ショートショート 孤島

*はじめに
このショートショートは
全てフィクションです。

僕はどうやってここに来たのだろう。
何も覚えていない。

そもそも自分が誰かも分からない。
記憶がないのだ。

ここは老人ばかりで若い人がいない。

老人たちは、皆、無表情で
何を喋っているのかわからない。

僕は何かの施設のようなところで
寝起きしていて、

食べ物は老人たちが
朝晩運んで来てくれる。

とりあえず寝るところと
食べ物はあるらしい。

それしかわからなかった。

僕は何もすることがない。

寝起きしている場所を抜け出しても、
老人たちは僕を止めようとしない。

この街には道はあるけれど、
車を見かけない。

あるのは、古びた家と
深い山だけだ。

以前から、
潮の香りが気になっていた。

僕は潮の香りがする方向に
歩いてみることにした。

砂浜。
どこまでも続く広い海。
寄せては返す波。

どこにでもある海の風景だけど、
どこかおかしい。
僕は直ぐに気がついた。

そうだ、
海に浮かぶものが何もない。

人影も、船も、
人の存在を感じさせるものが
何もない。

まるで無人島のようだ。

そういえば、
ここの老人たちはどうやって
生活しているのだろう。

海岸線を見渡す限り、
何もないのだ。

僕は水筒としてもってきた
ペットボトルの水を飲みながら
海岸線をとりあえず歩く。

街沿いにある海岸線は、
カーブを描きながら続いていく。

海岸線をひたすら歩いて行くと、
半日くらいで元の場所に
もどってしまった。

どうやらここは島らしいと分かった。

地球から遠く離れたある星。

実験用に地球という星の環境に似せて
創られた島に、彼はいた。
老人たちは皆、ロボットだ。

彼は実験体なのだ。

過去のない人間をコミュニケーション
がとれない環境に置くとどうなるのか
実験されている。

僕はこの島に閉じこめられた。

老人たちとは会話が出来ない。

しばらくすると、
僕にとって老人たちは
風景と同じ存在となった。

僕は孤独だった。

毎日、海岸に出掛けては、
海を眺め、
思い出せない故郷を思った。

もう何もする気が起きなかった。

同じ毎日を繰り返すうちに、
僕は何も感じなくなっていった。

僕は考えるのをやめていた。

二人の宇宙人が画面に映る男を見て
会話をしている。

「あの実験体も同じ結果でしたね。」

「そうだな。どうやら人間は単体
では生きていけない生物らしい。」

「どうしますか。回収しますか。」

「そうしよう。」

地球という星で、ある時期支配者として
存在した人間という種。
その個体数を維持する目的で生態調査が
行なわれていた。

とても弱い生き物なのに繁殖力だけは
優れていて、どんどん増えていく。
そして増えすぎると自分達同志で、
数を調整し始める。

調整が行き過ぎ絶滅しそうなところを
この星の人たちが手を差し伸べた。

僅かな人だけが、この星に助け出され、
残りは跡形なく消えてしまった。

地球という星も、原始的な生命だけの
星になっていた。

今日も僕は、
海岸にきて海を眺めている。

たったひとり、
この孤島で。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?