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上り坂下り坂まさか

女性ではわりと珍しいのではないかと思うのだけれど、私は運転免許をマニュアルで取っていて、最初の車はマニュアルシフトのRV車だった。まだ世間にはスポーツカーを走らせることへの憧れがそれなりにあって、オートマ限定の男はからかわれるような不合理な空気が残っていた一方で、女性に対しては、なぜ今わざわざマニュアルで? という反応を聞くことが多かった、そんな時代だった。

左足をぐいっと前方に踏み込んで、左手でギアを入れる。左足をゆっくり引き戻しながら右足でアクセルをコントロールしてクラッチを繋ぐ動作はしっかり身体に染み込んでいるらしく、マニュアル車を運転しなくなってもうかなり経つのだけれど、いまだに運転中にシフトレバーがうまく入らなくて焦る夢を見てしまったりする。

村上春樹によれば、マニュアルシフトの運転が上手な女性は「きちんとした目的と明瞭な視野をもって、自立的に人生を生きている人のように見える」らしいので、そういうことにしておきたいのだけど、実際はまったくそんなことはなく、目的を定めるのも決断するのも苦手だし、いつもなんとなく流されてしまうような人生で、(まあでも今はオートマだから)。

noteもなんとなく始めて、村上春樹の「エッセイを書くに際しての原則」にしたがい「何のメッセージもない、ふにゃふにゃしていて、紙の無駄遣いだ」と(村上自身が)ときおり批判されるという、なるべく「どうでもいいような話」を書いている。 

なんか全体的に何かの役に立つ価値のあるものばかりを求められる世の中には少々疲れてしまい、まあいいでしょ、と反抗的な気分がないわけでもなく。

スムーズにシフトアップしていける主体的な人生には敵わないけれど、オートマチックに流されるような人生の醍醐味は突然やってくる「まさか」にあり、それはそれで悪くないかもしれない。

✎✎✎ (続き)


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