見出し画像

8万3千円の価値を考える

読み物の話をしよう。

先日、Twitter閲覧中に、気になる見出しの記事が見つかった。

“ロブション”のデリバリーを本音で食レポ!83,000円の価値はある?
(C)扶桑社

改めて見ても、何が何だかわからない。何故ジョエル・ロブションなのか、何故8万3千円なのか、何故自腹なのか。すこぶる意味がわからない。

「端数の3千円で、十分満足いくデリバリーはできるだろう!?」

などという、野暮な突っ込みを出すのも憚られる。


気になる内容はと言うと、期待を裏切らない、

「どういうことなの…(困惑)」

なものだった。
まだ記事を未読の方もいることを考え、冒頭の一部のみを掻い摘んでお伝えすると、

・ジョエル・ロブションがテイクアウト弁当(¥83,000)をリリース決定
・しかし肝心のレビュー0件。内情がさっぱりわからない
・好奇心ムラムラ。乗るしか無い、このビッグウェーブ(超局地的)に!
・えっ……支払い、自腹なの……?(滝汗)

で始まる。実に潔かった。どこまでも、良い意味で愚行だと思う。小賢しい知恵で行動を抑制し、自分ルールに縛られている人間には、絶対に踏み超えられない一線だ。


Twitterにブログ、動画、Instagram等で、自分が惹かれる言論や作品には、わかりやすい方向性がある。だいたい8割が「憧憬・賛辞」で、2割弱が「共感・安心」だ。世の中、本当に憧れる人だらけで溢れていると、見聞が広まれば広まるほどにそう思う。まったくもって幸せな限りだ。

画像1


しかし、稀にこうした大まかなグループに該当しない、例外が存在する。
こちらの方がそうだ。
憧憬も畏怖も抱き、共感と警戒心を同時に覚える。

8万円を出して弁当を注文する……
自分でも、やろうと思えばやれる。しかし、とてもやる気にはなれない。「やれ。」と言われれば、全力で拒絶するだろう。
にも関わらず、「やれるものなら試してみたい」行動ではあるのだ。いったい内情がどんな物か、気にならない訳がないのだ。

8万円の弁当。しかも4人前である。
こちらの手記にそれらしき記載はなかったが、1人で全てを食べきることができなかった、と書かれていることから、恐らく同伴者はいない。
己の胃袋のみを頼りに、彼女は注文に向かったのだ。

8万円の弁当。しかも実費である。
原稿料に関して、彼女は明確に「赤字である」と述べている。無理もない。SPA!がどういう体制か、アクセス数によるボーナスがあるのかどうかはわからないが、この文量の一般的な相場からはかけ離れた経費だ。自分の経験で言うと、カラーページでも2~3万から、税金を差し引いた額なら上等ではないかと思う。
予算を超過する出費を厭わず、彼女は注文に向かったのだ。

8万円の弁当。しかもジョエル・ロブションである。
どう考えても、その金額を店で支払い、店で直に食べた方が美味い。誰もがそれを知っている。
それでも、彼女は注文に向かったのだ。

何のために?
この途方も無い蛮行を可能にしたのは、間違いなく「好奇心」だろう。

8万の弁当が、いったいどんな物なのか?に対する興味。
身銭を切って、8万の弁当を買いに走った人間に対する、世間の反応や拡散力。
原稿を書いて世に送り出した後、自分自身に起こる何らかの変化。ペイできるほどの、反応は得られるのだろうか。反応に値するレビューを手掛けるだけの実力が、自分にあるのだろうか?という期待。

「好奇心」の対象を挙げていけばきりがない。

傍目に見れば
「ねーよ!!」
かもしれない。実際、読んでいる最中、
「言わんこっちゃねぇ…!!!」
ともなった。

だが、本人が抱いた感情の紆余曲折&乱高下の様は、清々しいほどにリアルで容赦がなかった。小手先の妄想や誤魔化しでは、絶対書き得ない内容だ。
「押すなよ!絶対押すなよ!」
に近い、オンリーワンの何かを感じずにはいられない。

間違いなく、彼女は優秀な物書きだ。
好奇心に突き動かされ、書きたいもののために邁進する力が、疑いようなく備わっている。ローコストで安定してペイできる文章を手掛ける能力は、売文家にとって、重要な資質の一つである。しかし一方で、
「8万3千円の弁当を自腹で注文した」
十字架、もしくは勲章を背負って生きる道を選べるのも、他に代え難い資質の一つだろう。

好奇心は猫を殺すと言うが、確かに彼女の諭吉は、複数枚天に召されていった。
一方で、売文家としての彼女にとって、この手記は命綱になるかもしれない。唯々諾々と消費されるだけの死に金とは違う。間違いなく、生き金だろう。

後読感(造語。後味の良い文章)が実にスッキリしたレポートだった。
ご活躍に、今後も注目していこうと思う。

<了>


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?