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『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』

『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』

著者:小川さやか
出版社:光文社(光文社新書)
発行年:2016年7月20日

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(内容紹介)
 わたしたちはしばしば、「働かない」ことに強くあこがれながらも、計画的にムダをなくし、成果を追い求め、今を犠牲にしてひたすらゴールを目指す。しかし世界に目を向ければ、そうした成果主義、資本主義とは異なる価値観で、人びとが豊かに生きている社会や経済がたくさんあることに気づく。「貧しさ」がないアマゾンの先住民、気軽に仕事を転々とするアフリカ都市民、海賊行為が切り開く新しい経済・社会……。本書では「その日暮らし、Living for Today」を人類学的に追究し、働き方、人とのつながり、時間の価値をふくめたわたしたちの生き方、経済、社会のしくみを問い直す。
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 心惹かれる帯を見て買いました。

◆失敗しても、誰かの稼ぎで食いつなぐ
◆最小限の努力で生きる
◆借金を返さなくてもよい仕組み
◆法的には違法、でも社会的には許される商売

 本書を読んで、Living for Today(その日その日を生きる)という生き方を、私は今まで直視してこなかったのだなあと思いました。震災やコロナという社会的に大きな出来事が起きるたびに、「その日その日を生きる」ことが大事なんだと思い出すのですが、時間が経つにつれてその実感がまた日常に埋没していく……その繰り返しです。「いまを生きる」という姿勢は、私にとっては言うは易く行うは難しです。(難しく考えすぎなのかもしれませんが。)
 だから、例えば著者が提示するタンザニアの事例には衝撃を受けました。タンザニアの都市部で働く方々がいう「仕事は仕事」という言い回しは、〈生きぬくために必死で仕事を序列化する指標に構っていられないのではなく、それに拘泥しないで生きていることに特有の価値を見出しているようだ〉(p.56)ということなのですが、最初はうまくこの文章を消化できませんでした。というかそういう価値観を把握したくない自分がいたのかもしれません。了見が狭いです。
 で、著者のいう「仕事を序列化する指標」というのは、報酬の多寡や社会的評価の高低、社会保障の有無などを指します。著者が現地に飛び込んで得た事例を追ってみますと、確かにそれらを重要視していない生き方を送っているようです。すごい。
 また、ニュースでたびたび報道される海外のコピー商品や模造品などについても本書で取り上げられており、そこには私の知らない世界が広がっていました。そういうニュースを見るたび、模造品をつくって売りさばいている方々に、若干の嫌悪感を覚えていたのですが、本書を通して売る側も買う側も「それ相応の背景」があることを理解し、また私自身がもつ常識(と思われるもの)とはまた違う観点があることに気づかされました。〈法的な違法性と道義的な合法性〉、本当に言いえて妙です。

 Living for Todayという生き方もあるぞ! ということを忘れないようにしたいです。

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