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ショートショート 道に描いた絵

*はじめに
この物語は、フィクションです。

ある日のこと。

僕がひとりで道を歩いていると、
ひとりの少女に出会った。

その少女は道端にうずくまり、
何かを懸命に書いている。

年の頃は5,6歳だろうか。

このくらいの年齢に似合う
麦わら帽子を被り、

三つ編みにしたお下げが
帽子の陰から左右に分かれて見える。
きれいな金色の髪をしていた。

淡いピンクのオフショルダーの
服から見える白い肩が、

照りつける日差しに輝いて
羽ばたいているように見えた。

少女は通りかかった僕を見上げ、
にっこりと微笑む。

その微笑みに僕も思わず、
にっこり微笑む。

少女はまるで僕のことを知っているように
人懐っこい瞳を向けて、

「ねえ、この絵好き?」

と僕に話し掛ける。

僕はこの子の親が傍にいるだろうと思い
周りを確かめるが、

不思議なことに、
この塀に囲まれた一本道には
僕とその少女以外には誰もいない。

誰もいない、車も通らない道の上に、
少女は様々な色のチョークで
道一杯に絵を描いている。

何を描いているのか、
僕には分からなかった。

赤と、青と、黄色と、
緑のチョークで、
きれいな色が並べられてはいるけれど、

果たしてそれが、
何を描いているのかは
分からなかった。

「何を書いているのかな?」

僕は少女に聞いてみた。

「お兄さんには見えないの?」

少女は不思議そうな目で僕を見る。

なぜこの絵が見えないのかという風に。
それはまるで、僕への問いのように。

しばらく絵を眺めていた僕は、
あることに気がつく。

その絵は見えている一部なのだ。

後ろを振りかえれば、
僕が歩いてきた道に絵が描かれていて、

遠く先を見通せば、
さらに先にも絵が描かれようと
していた。

僕は歩きながら、
この絵を見てきたはずだけれど、
あまりにも絵が近すぎてか、

ほんの一部しか
見えていないせいでか、

この絵が何かが
分かっていなかった。

僕はこの、

どこから始まり、
どこへ繋がるか分からない、

一本道の始まりと、
終わりを見通そうと、

すこしだけ背伸びをして
眺めてみた。

そこに何か、この絵のヒントが、
見えるかも知れないと思ったからだ。

「そんなことしても、見えないよ。」

少女はいう。

「目で見ようとしたら、見えないよ。

そんなことしなくても、
あなたは、
これまで見てきたものが何か、
知ってるでしょ。

この絵はあなたが描いてきた絵だから。」

僕はこれまで何を描いてきただろう。

あまり人に自慢できるような
絵は描いていない。

それでも自分の描いた絵を
これからも描いていくしかない。

だって、
もうすぐ絵は完成するのだから。

完成した絵の出来映えを決めるのは、
この僕で、

きっと僕は、
その出来映えに満足するはずだ。

「分かったみたい。
私はあなたの描いた絵が大好きよ。」

そう言って、
少女は僕に
にっこりと微笑む。

もう何も迷うことなどないのだ。

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