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【らんまん】のモデル『牧野富太郎』が描いた植物画と、息子が描いた植物画

「雑草という名の草はない」と言ったのは、日本の植物学の父とも言われる牧野富太郎さんです。ただし、わたしはあえて雑草と呼びたいし、雑草と呼ばれる存在の草が好きなんです。

実は25-26歳ころから、その雑草を写真に撮り続けてきました。はじめは、雑草が好きというよりもカメラが好きで、その被写体の一つとして雑草がありました。今も、カメラと雑草とどちらの方が好きなんだと問われれば、答えに窮します。博物館などで写真を撮るのと同じで、キレイだなとか不思議だなと思うものを写真に撮っておくのが好きなんです。撮るという行為をはさむことで、その被写体をじっくりと観察し、その被写体に対しての興味が増幅されるからです。

一番好きなのはキュウリソウ

そうして雑草を写真に残したり調べていくうちに、当然、牧野富太郎さんのことを知りました。たしか初めて知ったのは、池波正太郎さんの短編集『武士おとこの紋章』の中の1話『牧野富太郎』によるものだと記憶しています。池波正太郎さんは、土門拳さんの写真集『風貌』に掲載された牧野富太郎さんの表情、特に目に惹き付けられたと、その冒頭で記しています。そうして牧野富太郎さんに興味を抱いた池波正太郎さんは、牧野富太郎さんを主人公にした演劇の台本かなにかを執筆。その取材の一環だったのか、何度か牧野富太郎さんに会う機会を得たと言います(その内容の一部が、ココで紹介されています)。

短編『牧野富太郎』の中で、池波正太郎は愛情を込めつつ、牧野富太郎さんを一人の狂人として描いています。植物狂人ですね。

そもそも何らかの狂人や変態でなければ、小説などの主人公には採用されません。織田信長をはじめとする戦国武将は、ことごとく変な人であり狂人だったはずだし、例えば二宮金次郎像や本田宗一郎、スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクなども、残っている逸話を集めれば、狂ったエピソードのオンパレードです。そして牧野富太郎さんも、池波正太郎さんに認められた変人だったということでしょう。

そんな牧野富太郎さんをモデルにしたNHK連続テレビ小説『らんまん』が、来年(2023年)4月から放映されます。主人公の槙野万太郎を、神木隆之介さんが演じるとのこと。世間で……子どもたちの間で……決して誰もが知る偉人とは言い切れない……昔とは異なり、知る人ぞ知る的な存在の牧野富太郎さんが、あの天下のNHK連続テレビ小説で取り上げられるなんて! と、今からとても楽しみにしています。

牧野富太郎さん(Wikipediaより)

ということで、先日、子供とふらりと図書館へ行った時に、なにげなく牧野富太郎さんの伝記を探してみました。すると『はじめて読む科学者の伝記牧野富太郎【日本植物学の父】』という最近発行された本がありました。手に取るとまぁまぁの厚みがあり、小学生の高学年以上向けといった装いです。

これまで牧野富太郎さんのことを知りつつ、彼の自著を青空文庫などで読んでみたり、大人向けの伝記を読んでみたりしたのですが、いずれも完読したことがありませんでした。そこで上記した『はじめて読む科学者の伝記牧野富太郎【日本植物学の父】』を読んで、生涯の流れを把握したいなと思ったんです。

ページ数はまぁまぁありましたが、やはり子供向けということで、とても読みやすかったです。また、牧野富太郎さんが描いた植物画もたくさん見られたのが嬉しかったです。

これは牧野富太郎『植物記』の中からの引用です(国立国会図書館アーカイブより)

なにせ牧野富太郎さんの植物画は、ネットなどでもあまり見かけません。でも、やはりもっと多くの人に牧野富太郎さんを知ってもらうには、彼が描いたとても精緻な植物画を見てもらいたいです(余計なお世話ですけど)。決して芸術的な美しさだけではなく、そこらに生えている雑草をシンプルかつ個々のしゅの特徴が分かりやすいように、正確に写し取った結果が、とても美しい絵になったという感じです。実用美とでも言うんでしょうか。

後述する練馬区立牧野記念庭園で開催された特別展『牧野式植物図への道 Ⅰ ー種の全体像を描くためにー』のパンフレットには、牧野富太郎さんの植物画の特徴を次のように記しています。

「牧野が描いた植物図は、観察力の深さと描写の精密さ、そして単なる個体の写生でなく、その植物の『種』の典型的な形態を捉えている点、花期、果実期など各成長段を描写している点から『牧野式植物図』と呼ばれています。本展では、牧野自筆の植物図を展示することで、『牧野式植物図』を完成させるまでの変遷について紹介します。師について植物図を学ぶことのなかった牧野が、江戸時代の本草書の影響を受けた平面的な植物図から、より洗練された構図、陰影をもった植物図へと描き方を変化させていく」

ということで、牧野富太郎さん関連の書籍を紹介しながら、彼の描いた植物画を見ていくことにしましょう。

■植物が好きでたまらない様が伝わってくる『植物一日一題』

以前、青空文庫で読んだのが、牧野富太郎さんのエッセイ集とも言える『植物一日一題』です。とにかく植物愛が半端ないことが分かります。表紙に描かれているのは、野バラでしょうか。

牧野富太郎著『植物一日一題』ちくま学芸文庫

■牧野富太郎自叙伝 (講談社学術文庫)

牧野富太郎さんの自叙伝とあります。表紙はハルジオンやヒメジョオンかとも思いましたが、葉っぱが違いますね。これは高知県の吾川村川口(現在の仁淀川町川口)で、牧野富太郎さんが1887年の11月10日に採取して描いた「ノジギク」です。牧野富太郎さんが野路のじ……つまりはそのあたりの道端で発見したため「野路の菊」と命名されたそうです。

牧野富太郎『牧野富太郎自叙伝』講談社学術文庫

■牧野富太郎『植物記』

こちらも自著なので、(著作権が切れている作品を集めた無料で読める)青空文庫に入っています。ただ、ちくま学芸文庫であれば、牧野富太郎さんが描いた植物画も見られます。表紙はバラ科サクラがいくつか描かれていますね。種類までは分かりません。

牧野富太郎『植物記』ちくま学芸文庫

■牧野富太郎『植物知識』講談社学術文庫

こちらも青空文庫で無料で読めますが、紙の本で読みたい人には、文庫で読むのも良いでしょうね。表紙の絵は、ちょっと意外な感じもしますが、ソメイヨシノでしょうか?

牧野富太郎『植物知識』講談社学術文庫

■牧野富太郎『なぜ花は匂うか』平凡社

四国の太平洋側の地域……まさに牧野富太郎さんが生まれ育った、高知県に自生しているだろう「ジョウロウホトトギス」が描かれた表紙です。石灰岩地の岩壁に弓なりに垂れ下がって生えるそうで、花は鐘型で下向きに1つずつつき、黄色で内側に赤紫色の斑点があり、9~10月に咲くそうです。牧野富太郎さんが、高知県横倉山で発見したものです。

牧野富太郎『なぜ花は匂うか』平凡社

■牧野富太郎『卓上版 牧野日本植物圖鑑』北隆館

表紙を見て、「これって、昔刊行された『牧野日本植物圖鑑』の復刻版なのか? 」と思ったら、まさにコンパクトな卓上版だということ。まぢすか! と少し興奮して、Amazonでポチッと購入してしまいました。

牧野富太郎『卓上版 牧野日本植物圖鑑』北隆館
牧野富太郎『卓上版 牧野日本植物圖鑑』北隆館

1940年10月、植物学者・牧野富太郎が15年の歳月を経て世に問うた『牧野日本植物圖鑑』をコンパクトにした卓上版です。『牧野日本植物圖鑑』の誕生は、それまでは「図譜」でしかなかった「図鑑」が、はじめてサイエンスの後ろ盾を得て、真の「図鑑」へと変貌した瞬間でした。写真図鑑隆盛の現在もなお、色あせることのない牧野植物学の集大成を堪能できる一冊です。

本の紹介文より

■『MAKINO ~生誕160年、牧野富太郎を旅する~』北隆館新書

こちらも最近発売したばかりの新刊ですね。高知新聞社編 (著, その他)で、里美和彦(高知県立牧野植物園) (イラスト)です。イラストは里美和彦さんとありますが、表紙の原画は、牧野富太郎さんのものを使っているのではないでしょうかね。描かれているのは、ヤマザクラです。

『MAKINO ~生誕160年、牧野富太郎を旅する~』北隆館新書

■『牧野植物図鑑原画集』北隆館

さっきから北隆館が続いていますが、どうやら『牧野日本植物図鑑』は、1940年に北隆館から出版されたようです。本書の紹介文では「北隆館に現存する牧野富太郎本人が描画した『牧野日本植物図鑑』の原図を全点紹介する」とあります。すごいな北隆館……。当たり前と言えば当たり前だけれど、当時の原画をちゃんと保管しといたんだなぁ。

『牧野植物図鑑原画集』北隆館

1940年に出版された『牧野日本植物図鑑』は、それまでの日本の近代植物学50年を牽引してきた“大牧野"による総まとめであった。同時に、決して牧野富太郎一人の手による著作ではなく、当時の植物学会の英知を結集した出版物でもあった。

本の紹介文(あとがき?)より

『牧野日本植物図鑑』と言えば北隆館で、北隆館と言えば『牧野日本植物図鑑』というように、両者は密接な関係にあるようです。そんな『牧野日本植物図鑑』は上記の通り、「決して牧野富太郎一人の手による著作ではなく、当時の植物学会の英知を結集した出版物でもあった」と、本の紹介文に記されています。

この紹介文には記されていませんが、初期には書籍や図鑑づくりで、牧野富太郎さんと二人三脚で製作にあたり、以後に関係が薄れていった村越三千男さんという方もいたそうです。Wikipediaにも記されている方ですが、その村越三千男さんと牧野富太郎さんとの関係を記した俵浩三著『牧野植物図鑑の謎』という興味深い本があります。また同書を紹介している下記サイト(また松岡正剛さんだ…)は、おもしろかったです。

■高知県立牧野植物園『牧野富太郎植物画集』

う〜ん……見たことのない植物ばかりが並んでいますね。高知県立の牧野植物園によるものです。

高知県立牧野植物園『牧野富太郎植物画集』

■特別展『牧野式植物図への道 Ⅰ ー種の全体像を描くためにー』

2017年 6月3日(土) ~ 7月30日(日)には、『牧野式植物図への道 Ⅰ ー種の全体像を描くためにー』という特別展が、練馬区の牧野記念庭園記念館で開催されました。高知県の牧野植物園からの巡回展示だったようです。パンフレットの表紙にはサクユリが採用されています。

■練馬区立牧野記念庭園記念館の号外

牧野富太郎さんは、後半生を、妻のすえさんに買ってもらった東大泉の家で過ごしました。その場所が今は牧野記念庭園として整備されています。わたしも数年前に一度だけ行きましたが、富太郎さんの植物採集アイテムなどが展示されています。

■子供の植物画(トマト)

ちょうど冬休み前の子供が、二学期の作品をドサッと持ち帰ってきたなかに、数枚の植物画……観察日記がありました。一枚だけ、根っこまで描かれたトマトがあり「これいいじゃん」と褒めました。“観察”日記なので、観えていなかっただろう根っこを描く必要はないんですけどね。

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