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【美術展ニュース】速水御舟展が茨城県の水戸で開催されます

東京国立博物館トーハクで見た速水御舟ぎょすいの『比叡山』について、noteで記しました。トーハクの近代美術の部屋を通りかかった時に、これは素晴らしいなと思った作品の一つでした。

『比叡山』大正時代・絹本着色 軸装・東京国立博物館(TNM Image Archives)

そのnoteを記している時に、速水御舟ぎょすいについて調べていたら、ちょうど茨城県の近代美術館で、『速水御舟展』が来年…2023年2月21日(火)〜2023年3月26日(日)の会期で、開催されると知りました。

茨城県近代美術館

同展のプレスリリースを読むと、画家としての速水御舟ぎょすいはもちろん、彼の人柄も浮かび上がってくるような内容でした。

プレスリリースでは、まず速水御舟ぎょすいの画家としての活動は、わずか30年ほどだったと記します。そうであるにも関わらず、速水御舟ぎょすいは、「次々と画風を変化させ、近代日本画の中心にあり続けた」としています。そして同展は、画家・速水御舟ぎょすいの30年の軌跡を、次の3章に分けて辿っていくのです。

当初、数枚の作品画像を掲載していましたが、こちらコピーガード無しでの掲載が不可だったため、画像は削除しました。申し訳ございません。

2022年12月23日

第1章 閉塞からの脱却―模写から写生へ
第2章 写実の探究―細密描写
第3章 古典との融合―単純化と平面性

■第1章 閉塞からの脱却―模写から写生へ

速水御舟ぎょすいは、明治維新から26年後の1894年に、現台東区の浅草橋で生まれました。14歳の時には、松本楓湖という画家が主宰していた、近所の安雅堂画塾に入門しています。熱心に絵を描きはじめただろう歳から数えれば、亡くなるまで30年前後だったと言えるでしょう。そして展示会のプレスリリースは次のように記しています……

「(速水御舟ぎょすいは)古画の模写、写生に基づく叙情的な作品、大正期の精緻を極めた写実描写、そして古典的な絵画への回帰、単純化と平面性を伴う作品へと変化する画風には、一人の画家とは思えないほどの多彩な表現が見られます」

そのバリエーションに富む作品の中で、古画の模写が、速水御舟ぎょすいの画業における第一章だったとも読めます。そこで、改めて第一章のタイトルを読むと「閉塞からの脱却―模写から写生へ」とあります。つまりは、模写=閉塞であり、写生=脱却だったとしています。

わたしは絵を学んだこともなく、絵を描けるわけでもないので、想像でしかありませんが、模写とは、基礎練習に近いものだろうと思っています。優れた先人の型(フォーマット)を学ぶと言った感じではないでしょうか。その型から脱却して、自分の独自性を表現したいとは、芸術家ではなくても多くの人が思うことでしょう。

そして速水御舟ぎょすいの場合は、写生を通じて、自分が何を描きたいのか、どんな表現をしたいのかを探っていったのかもしれません。自我が目覚めてきたと言い換えても良いかもしれません。

速水御舟ぎょすいが、いつまで先達の絵の模写を続けたのか、どんな作品を模写したのかは分かりませんが、もし茨城県近代美術館で開催される『速水御舟展』で見られるのなら、見てみたいです。

■第2章 写実の探究―細密描写

『閉塞からの脱却』して『模写から写生へ』と転換した速水御舟ぎょすいは、大正期に入ると『写実の探究』を進めて『細密描写』へとのめり込んでいったようです。プレスリリースには「対象をくまなく見つめ、執拗なまでに試みた細密描写の極みともいうべき作品が《菊花図》」だとしています。

赤、黄、白の様々な種類、形状の菊が金屏風に映える様はとても華やかですが、その一方で、花弁、葉の一枚一枚に至るまで妥協無く描き切った細部の鋭利な描写には、画家の執念すら感じられます。

プレスリリースより

上の『菊花図』については、屏風画ということもあり、狩野派や琳派などこれまでの日本画の伝統にのっとった構図のような気がします。右隻では、黄色い菊が背高泡立草のようにグンッと背を伸ばしてハイライトとする一方で、左隻では水色の菊を他よりも背を伸ばせていて目を引きます。

第2章で『菊花図』以外に注目したいのが、《鍋島の皿に柘榴》だそうです。同じく大正期に速水御舟ぎょすいは、「静物画を何点も手がけて、抽象的な空間に果物や器、布などを配し、質感と量感の描写によって、一部の隙もない小世界を創り出しています」(プレスリリースより)

とりわけ代表的な作例が『鍋島の皿に柘榴』です。油彩画の質感に衝撃を受けた速水御舟ぎょすいが、日本画の顔料によって、どれだけ対象の質感をとらえ、物の実在感を表せるかにチャレンジした作品だとします。

ただし、速水御舟ぎょすいは「その画家生活を通して、花卉(かき)画や花鳥画を描いています」とプレスリリースが記すとおり、安雅堂画塾に入門して仲間たちと団栗どんぐり会を結成して以来、生涯を通して“写実”を重視していました。

特に茨城県近代美術館には、速水御舟ぎょすいが描いた、多くの花卉(かき)画や花鳥画を収蔵しています。今回の企画展では、専門的な動植物図鑑にでも掲載されていたんじゃないかと思われるような、精緻な絵が、多数展示されるのではないかと思います。

↓ ちなみに茨城県近代美術館のホームページには、素晴らしいアーカイブがあるので、速水御舟ぎょすいの動植物を描いた作品もネットで確認できました。

第3章 古典との融合―単純化と平面性

第3章のタイトルは『古典との融合』とありますが、速水御舟ぎょすいは、14歳で安雅堂画塾に入門した時に、大和絵や俵屋宗達、尾形光琳などを模写しまくっていました。そうした先達の模写は、なにも速水御舟ぎょすいに限ったことではなく、大正明治期の画家が、誰もが通った道だったはずです。そうした日本画を基礎にしたうえで、絵師ではなく画家(アーティスト)としての斬新さを、どう表すかを探っていったのでしょう。

今回の企画展『速水御舟展』では、以上の3章立てとなっています。それぞれの章で、どんな説明があり、どんな作品を展開していくでしょうか。まだ展示リストが公開されていないので、分かりません。ただ、この速水御舟ぎょすいに限定した企画展を見ることで、明治以降の近代絵画史のようなものが肌で感じられるものであれば、見に行ってみたいものだなと思います。

■茨城県近代美術館『速水御舟展』の概要

開催概要EVENT DETAILS

会期:2023年2月21日(火)〜2023年3月26日(日)
会場:茨城県近代美術館
住所:茨城県水戸市千波町東久保666-1
時間:9:30〜17:00 (最終入場時間 16:30)休館日会期中は休館なし
※3月13日(月)は一部作品の展示替えのため休室
観覧料:一般 1,100円(1,000円)、満70歳以上 550円(500円)、高大生 870円(730円)、小中生 490円(370円)
※( )内は20名以上の団体料金

■ほか作品

以下は、プレスリリースに掲載されている展示作品です。上記3章のいずれで展示されるのかは分からないので、ザザザっとココに残しておきます。

速水御舟ぎょすいの代表作と言われることが多そうな、滋賀県立美術館蔵の《洛北修学院村》も、今回の企画展で鑑賞できます。これなどは、速水御舟ぎょすいの「青の時代」というか「群青の時代」に描かれた作品ですね。そうした群青の使い方や、山や森の描き方は、東京国立博物館トーハクで現在展示されている『比叡山』に印象が近いです。

下の《花ノ傍》については、日本画と西洋画を融合させた作品……というか、上に挙げた作品も、すべて融合させている感じがしますが……。《花ノ傍》については、比重が西洋画にかかっていると言えるでしょうか。

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