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手触り感のある場が、新たなつながりを生む - 展覧会「土着の知 Local Techniques Japan」から見えたこと:後編

2024年2月17日から2月29日まで、東京・丸の内のGOOD DESIGN Marunouchiにて、展覧会「土着の知 Local Techniques Japan」が開催されました。この展覧会は2月21・22日開催の「サステナブル・ブランド国際会議2024東京・丸の内」に合わせた特別企画で、地域に根差している伝統技術や自然資源などを活用し、新しい視点やデザインを取り入れ、地域振興などにつなげている18件の事例が展示されました。

前編では、この展覧会においてメインのデザインモチーフとなった「廃瓦」にフォーカスし、その課題と可能性についてお話を伺いました。後編では、展覧会の実施に至った背景と、今後の展開について探っていきます。

■インタビュイー紹介
株式会社博展
サステナビリティ推進部

 部長 白川 陽一
 
サーキュラーデザインルーム 
 クリエイティブディレクター 鈴木 亮介
 デザイナー 福地 航大、丸山 顕章、岡本 悠花
 プロダクトマネジメント 熊崎 耕平
※イベントの循環を軸に、ゼロ・エミッションイベントの実現を目指すチーム


1.技術や地域資源に触れられる場をつくりたい。環境省との共同プロジェクトをもとに

ーそもそも、GOOD DESIGN Marunouchiで展覧会を開催することになった経緯とは?

鈴木:僕たちが所属している株式会社博展は、毎年2月にサステナブル・ブランド国際会議というイベントを主催しています。2023年より東京・丸の内でのエリア型開催となり、主催者としてもそれに合わせてコンテンツを実施できないか、という話が持ち上がりました。

そんな折に、公益財団法人日本デザイン振興会の担当者の方をご紹介いただきました。日本デザイン振興会は、「グッドデザイン賞」を主催している団体。デザインの力で、人とあらゆるものとの関係性を繋ぎ直し、共創を生み出すことを目的として活動されています。そんな彼らが持っているGOOD DESIGN Marunouchiの空間を、イベント会場として提供していただけることになりました。そうして2023年2月に開催されたのが、展覧会「循環のレシピ - サーキュラープロダクトデザインの現在地」でした。

2023年2月開催「循環のレシピ - サーキュラープロダクトデザインの現在地」

この展覧会の会期中に、環境省の方がいらっしゃったんです。そしてありがたいことにイベントの企画をご評価いただき、とあるプロジェクトの入札に参加できないか、とお声がけいただきました。そのプロジェクトとは、「気候変動脆弱コミュニティ強靭化LLA・NbS事例収集発信業務」です。

世界のあらゆる国や地域が、干ばつ・海面上昇・豪雨など、気候変動の影響を受けています。しかし、経済的な理由から気候変動に対する適応策を実施するのが難しい状況にある地域も少なくありません。そこで、日本各地域の伝統技術や自然資源を活用し地域を活性化させている事例を集め、英語で発信するウェブサイト「LIBRARY(ライブラリー)」を立ち上げることになりました。日本は資金援助によって適応策を促すことも行っていますが、このプロジェクトは資金援助ではなく現地の適応の行動変容を促すことを目的にしています。

日本は海に囲まれ、自然資源が非常に豊かな島国。そのため全国各地での伝統工芸・技術、循環産業、自然資源の活用、地域振興サービスなどの営みも多彩です。これらの事例を諸外国に向けて発信することで、対象地域の方々が現地特有の資源を活用し、新たな産業を起こすことや、雇用機会が創出されることを目指しています。

このウェブサイトの企画、制作、掲載事例の取材や編集ディレクションに、博展が携わらせていただくことになりました。

クリエイティブディレクター  鈴木さん

さて、今年2024年のサステナブル・ブランド国際会議も丸の内での開催に。「昨年に引き続き、GOOD DESIGN Marunouchiで展覧会をやりましょう」ということで、テーマの検討から始まりました。昨年の「循環のレシピ」もそうですが、この展覧会のコンテンツはサステナブル・ブランド国際会議のテーマに即して企画されています。今年は「REGENERATING LOCAL」、つまり「グローバルな課題に対してローカルで解決策を探ること」がテーマで、まさに環境省のプロジェクトにマッチしていたんです。

そこで、ウェブサイト「LIBRARY」に掲載された事例を活かし、「伝統工芸や、日本の自然由来の資源、地域に根付いたもの」をリアルで見て、触れて、学ぶことができる場として、今回の展覧会を設計することに。また、ただ事例を展示するだけではなく、空間デザインのモチーフとしても活用してみたり……それが前回お話した廃瓦ですね。(前編はこちら↗)

この展覧会を通して、地域の技術や資源を知っていただきたい。日本の豊かな自然環境を再認識し、地域が直面している課題を理解する機会となってほしい。そんな想いで展覧会「土着の知」は企画されたんです。


2.展覧会を通してチャレンジできたこと

ー展覧会「土着の知」ではどのようなチャレンジができましたか?

熊崎:今回空間デザインのモチーフとなった瓦については、検証のプロセスが面白かったですね。成形するにあたって、どんな比率で混ぜるべきか。どのくらいの粘度になるのか。乾くまでにかかる時間。そういったことを自分たちの手を動かして探っていきました。

成形の検証

福地:あと、今回は空間装飾に落とし込むことがサーキュラーデザインルームとしてのメインの目的でしたが、プロダクト化にも挑戦しています。いずれも未完成ですが、プロトタイプとして展示しました。

色の違いを活かし、チョークに
接着剤としても検討。ラフにはみ出した部分も味になる。
やさしい色味の和紙に。メンバーが自宅で紙漉きを行ったそうです!

鈴木:いずれもまだ実験段階ですが、瓦の「埋め立て処理するしかない」という課題に対して、「延命させる」ことにはチャレンジできましたね。左官仕上げ材やチョークなど、リプロダクト化して、新たな役割を与えることができました。

熊崎:それに、今回はテコラを固めるつなぎとして木工用ボンドを使用したんですが、最終的な目標としてはつなぎの素材にも拘りたい。自然由来の素材であったり、安全に廃棄できる素材であったり。そうして再利用のプロセスでも環境に配慮することができれば、もっと可能性が広がるんじゃないかな


3.手触り感のある場が、新たなつながりを生む

ー展覧会を終えて、次なる取り組みとして動き出していることはありますか?

熊崎:瓦という題材に関して、切り離して考えられないのは、災害の問題。震災などで家屋が倒壊してしまったとき、やっぱり回収して埋め立てるしかないそうなんですね。それをどうにかしたい、という想いを亀山さんは持っていて、東日本大震災の時にも現地まで廃瓦を回収しに行ったそうなんです。それらを粉砕してテコラとして、再利用する。それも支援のひとつですよね。そして今年1月、展覧会の準備をしている時期に、能登半島地震が起きてしまった。全国テコラ会では能登瓦を取り扱っていることもあり、被災地に対して貢献できることを探っていらっしゃいました。

他にも、出展者さんたちとは連絡を撮り続けています。例えば、京都の漆職人の方とは、漆を使って新しいプロダクトを一緒に開発できないか、とか。瓦に限らず、こうした伝統技術や地域資源を扱う方々とのつながりができたのはありがたいです。

それに、来場されたお客様と出展者さん、出展者さんと出展者さんというように、イベントを通して新たなつながりが生まれています。全国でものづくりを行っている方々にとって、プロトタイプやプロダクトを作って社会に向けて発信できる環境、さらにその実物に触れてもらえる場がとても大事なんだと思います。今回の展覧会のようなリアルの場に、さまざまな方が集まって情報交換ができて、そこからまた新しいアイデアが生まれる。このような「手触り感のある場」を提供できたことは、良かったと思います。

サステナビリティ推進部 白川さん

白川:博展は、展示会やイベントを軸に仮設の空間づくりをしてきた会社です。常設の建築では、法律やさまざまな品質の基準をクリアした上でアウトプットしなければならない。それに対して、仮設のものづくりであれば、新しい素材や技術を試す余地がある。「土着の知」で言えば、廃瓦を空間の装飾に使ったことで新たな用途を見出すことができました。
実証段階やプロトタイプであっても、社会に向けて発信することで、「この素材でも何かできないかな?」「うちの技術と掛け合わせられないかな?」と反響があります。こうした出会いの場を提供できたことが、僕らのような会社がハブ・媒介となったことの意味だと思います。


編集後記

取材:渡邉)私も会場に伺いましたが、GOOD DESIGN Marunouchiがあるのは、多くのビジネスパーソンが行き交うエリア。会期中には通りすがりの方もよく立ち寄ってくれたとのことです。東京・丸の内の街中で、全国の伝統技術や地域資源との偶然の出会いがあるなんて素敵ですね。そこからアイデアの輪が広がっていくことが、今から楽しみです。

左から博展 鈴木さん、熊崎さん、福地さん、岡本さん、渡邉、白川さん、丸山さん(オンライン参加)