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ショートショート 雨の中の彼

*はじめに
このショートショートはフィクションです。

誰にも見えない彼。
雨の街を彷徨い歩く。

降り続く雨の中を、
傘もささずに、一人歩く。

誰れも彼には気づかない。

雨の中しかいられない彼は、
雨に濡れることはない。

雨たちは、
彼をけていく。

誰にも見えない彼。
雨の街を彷徨い歩く。

ある雨の日、
小さな女の子が彼に気づく。

傘をさしていないのに、
雨が彼をけていた。

彼は女の子と目が合うと、
とてもうれしそうに
にっこり微笑む。

女の子は小さな手で
お母さんの手をしっかり握り、
彼をジッとみつめて、
ニコリと笑う。

お母さんは、
何もない所を見て笑ってる、
女の子を見て不思議に思う。

僕を見つけてくれたその子は、
僕がその子の近くにいくと、
うれしそうに笑ってくれた。

僕は女の子と一緒に歩く。
きっと僕が一緒に歩いてるのは
誰にも見えてないだろう。

僕を見つけてくれたその子を、
僕はしばらく見守ることにした。

次の日は、とても晴れた日だった。

街はずれの大きな楠の木の下に、
僕の家はあった。

とても小さくて、気づかない人が多いけど、
近くに川が流れてたころには、
たくさんの人が僕に会いに来てくれたんだ。

街が大きくなるにつれて、
僕の家の近くの川が道の下に
隠れてしまった。

川が見えなくなっても、街の人たちは
僕の家を大事にしてくれたけど、
だんだん、僕を知る人がいなくなり、
僕は独りぼっちになっていた。

僕に会いに来てくれた人たちは
どこにいったのか。

僕は雨の日だけ家を出て、
街を歩くようになっていた。

人はたくさんいたけれど、
僕を見つける人はいなかった。

雨の中、だれにも気づかれることなく、
一人で彷徨っていた。

次の日は、朝から雨だった。

僕は女の子と出会った場所に、
行ってみた。

女の子はすぐに僕を見つけてくれた。

雨の中の公園で赤い色の傘を差し、
赤く大きな長靴を履いて、
水たまりで遊んでた。

僕は女の子のそばに行く。

女の子は、とてもうれしそう。
僕も、とてもうれしくなった。

それからしばらく経った、
雨の日の午後。

大きな傘が重なるように、
大人たちが話している。

「よく降る雨だわ。」

「川を地下に埋めていても、
水があふれたら、どうにもできないわ。」

「そうね。これは、おばあちゃんから
聞いたんだけど、この辺りは川の神様を
祀っていて、昔はお祭りをしたらしいの。
川の神様が見守ってくれてるかもしれない
わね。」

そう、
僕は見守っている。

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