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こんな作品も!? 『大吉原展』で見られた浮世絵の大画面作品が圧巻でした

東京藝術大学の大学美術館で、『大吉原展』がはじまりましたね。わたしは報道向けの内覧会で見に行ったのですが、とても良かったです。なにが良かったかと言えば、今まで見たことのなかった、浮世絵の絵師たちによる、屏風などの大きな作品が見られたことです。

例えば歌川豊春《新吉原春景図屏風》個人蔵、伝 古山師重《吉原風俗図屏風》奈良県立美術館蔵、喜多川歌麿《吉原の花》ワズワース・アテネウム美術館蔵、歌川豊春《新吉原玉屋の張見世図屏風》大英博物館蔵などです。

やっぱり美術において、大きいっていうのは重要だなと改めておもいました。大きいだけで気持ちがアガりますよね。さらに単に大きいだけでなく、情報量も多かったです。いずれも吉原の街や遊郭の内部を描いているのですが、その中には遊女だけでなく様々な客や見物人などが描き込まれています。絵を見ていると、その描かれた場所の喧騒や空間の躍動している様が、感じられるます。もちろん男の幻想という面は多分にあると思いますけれど、描かれたすべてがフィクションではないわけで、当時の吉原のパワーみたいなものの一端に触れられる……という感じの展示群であり展覧会でした。

ということで、どんな展示品があったのかについては、下記サイトを御覧ください……PRっぽくてすみません。

ここでは展覧会というか展示されている作品がどれだけ素晴らしかったかを、もう少しnoteしておきたいのですが……まぁ大吉原展に限らず、美術作品の素晴らしさを文章で表現するのって難しいですよね。うんちくなんかを語るのには、文章は便利ですけれど、なにに心を揺さぶられたのかを誰かに伝える文章というのは……まぁ難しい。ということで、画像データを自由に使って良いですよぉ〜と言ってくれているイギリスの大英博物館の写真を使って、作品を紹介する動画を作ってみました。


■張見世で客を待つ遊女たちの様子が描かれた屏風

まずは歌川豊春さんという方が描いた《新吉原 玉屋の張見世図屏風》です。いやぁ、浮世絵師がこんな屏風を描いていたなんて、知りませんでした。眼の前で見たときには「これって原寸ですか?」という感じの迫力です。展示用のガラスがない状態で見てみたいなぁと思ったものです。

画題の「張見世」については、大英博物館の当作品の解説文を読むと、単刀直入に、分かりやすく記されています。

the latticed display room known as the "harimise."

the latticed は、格子状のデザインや構造をもつものという意味らしいので、「格子窓のある展示室」といったことです。何を展示しているかと言えば、女性たち自身ですね。外を歩く男性から見えるように、通りに面した遊郭の格子窓のある部屋……張見世……で、客を待っている遊女たちを描いている作品です。

こんな文化が欧米の人たちに知られるなんで、恥ずかしい……なんて思う人もいるかもしれませんが、これに関しては日本“独特”というわけでもなく、例えばヨーロッパであれば「オランダ窓」が、似たような雰囲気なのかなぁという感じです(吉原もオランダのも、実際に見たことがないので…あれですけど)。写真やネットがない時代のPR方法ということですね……と言いつつ、こうした様式は欧州のいくつかの場所や、日本だと大阪で、まだ行われているようです。

それを踏まえたうえで作品を見ていくと……(赤い)緋毛氈の上に座っている手前の5人が、大英博物館がいうところの「最高位ランクの花魁(おいらん)」です。まぁ張見世に出なくても良い、さらに上のランクの花魁もいるのですが、彼女ら5人は、こうして表に出てくるなかでは最上位ということです。

その花魁を囲むように座っているのが、振袖新造ふりそでしんぞです。大英博物館の解説では、「花魁の弟子たち」みたいに書かれていましたが、まぁ弟子というか後輩に近い感じでしょうか。その新造さんたちから見ていくと、窓の外の客を見ていたり、鶴を折っていたり、こっくりこっくりと居眠りしていたりと、のんびりとした雰囲気です。これは、それほど客がいない午後の夕方までの営業時間(正午から午後4時頃)だから、のんびりとしているそう。その新造さんのなかで、三味線を持っている女性が、清掻(すががき)を弾く担当者。これは「営業していますよぉ〜」という、ラーメンや豆腐屋さんの「チャルメラ」の、超優雅なバージョンとでも言うのでしょうか……まぁそんな感じでしょう。

画面手前の花魁5人も、のんびりとタバコをすったり、話をしている雰囲気です。煙草盆などが置いてありますが、一つ小さな漆塗りの小箱が置いてあるんです。この黒漆の小箱に、金の「飛び鶴」の紋が入っているのですが、動画でもなんとか分かるかと思います。この飛び鶴の定紋から、その小箱の前に座っている女性が、この絵が舞台としている「玉屋」に所属していた「小柴」さんではないかと言われています。そして、その小柴さんが張見世に出ていた時期に、同じように玉屋で人気だった他4人の名前も調べると分かるんですね……ただし、どれが誰というのはわかりませんけど……というのと、この人が小柴さんなのか否かにも諸説があるので断定はできません。

ちなみに新造さんの中で、折り鶴を折っている女性がいますよね。大英博物館の解説(過去の図録などから転載しているよう)によると、「塗り直して元の姿を完全に取り戻しました!」的なことが書いてあるのですが……「いや、どう見てもこの子だけ、描き方が違うだろw!」という感じの仕上がりになっています。まぁ現在の感覚でいうと、一番かわいらしいかもしれません(諸好みによります)。

【2024年4月8日追記】
絵に描かれている「飛び鶴」の漆塗りの小箱が、どんなものなのかと思っていたら、東京国立博物館(トーハク)に「こういうものだったのでは?」という小箱を見つけたので、参考として貼り付けておきます。

《松葛蒔絵香合 H-422》室町時代・16世紀|木製漆塗

上は、香合(こうごう)という、香を入れておく小さな小箱のことを言うそうです。本当に小さなもので、縦横高さがそれぞれ数センチ……といったくらいです。それよりもひと回り大きな箱が隣に展示されていましたが、こちらは沈箱(じんばこ)というもの。沈香(じんこう)などの香木を入れておくなのだそうです。飛び鶴の定紋の小箱は、こういうものだったのではないかと思いました……が、間違っている可能性も大です。

《須磨浦蒔絵沈箱 H-4796》
室町時代・15~16世紀|木製漆塗
雲州松平家伝来、松平直亮旧蔵

トーハクには煙管(キセル)も置いてあることがあります。いま展示されているのは、《七宝流水文煙管》。よく浮世絵で描かれている女性がくわえているのは、もっともっと長い煙管(キセル)ですが、まぁこういうもので、ぷかぁと紫煙をくるらせて、吸い終わるとカツンっ! と煙草盆を打って、煙草の吸い殻を落とす……みたいなことを、時代劇で見かけますよね(今は地上波では煙草シーンを流せないのかもしれません)。

《七宝流水文煙管 E-17705》江戸時代・19世紀|銅胎 七宝

■遊郭の様々なドラマが描かれた《青楼二階之図》

屏風のように大きなものではありませんが、歌川国貞の《青楼二階之図》というのも、見ていてワクワクするというと怒る人も出てきそうなので、真面目風に書くと……「江戸時代の遊郭の中の様子が垣間見られる点で、非常に興味深い作品です」というような、映画監督やドラマの脚本家などであれば、この絵を見ただけで、いろんな物語が頭の中を駆け巡るかもしれません。

絵の中には、大田南畝の狂歌をしるした掛け軸が隠れています。「おいらんに 棹姫さんの をつせんす おめでたう おす春は来にけり」(『狂歌千里風』)。意味としては「花魁や棹姫さんが、舟を漕いで春を連れてきてくれました。おめでとう! 春がやってきましたよ!」といった感じです。ほんとうに色んなシーンが(5枚の連作の)一つの作品に描かれていて、見ていると楽しいです……あ、楽しいって言葉は不謹慎に感じる方もいるかもしれませんね……悲喜こもごもが描かれていて、とても興味深いです。

■そのほか、ネットで見られる浮世絵

大英博物館のWebサイトなどは特にそうですが、欧米の博物館や美術館は、高精細データがネット上で公開されている作品が少なくありません。ありがたいことです。アメリカのワズワース・アテネウム美術博物館のサイトでも、今回の『大吉原展』で展示されている何点かが見られます。

下記サイトの右端にある喜多川歌麿の「Cherry Blossoms at Yoshiwara」という作品が、今回の『大吉原展』で《吉原の花》として展示されています。こちらの作品は、国内にも所蔵館がありますが、もしかするとワーズワースのものが一番状態が良いのかもしれませんね。下サイトですごく拡大できます。こうして拡大して細部まで見ていくと、気がつくこともあり、また『大吉原展』で、本物を見て確認したくなりますね。

以下は大英博物館に所蔵されているもの作品たちです。

↑ 勝川春潮

↓鳥居清長『新吉原江戸町二丁目丁子屋之図』大英博物館

『大吉原展』には、木版画の浮世絵も多く展示されています。そうした作品は、海外の美術系博物館のサイトで、高精細データを見られる例が多いです。これからリンクを増やせていければと思っています。

それではまた

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