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ショートショート 雨の中の彼
*はじめに
このショートショートはフィクションです。
*
誰にも見えない彼。
雨の街を彷徨い歩く。
降り続く雨の中を、
傘もささずに、一人歩く。
誰れも彼には気づかない。
雨の中しかいられない彼は、
雨に濡れることはない。
雨たちは、
彼を避けていく。
誰にも見えない彼。
雨の街を彷徨い歩く。
*
ある雨の日、
小さな女の子が彼に気づく。
傘をさしていないのに、
雨が彼を避けていた。
彼は女の子と目が合うと、
とてもうれしそうに
にっこり微笑む。
女の子は小さな手で
お母さんの手をしっかり握り、
彼をジッとみつめて、
ニコリと笑う。
お母さんは、
何もない所を見て笑ってる、
女の子を見て不思議に思う。
*
僕を見つけてくれたその子は、
僕がその子の近くにいくと、
うれしそうに笑ってくれた。
僕は女の子と一緒に歩く。
きっと僕が一緒に歩いてるのは
誰にも見えてないだろう。
僕を見つけてくれたその子を、
僕はしばらく見守ることにした。
*
次の日は、とても晴れた日だった。
街はずれの大きな楠の木の下に、
僕の家はあった。
とても小さくて、気づかない人が多いけど、
近くに川が流れてたころには、
たくさんの人が僕に会いに来てくれたんだ。
街が大きくなるにつれて、
僕の家の近くの川が道の下に
隠れてしまった。
川が見えなくなっても、街の人たちは
僕の家を大事にしてくれたけど、
だんだん、僕を知る人がいなくなり、
僕は独りぼっちになっていた。
僕に会いに来てくれた人たちは
どこにいったのか。
僕は雨の日だけ家を出て、
街を歩くようになっていた。
人はたくさんいたけれど、
僕を見つける人はいなかった。
雨の中、だれにも気づかれることなく、
一人で彷徨っていた。
*
次の日は、朝から雨だった。
僕は女の子と出会った場所に、
行ってみた。
女の子はすぐに僕を見つけてくれた。
雨の中の公園で赤い色の傘を差し、
赤く大きな長靴を履いて、
水たまりで遊んでた。
僕は女の子のそばに行く。
女の子は、とてもうれしそう。
僕も、とてもうれしくなった。
*
それからしばらく経った、
雨の日の午後。
大きな傘が重なるように、
大人たちが話している。
「よく降る雨だわ。」
「川を地下に埋めていても、
水があふれたら、どうにもできないわ。」
「そうね。これは、おばあちゃんから
聞いたんだけど、この辺りは川の神様を
祀っていて、昔はお祭りをしたらしいの。
川の神様が見守ってくれてるかもしれない
わね。」
*
そう、
僕は見守っている。
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