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トーハク『見返り美人』と初音ミクとのコラボ

「美術」ってなんでしょうね。

様々な「美術」といわれるものを見てきましたが、いまだに「美術」がなんなのか分かっていません。「分かっていない」というのは、文字通りに分かっていないんです。それは、「良さが分からない」と言い換えてもよいでしょう。

菱川師宣『婦女図(見返り美人図)』(部分)東京国立博物館蔵

先日、東京国立博物館トーハクに本物が展示されていた、菱川師宣ひしかわもろのぶの『婦女図』。「見返り美人」と呼ばれる人気の絵画です。着物の精緻に記された柄は、すごいなと思いますが、特にこれを見て、なにか心が揺さぶられるようなこともありませんでした。

こうした人は、わたしだけではない……そういう確信はあります。むしろ、そうした人の方が多いのだと思うんですよね。おそらく、そのことをトーハクの職員の方々も知っていて、様々な手法で、その魅力を伝えようとしています。

トーハクの平成館で、特別展『国宝 東京国立博物館のすべて』が始まってしまい、現在はすでに展示されていないのですが、平成館の入口近くでは、この『見返り美人』の魅力を伝えようとする試みの一つが行なわれていました。『見返り美人』と初音ミクのコラボです。

初音ミクは、人気のバーチャルシンガーです。

一時期、NHKをはじめとするテレビ・メディアが取り上げていたことがあったので、名前を聞いたことがある……くらいの人は多いでしょう。ただ、実際にどんなものか知らなければ、下記のYouTubeを見てみると良いかもしません。

すでに昨今では、リアルな現実世界から、仮想のバーチャル世界への移住者も増えています。そんな中で、「美術」と言われるものも、バーチャルで活況を呈す未来が、すぐそこまで来ています。いや、現代美術に関していえば「すでに主戦場はバーチャルな仮想世界に移っているよ」と断言する人も少なくないでしょう。

とにかく、そんなバーチャルな人気シンガー=歌手と、「見返り美人」がコラボレーションしているというお話です。

展示室には、イラストレーターのRellaさんのインタビュー記事がありました。初音ミクの仕事を中心に活躍されている、中国のイラストレーターだそうです……知りませんでした。

記事の中でRellaさんは、見返り美人が「結び」のヘアスタイルを施し、着物の色と当時の最先端のファッションを体現していることから、「江戸のファッションリーダーと言っても良いかもしれません」と語っています。

こちらは、2020年コラボ時の「〈冬木小袖〉ミク」の大型タペストリー
同じく、2020年コラボ時の「〈冬木小袖〉ミク」の大型タペストリー(部分)
Rella『見返り美人ミク』

Rellaさんは、普段のイラスト製作と異なり「着物にある模様は、すべて手描き」したと答えています。

「テクノロジーの恩恵を受けている現代絵師は、テクスチャと呼ばれる素材を利用して早く処理したり、ミスをしたときにCtrl+Zをしてひとつの状態に素早く戻ったりということができることに慣れています。しかし、原本はいわゆる『肉筆浮世絵』、つまり直筆の一枚物です。(中略)“原本と忠実に向き合う”とお約束した以上、手抜きはできないと考えました」

解説パネルより

Rella「振り返れば着物の模様だけで4日以上がかかり、全部の制作時間はどれほどだったろうと記憶があいまいで、原本を描いた菱川師宣の偉大さを思うばかりです。」

解説パネルより

Rellaさんが描いた「見返り初音ミク」は、掛け軸や扇子などに商品化されています。収益金は、原本の『見返り美人』の修復資金として使われるということです。

収益金は、原本の『見返り美人』の修復予算に使われるということです。でもそれ以上に、『見返り美人』のすごさを感じる人が増えて、その絵の価値が上がれば良いなと思います。『見返り美人』も初音ミク自体の魅力も、よく分かっていないくせに……なのですが。

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