ショートショート あなたは何モノか

*はじめに
このショートショートはフィクションです。

僕は塀に閉ざされたこの街から出たことが
なかった。 

食べていくのが精いっぱいで、近所の家の
手伝いをして少しの食べ物をもらって
生きていた。 

ある日、街のおさに呼ばれ、
行ってみると、隣の街まで使いに行って
欲しいとのことだった。

そんな重要な役目をなぜ僕に与えるの
かって?

簡単だ。お使いは口実で、僕はこの街から
追放されたのだ。

街の外には魔物がうろうろしていて、
一歩出たら、勇者や魔法使いでないと、
生きては帰れない。

でも僕には断ることはできない。

断れば長の命令を違反した罪でやはり
追放されるからだ。
僕はしぶしぶ承諾した。 

僕にはいつも一緒にいるミニモンスターが
いる。

ふわふわした白いネズミのような奴。
シロと呼んでいた。

気まぐれな奴で、いたずら好きだけど、
なぜか憎めない。
僕が生れたときから一緒だった。

街を出て、隣の街に向かうと、
早速魔物が現れた。

僕は長から渡された木製の剣で魔物と戦う。

けれど、僕が勝てるはずがない。
戦ったことがないから。

もう少しで食べられそうなところを、
シロが助けてくれた。

シロは急に大きくなって、
僕を襲う魔物を鋭い爪でひっかいた。
魔物は逃げていった。

僕はぼんやりと、シロを見る。
シロはもとの大きさに戻り、
僕を見つめていた。

隣り街までの道のりは長く、
魔物はうじゃうじゃしていた。

シロがいなければ、
僕はもう生きていないだろう。

何日か経ったとき、
大きな岩山の下を歩いていると、
岩のひとつが動き出し、
僕の前に立ちはだかる。

よくみると、大きな石の亀のようだった。
石亀は僕にいう。

「この先にいくには、
わたしの質問に答えなければならない。」

「わかった。」

「あなたは、なにものか?
そのペットはなにものか?」

僕にはどちらも答えられない。
だまっていると、石亀はいう。

「これまで生きてきたのに、
なにものかわからないとは、
おかしなことだ。

この世界の生き物たちは、
自分がなにものかをよく知っている。
生きていくとは、おのれを知らなければ、
死ぬしかないからだ。

例えば昆虫は、幼虫からサナギになり、
成虫に変化する。

おのれを知らずに、
このことが出来るはずがない。

わたしたち魔物もおのれを知り、
何をすべきか知っている。

おのれを知らないなどというのは、
人だけだ。

さあ、いうんだ。
あなたは、なにものだ。

いわなければ、
ここから動くことはできない。」

僕はシロとそこでジッとしていた。

周りをよくみると、
たくさんの骨が転がっていた。

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