曇天泥沼街話
どんよりとした曇り空だ。天気予報のオネーチャンが「午後から晴れるでしょう」と言っていたが、信じないぞ。絶対雨が降る。
「今日も変わらない、つまらない顔してんな。」
「お前がつまらないからな。」
「おもしろい話してくれるなら、おもしろくなるんだぜ?」
「じゃあ、誰にもいってねえ、とびきりのやつ、教えてやるよ。」
「ほう・・・。」
最近この街に来たというコイツは、日雇いの仕事をしながらのらりくらりと過ごしている。ある時は、飴屋の売り子に、ある時は劇場の舞人に、ある時は路頭の詩人に、ある時はー
コイツと顔を合わせない日はないが、コイツの名前や住んでる場所、この街に来た目的、コイツの「本当の」職業など、コイツの本質に繋がる情報を何も知らない。もしかしたら人間でないかもしれないな。だってこの街にコイツが来て、もう5年だ。「最近」というのは「嘘」だ。コイツは騙しているつもりかもしれないが、俺はこの街にお前が来た時からきちんと数えてた。だって「これ」が俺の職業だから。
通常なら2年が限界だ。まれに2年以上いるやつがいるが、そいつは人の皮をかぶった何かだ。そういうヤツは無視をするに限る。
「この街に、狼が出たそうだ。」
「野良の犬と猫とネズミしかいないこの街に?」
「そうだ。今のところ、被害は出ていない。だかな、それは向こうが機会をうかがっているだけで、その時が来たらー。全てが終わりだ。」
「たかが一匹だろ。それに、ハンターならこの街に溢れるほどいるじゃないか。この前、ハンターの仕事したけどよ、いい金になんのね。」
「狼はいなかったか?」
「さあな。犬だと思ってたけど本当は狼だったかもしれないな。」
「捕まえた獲物はもう売ってしまったか?」
「切屋のおっちゃんに渡したよ。そうだな、昨日、お前と飯食っただろ。」
「なるほど、もう俺の中にいるってことか。」
「狼が出たと言ったな。賞金は出てるんだろ、俺、仕留めちゃってもいい?」
「いいけど、外れだったらどうするよ。ただの人殺しじゃん。」
「切屋に持って行くさ。高値で売ってやるよ。」
「客は選んでくれよ。どうせなら美人の腹に入りたい。」
「お安い御用さ。」
指で作ったピストルを額に当てられて、やられたフリをする。こいつはハンターとして凄腕かもしれないが、武器を使うのは仕事がある時だけで、普段は持ち歩かない。
「狼、どこにいるの?」
「意外と、美人なネーチャンがかわいがっているかもしれないぜ。狼だって選ぶ権利はあるさ。」
「獣のくせに生意気な。」
遠くで「狼が出たぞ!」という声が聞こえた。逃げ惑う声がこちらに近づいて来る。
「選ぶ相手を間違えたのかな。」
この街で武器を持たないコイツはいつだってのんびりしている。俺は小さく息を吐くと、銃を片手に大きく足を踏み出した。
*2年前に下書きに保存されてたやつです。全然違う内容になりました。
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