夏期講習

同じクラスの友達と歩道を歩いていたら、空から雲が流れ落ちてきた。
1週間も欠席が続いているクラスメイトの家へ行った。
玄関先で、「病気なのよ」とだけ母親がいい、私たちが手土産に持っていったショートケーキをそのまま持って帰された。もちろん、皆で書いた手紙も受け取ってもらえなかった。母親はただ一文字に唇を結んで左右にちいさく首を振り、NOの意思表示をした。
犬がついてきたので、今日野良犬はなかろうが、と思いつつ首輪を見るとクラスメイトの家の住所が書いてあった。
私たちは道端にしゃがみ込み、その白い雑種犬に3つのショートケーキを食べさせた。クラスメイトと、私たちニ人の分だった。一緒に食べようと思ったのに。
空から雲が流れ落ちてきた。
気を落としたショートケーキの、三人分のクリームがとろりとろりと流れ落ちて下水に捨てられていくような気持ちだった。
(ケーキが1つ足りなかったんじゃない?)
(だから4つにしようって言ったのに)
(お母さんの分がなかったから、きっと怒ったんだよ)
空になった白い箱をぶらぶらさせながら、受験を控えた二人のおかっぱの女の子は、互いに言葉にはできないものを抱えながら無言で帰路を歩いた。
何か引っかかる、夏休みの思い出であった。15歳。
私たちはどこへ行くのか。
大人たちはどこへ行ってしまったのか。
犬が最後の苺をペロリと食べて、私たちに尻尾を向けて何事もなかったように帰っていった。 

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