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仕事ができるようになるまで

毎週月曜日は仕事に関するnoteを書いています。毎回絶対どんなことがあっても仕事に関することか?ああん?と詰問されると少し怯みますが、まあ、一応は仕事まわりの内容を心がけています。

で、今回は仕事ができるようになるまで、人はどのようなステップを踏むかという話。

ぼくはコピーライティングという技術の仕事を長い間こなしてきたので、コピーライティングができるようになるまでの話になりますが、でも他の仕事でもだいたい同じことがあてはまるんじゃないか、と思います。実際、居酒屋での仕事ができるようになるまでも同じ道をたどってたし。


まず最初にわかっておいたほうがいいのは、どんな仕事でもいきなりできることはない、ということです。

いや、中にはきわめて稀に、はじめからできたよという人もいるかもしれない。

でもそれは本当に、その人の適性や能力と仕事の性質が奇跡的にマッチしたレアケースなので参考になりません。

たいがいの人と仕事は最初に出会いがあり、おっかなびっくり、まずはできるところからはじめていくものです。

そうして、少しずつ慣れていく。これしかないと思います。

習うより慣れろということわざもありますし。

それではみなさん、がんばって慣れましょうネ!

  終
制作・著作
━━━━━
 ⓃⒽⓀ


で、終わればこんなに楽なことはありません。ひと言で慣れるったって、具体的にはどうすりゃいいのさ、という話ですよね。どうやって慣れていくのか。

これはですね、ズバリ、マネをする、ということです。

まわりにいる仕事ができる人をじっくりと観察して、とにかくマネる。ひたすらマネる。最初はなかなか上手くいかないはず。だけどそこで自分のやりやすいようにアレンジしたりせず、まずは完コピを目指しましょう。

ポイントはただひとつ。お手本をしくじらない、ということ。

ここで仕事ができる人のマネではなく、うっかり仕事ができない人のマネをしてしまうといつまで経っても慣れることはできません。それどころか自分も仕事ができない人になってしまいかねない。間違った方向での努力、ということになるんですね。

これは避けたい。

なので、できるだけ一緒の組織にいる人の中でできる人をつかまえてお近づきになる。これが大事です。


ぼくは若いころ、六本木のコピーブティック(小さなプロダクション)でボスのシゴキにあっていました。能力がないのがいけないのですが、それはそれは厳しく、激しく、怒られて叱られて詰られる毎日でした。

「バカ」
「ボツ」
「ボツだ」
「ボツね」
「なんでこんなこともわからないんだ」
「木を見て森を見ずなんだよ」
「お前のコピーには学がない」
「お前のコピーには文学性がない」
「ゴミムシ」
「よくお前みたいなヤツがこの世界に」
「いつまで突っ立ってんだよ」
「ほらなんか言えよ」
「本当にダメだなあ」
「お前給料返せ」
「本当に脳みそあるのか」
「考えろっていってんだろ」
「面白いね、これがコピー?」
「なんだこのおかしな日本語は」
「どうすんだよ印刷屋待ってんぞ」
「ぜんぜんダメ、やりなおし」
「コピーになってないんだよ」

いくら心も体も頭までラフでタフに作られているぼくでも、さすがにこたえます。その時もある湘南の新築マンションのキャッチコピーを300本以上書いて、全部ボツ。徹夜も3日目を迎えました。

ぼくはフラフラになりながら「あーもうやめたい。もう帰りたい。もう寝たい」とひとり金谷ホテルマンション505号室で唸っていました。

なんとかこの局面を打破できないか。ありていに言えば逃げることができるか。

深夜2時を回ったところで、妙案が浮かびます。

そうだ、気が狂ったフリをすれば、ボスも少しは同情してくれるかも。そうだよ、いくらボスでも人間の心ってもんがあるはず(実際にはありました)。そして家に帰らせてくれるはず。そうだ、そうだよ、そうに違いない。

ぼくはすがるような思いでデスクの下に潜り込みます。そして体育座りをしながら白目を向いて「あわわわわあわあわわわわあわわ」と自分の中で理解する「気のふれた人」のフリをしました。

3分後。

こんなことをやっていたら本当に気が狂うな、と思い直してデスクの下から這い出てきたぼくは、ふたたび絶望の淵に。

もういいや、どうなったって。もういい。

ヤケクソになって、書庫に並んでいたボスの作品集をパラパラを眺めはじめます。ああ、俺もこんな感じのコピーが書けるようになりたかったな。東京に来てコピーライターの名刺を持つだけで僕は高く跳べると思っていたのかなぁ。スラムダンクの矢沢くんもこんな心境だったのかも…

そのときです。

ボスが書いたコピーの、ボディコピー(本文)の中にいくつか、いま自分が書かなければいけないキャッチコピーのヒントがあるじゃないか、あるじゃないか。

これだ!

ぼくは夢中になってボスの作品を片っ端から読み込んでいきます。一字一句、舐めるように。するとヒントはおろか、そのままキャッチにつかえそうなものもひとつやふたつではありません。

宝の鉱脈を見つけた、とはこのことか。

翌朝、いくつかのキャッチコピーをこしらえて提出。ボスは「ん?なんだ、ちょっとはマシになってきてんじゃねーか」と首を傾げながら△をつけて、語尾や副詞に赤を入れて返してくれました。

よかった…
これで帰れる…

味をしめたぼくはそれから、キャッチフレーズだけでなくボディコピーについてもボスの仕事をマネするために徹底的に写経しました。

するといつしかボスからの罵詈雑言はなくなり、100回に1回ぐらいの割合で「お前、上手くなったな」と褒めてくれるようになりました。そのたびに(そりゃそうだろ…もとはあんたのコピーだからな)と思っていました。


それから5年以上のブランクを経て、30歳過ぎでふたたびコピーライター職に戻ったとき、何が自分の支えになったかというと、この時のボスのコピーを徹底的にマネたことでした。

しかもマネていたのは表現だけでしたが、いつの間にか思考回路までしっかりとトレースできていた。完全に自分のものになっていました。

自分の技術になっていたからこそ、そこから先のアレンジもできるし、さらに拡げたり深めたりもできる。気づけば、あれほど欲しかったオリジナリティのようなものが手に入っていました。

遠回りだったかもしれません。
効率は決して良いとはいえないでしょう。
でも、そのあとずっと、長きにわたって食べていける実力になった。

必ずやってくる。
マネが、マネーに変わる日が。

たぶんどのような職業にも通じることだと思います。いま駆け出しでなかなかうまくいかないヤングのみなさん、ぜひ仕事ができる人のマネに取り組んでみてください。

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