じずにはいられなかったのである。
数少ないわたしのnoteの読者のみなさんにはいまさら説明不要だと思うがスナワチというのは大阪に店舗を構えるレザーセレクトショップである。
主宰されているのは前田将多さん。元電通のコピーライターであり、わたしが知る限り唯一の日本人カウボーイでもあり、孤独とモーターサイクルと寅ちゃんとジョージくんを愛するサムライだ。
わたしがスナワチならびに前田さんのことを知ったのは2000年の春。なにげなく眺めていたTwitterから飛んだ「レザー・コラム」であった。
長らく文章を書く仕事をしていると、書いたものでその人の文章の実力がわかる。書いた量が多い人の文章には安定感があるのだ。このブログを読めば前田さんが達人であることは一目瞭然だ。
この短いフレーズに惹かれて、第一回オウナー募集にエントリー。見事、購入することができた。そして購入したことを忘れかけていた夏のある日、それはわたしのもとにやってきた。
世はファーストサマーコロナであった。しかも国民的コメディアンや芸能人の何人かが命を落としたこともあり、全体的に暗くて寒い夏であった。
しかしわたしはそんなことはおかまいなしに、革下駄を履いて元気にでかけた。特にリモートワークでもなかったし、オフィスのある渋谷は人が少なく、革下駄で歩きまわるには都合がよかった。
「ラクなの?」と訊かれたので「ラクではない」と答えた。「カッコいい!」と言われたので「おう、カッコいいだろ」と返した。
最初こそ硬さがあった革下駄だったが、いつの間にか馴染んでいき、そこそこ長距離も歩けるようになった。
いつしか夏のわたしの足元はこの革下駄以外ない、という状態になった。そして三年の月日が流れた。
山本さんの革下駄の写真を見てなにに感じ入ったか。なにをおもったか。
そうだ、俺の革下駄もこんなんだった!
である。
そうだそうだ、こんな色で、靴底もこれぐらいあった。
そして、引用RTでこんなことを書こうとした。
「山本さんの革下駄、きれいですね!美しい!いまのぼくの革下駄はずいぶんと…」
ここでふと気持ちが止まる。
ずいぶんと、なんだ?
汚れた?ヤレた?染みがついた?ヘタった?
一瞬でもそんなことをおもった自分は本当に馬鹿だなあ、と呆れた。鈴木雅之なら言うだろう、違う違う、そうじゃない、と。
そうなのだ。劣化ではない。汚れたのでもない。
わたしの革下駄はわたしと三回も夏を過ごして、正真正銘わたしのものになったのだ。それを「味」といわずしてなんといおう。
そこまでおもったとき、なんともいえない多幸感に包まれた。映画『ガチ星』で主人公があることがわかってうれしさのあまり踊りだすシーンがあるのだが、まさにそんな感じである。
ではご覧ください。こちらがわたしの三年目の革下駄です。
来年ぐらいには靴底のメンテで一度実家(スナワチ)に帰すことになりそうだ。困るのはその間、何を履いて過ごしたらいいのだろうか、ということである。いまから途方に暮れている。
買う時に胸ときめき、はじめて足を通した時に気持ちよく、時が過ぎてなお喜びをくれる革下駄。スナワチのプロダクツ全般にいえるのだが、なんとも贅沢な時間が味わえる。
ありがとう革下駄。ありがとうスナワチ。
そしてそのことに気づくきっかけを(夏バテ気味のnoteのネタを)くださった山本さんにもお礼をお伝えしたい。ありがとうございました。勝手にツイート引用しちゃってごめんなさい。
ちなみに今年も革下駄は5足限定で販売された。残念ながらすでに販売は締め切られていることだろう。なーんだ、とおもった方、来年に賭けてください。
そして今年購入できた方はそろそろお手元に届くころではないでしょうか。どこのどなたか存じませんが、よき革下駄ライフを!
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