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スパークスのこと 1

①突如、テレビから流れだしたスパークスの曲

テレビをつけていると、一日に何回かスパークスの曲が流れてくる。アップルのあたらしいアイパッドのCMだ。スパークスの音楽がテレビから流れてくるなんて、以前では考えられなかったことなので、けっこう、胸が高鳴る。

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日本でスパークスが耳目を集めていたのは、80年代までで、その後は、ほぼスルーされている。新譜が出ても国内盤はなかったりする。雑誌にも新譜レビューの小さな記事があっても、それ以上のものはなかったように思う。

そんなだから、フラッと寄ったCD屋さんでSのコーナーを見て、持っていないアルバムや新譜が出ていれば買う、みたいな状態が、何十年も続いていた。その結果、私の手元にあるスパークスのLPやCDは、全部、輸入盤だ。輸入盤だとライナーノーツとか歌詞がないので、スパークスの情報は何もわからない。

それが今やアップルのCMに曲が採用されるとは! レオス・カラックスの映画『アネット』やスパークスのドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザース』の公開などがあったからだろう。デビュー50年で、やっとメジャーになったのだろうか?

CMで使われている曲は、「 This Town Ain’t Big Enough for Both of Us」だ。スパークスとしては「No 1 Song in Heaven」と並ぶ代表曲だ。『キモノ・マイ・ハウス』という3枚目のアルバムに入っている。ケバイお化粧をしてキモノを着た日本人女性が二人写っている黄緑のジャケットも有名だ。ジャケットがそんなでも、日本に関係する曲は、収録されいないと思う。

この曲は、「この町は僕たちには狭すぎる。でも出ていくのは僕たちじゃない、あんたたちだよ」っていう曲だ。多分、そんな曲だ。ちゃんと確認したことがないけれど、私はずうっとそう思って聴いてきた。

②最初に買ったLPはカットアウト盤だった

『キモノ・マイ・ハウス』は、私が最初に買ったスパークスのLPだった。高校生の時だ。私の住んでいた地方都市に新しく電気屋が出来た。そこのレコード売り場に、輸入盤コーナーがあった。レコードの詰まった段ボール箱の上半分を斜めに切り取って、そのまま並べた、今、思うと相当に雑な陳列だった。その中に順不同で、レコードが入っていた。輸入盤は、国内盤よりも数百円安く、また日本で出ていないアルバムもあったりしたので、小遣いに限りのある高校生だった私は、まず輸入盤コーナーを漁るのが習慣になった。

『キモノ・マイ・ハウス』は、ジャケットに惹きつけられた。店員に尋ねても、知らないと言われた。私は確か、日本人のバンドなのかと訊いたのだった。

それはカットアウト盤で、値段も安かった。カットアウト盤というのは、ジャケットの一部、大抵は四隅の一角が切り取られていて、その分、値段が安くなっているレコードだ。返品不可とか、傷物お値打ち品とか、いまでいうアウトレットみたいな感じだ。

キモノ・マイ・ハウス

当時国内盤が2400円から2500円。輸入盤が1900円前後。カットアウト盤は、1500円未満で売られていた。私はいろいろ悩んだけれど、その黄緑のレコードを買った。生まれて初めてのジャケ買いだ。1480円だったと思う。

家で、プレイヤーに乗せて、針を落とした時のことが忘れられない。裏声ボーカルの変則的な曲で、それはまさに、私の好みにぴったりだったのだ。

当時、私が好きだったのは、デヴィッド・ボウイ、マーク・ボランを筆頭に、ミスター・ビッグ(イギリスのバンド)、パブロフス・ドッグ、ラッシュといった、ヴォーカルに特徴のあるバンドだったから、スパークスもすぐに私のお気に入りになった。

③『No.1イン・ヘブン』もカットアウト盤だった

翌月か翌々月に、その電気屋に行ったところ、店員がこれもスパークスだよと輸入盤の中から出してくれたのが、ファーストアルバムの『ハーフネルソン』だった。カットアウト盤ではなかったが、買わないわけにはいかなかった。ところがこれが事件だった。

家に帰ってかけたところ、レコード盤がしなっていて、レコード針が飛んでしまうのだ。ちゃんと聞くことが出来ないのだ。私はパニックに陥った。買ったばかりのでレコードを持って、電気屋に戻り、店員に文句を言った。店員のお兄さんは、笑いながら、輸入盤にはよくあることだ。そういう時は、針の上に1円玉をのっけるといいよ、とアドバイスをくれた。

また家に帰って、半信半疑で一円玉を乗せて再生したところ、針は飛ばず、ちゃんと聞くことが出来た。しかし、針が悪くなるのではないかと、不安で仕方がなかった。

輸入盤のレコードは、そんな感じだだった。ジャケットの紙は国内盤に比べて薄く、内袋は白い紙で、ライナーノートもないし、歌詞カードもなく、レコードだけが入っていた。そのレコードも、最初からそっている盤が多かった。それでも値段の安さは魅力だったのだ。

そこの電気屋では『No.1イン・ヘブン』 も買った。新譜だったと思うが、最初からカットアウト盤だった。値段も1280円と安かったから、家に帰って音を鳴らすまで、曲数が足りないんじゃないかとか、いろいろ不安だった。国内盤は出なかったように思う。

No.1イン・ヘブン

このアルバムには驚いた。当時はやっていたドナ・サマーの、ピコピコ・ディスコ・サウンドと同じだったからだ。とはいえ、着ている服が違うだけで、中身は同じ人みたいに、ラッセルの変則ボーカルにはなんの変りもなく、すぐに好きなアルバムになった。

それからっずうっとスパークスを聴いている。

「 This Town Ain’t Big Enough for Both of Us」は、その昔、スージー&バンシーズがカヴァーしていた。今回、YouTubeで探してみたら、他にもカヴァーしている人がいた。マレーナ・エルンマンというスウェーデンのオペラ歌手の人らしい。

Malena Ernman – This Town Ain’t Big Enough for Both of Us

この人が歌うと、けっこう迫ってくるけれど、案外フツーに聞こえる。やっぱりスパークスの曲は、ラッセル本人が歌わないと、えぐくないと思う。ミュージカル映画のアネットが、私にとっていまいちだったのは、ラッセルではなく俳優が歌ったからなのだと思う。

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