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ショートショート 僕の母

*はじめに
このショートショートはフィクションです。
「暑くなってきました。梅雨も終りですね。
今回のテーマはこの時期らしく、ホラーに
してみたのですが、僕は怖い話しが苦手
なので、西洋童話風になってしまいました。
読んでくれたら、うれしいです。」

僕の母はとても美しい人だ。
僕を生んでから年を重ねるたびに
美しくなっていく。僕の自慢の母だ。

小さな頃の僕は元気いっぱいで、
あちこち走り回っては、母に甘えていた。

母はやさしさに溢れた人で、僕のことを
いつも優しく見守っていた。

僕はそんな母が大好きで、ずっと
大好きだと思っていた。
ところが、ある日、僕のガールフレンド
が何かおかしいという。

彼女はときどき僕の家に遊びに来て、
僕の母のこともよく知っている。
その彼女がこういうのだ。

「あなたのお母さん、とてもやさしくて、
お綺麗だけど、何か変だわ。」

「何が変なんだ?僕の母を悪く言わないで
ほしいな。」

「そうそう、それが変なの。あなた達
仲が良すぎるのよ。年ごろの男の子が
母親と仲がいいなんて、あまり聞かないわ。」

「それは、その家族によるんじゃないか?」

「そうかもしれないけど、あなたお母さん
のことを悪くいったことないからね。」

「そうかな。そういえば、僕の友だちは
母親がウザいとかよくいってるなあ。」

「そうでしょ。それが普通なの。それが
思春期だから。何か変よ。」

僕は言われてみて、思い返してみる。
そういえば、母から叱られたことがない。
僕が何をしても怒られるどころか、むしろ、
もっと好きにしていいのよという感じだ。

それを彼女にいうと、

「変だわ。そんなの聞いたこと無い。
あなたのお母さんってどういう人なの?」

そういえば、よく知らない。

家は母子家庭で、父はいない。
母は働いている風でもないのに、生活には
困らない。いったいどうなっているのか。

僕が調べ始めると、
僕が疑問を持ち出したことを母が感づいた
らしく、僕に聞いてきた。

「どうして、私のことを調べるのかしら。
あなたは何も心配しなくてもいいのよ。」

「でも、変じゃないか。母さんは働いても
いないのに生活できているし、僕にかかる
学費も賄えている。どうしてなの?」

「あらあら、困ったわね。そんなことに
関心を持つなんて。忘れた方がいいわよ。
それがあなたのためだから。」

「どういうことなの?何か気味が悪い。」

「誰の入れ知恵かしら。ああ、あの子ね。
困ったわ。もう少しだったのに。」

「何がもう少しなの?」

「もうこれ以上は無理そうね。
ねえ、どうして私はいつまでも若くて
美しいか、あなたに分かるかしら?」

「わからないよ。何か怖いよ。」

「そうねえ。あなたが知らなければ、
もう少し続けられたのにねえ。
あの子を恨むのね。」

「どういうこと?」

そのとき、一人の老婆が家に入ってきた。
とても薄気味悪く、杖をついて、皺だらけの
顔に目だけがギョロギョロしている。

「なんだい。気づいたのかい。」

「ええ。もうここまでね。」

「仕方ないね。ここまでだね。」

僕はその老婆が気味が悪くて、きっと、
この老婆に母は無理やり何かをさせられて
いるのだと思った。

「あんた、あたしを気味が悪いと思ってる
だろう。なにも知らないくせに。」

ふふふ、と母が笑う。

「あんたが思っていることは、たぶん、
逆だよ。
この女の力をあたしが押さえつけていて、
あんたは今まで無事だったのさ。
この女とあたしは契約をしていて、
あんたをこの女に取られないように
あたしが守っていたってわけだ。」

僕の頭は混乱していた、何が何やら
わからない。

「この女はあんたの母親なんかじゃない。
あんたの母親はあたしなんだ。
この女は若さと美しさを保つために若くて
美しい男の生気を吸うんだ。
本当は赤ん坊のときの方がこの女にとって
は都合がいいんだが、あたしがこの女と
契約して、あたしの寿命と交換にあんたを
生かしてもらっていたんだ。
だからあの女はいつまでも若くてきれい
なのさ。
もう少し時間はあったはずなんだが、
あんたが気づいてしまったから、
もう契約も終わりなんだ。」

僕にはこの老婆が何を言っているのか
わからない。
母を見ると、獲物を見る獣のような目で
僕を見ている。

老婆は愛おしそうに僕の手を握ると、
一瞬だけ、慈愛に満ちた顔に戻り、

「もう守ってやれなくて、ごめんね。」

といって、こと切れてしまった。

ゆっくりと、あの女が僕に近づいてくる。
僕には逃げ場など、どこにもなかった。

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