見出し画像

僕と貴方のフォークダンス(1)

2023年の5月、結婚を夢見て占いによる運命の人との出会いを信じる50歳のおっさんゲイの、運命の日の24時間を描いたラブコメ風ドラマの発表があってから、僕はこのドラマの開始を凄く楽しみにしていた。

それと共に知ったこのドラマのテーソング、灯さんが歌う「フォークダンス」を聴いて、勿論、ますますドラマへの期待も高まったのだけれど、実はそれ以上に、この曲そのものへの思いを深くしていったんだよね。

というのは、このフォークダンスのメロディがとても心地よく、単純に良い曲だなぁと思った事もあるけれど、その歌詞が、僕がまだ若かった頃に知り合い、でも、始まる事の無かった恋と重なり、なんだかとても人ごととは思えなかったから。

勿論、この曲は、僕らの事を歌った訳では無いんだけれど、これだけ共感できる曲を作るミュージシャンってのは、本当に凄いよなぁと改めて思った。

灯さんとは何の関係も無く、どんな人なのかも全然知らないのにねぇ…。

※ もしもまだ「フォークダンス」を聴いた事が無いようであれば、とても良い曲なので、この機会に聴いてみて下さい。一番最後にリンクがあります。

という事で、これから暫く書きつらねるのは僕の恋の話。

ちょっとした知り合いの下手な恋の話程くだらない話は無いもんだとも思うんだけど、それをわきまえた上で、それでもあえて書きたいのです。

書きたいというか、書く必要があるなぁと思うんですよ。

これから書く話の内容を知っている人は、僕の知り合いでは多分一人だけ。
今はもうすっかり疎遠になってしまって、何処に居るのかも分からない昔の友達。

そしてこれは内容が内容なだけに、元カレも知らない話。
こんな話をする機会は、まぁ普通は無いよね。

対する僕の恋する相手のおじさんの知り合いにしても…知っているのは数人?
でも、それは僕という存在を少し知っているだけで、その内容に関しては、ほぼ何も知らない事だと思う。

そんな話をなんでわざわざ文章にして読んで貰う意味があるのかと思われるでしょう。

まぁ、それはそうなんだよね。

しかも、僕の頭の中ではところどころでの記憶の欠如はあるにしても、全体的には完全に出来上がっているんだけれど、それを文章にして上手く伝えられるのかどうかも分からない。

そしてなにより、この話を聞きたく無い人もいるだろうなぁという事もしっかり考えましたよ。

あえて誰とは書きませんが、僕の中で思い当たる人は当然います。

というか、これを読んでる人だって真っ先に思い浮かぶ人もいますね、当然のあの人。

なので、これを事を書く事に随分悩んだりもしました。

でも、それでも今の僕には書く必要があるなぁと思ったのです。

その必要性についても後々のタイミングで書いていこうと思っています。

この先、少々長い話になるとは思いますが、もし良ければ暫くの間お付き合い下さい。


====================


何度も何度も話に聞いた石神井公園を、いつか二人で一緒に歩いてみたいと思ってから23年の月日が流れた。

何をおいてもまずは、お互いに23年分の歳をとったし、すっかり老けたよね。

そして、今はお互いに病気だしね。

この公園でランニングをして、週末にはテニススクールに通い、山登りが趣味だった元野球少年の貴方が、まさか歩けなくなっているなんて、本当に想像もしていなかった。

知り合った当時、ゲイの友達も一人しかおらず、ゲイバーに飲みに行ったりもせす、ゲイのコミュニティーとは距離をとっていて、限りなくひとりぼっちに近いように感じられた貴方。

そんな貴方と偶然知り合い、何度かメールのやり取りをしているうちに、なんとなく人柄が知れて来て、顔も知らない貴方に少し好意を持つようになり初めて会った貴方は、会う直前に待ち合わせ時の顔確認用に一枚だけ貰った画像よりも、実際に会ってみるとずっとずっと素敵で、つまりはとてもタイプでした。


そんな貴方から「付き合って欲しい」と言われた時の気持ちは本当に複雑で、とにかく嬉しかったけれど、同時にとても辛くて悲しかった。

その時の僕には付き合っている人がいたからね。

正直、二股でも何でも付き合いたいなどと思う邪な気持ちもあったけれど、でも、貴方はそういう人じゃ無いと思った。

あまりに良い人で、どれだけ話しても飽きない程に知的で、大人で、実直で、とても優しい貴方は、非の打ち所がないとはこの人の事かと思わせられるような人だったから。

しかも、貴方が住んでいるのは東京。

先に書いたようにゲイ的にはかなりクローズドな生活をしていたからこそ、そこをほんの少しオープンにしただけで、東京に住んでいる貴方には、本当に掃いて捨てる程に、素敵な出会いが幾らでもあるだろうと想像が出来たから。

そんな人の事を僕の二股の彼氏として都合よく付き合うなんで事は、貴方の幸せの邪魔をするなんて事は到底出来ないと、それは本当に思ったのです。

だからね、あの時は本当に辛かったけれど「付き合えません」と、正直に答えました。

すると貴方は「僕は本当に欲しいものは、いつも手に入れられないんだ…」と言ってボロボロと涙を溢しながら、もの凄い勢いで酒を飲み始めたんだよね。

誰かを泣かせた事なんてそれまで一度も無くて、しかもそれがもうすぐ50になろうとしている大の大人の男で、そんな人が目の前で本気のやけ酒を飲んでいる。

そんなに飲んだらぶっ倒れちゃうよ…。

そう思ったけれど、鬼気迫る感じで僕には止める事も出来ない。

本当なら、肩を震わせ堪え泣きを続ける貴方を後ろから抱きしめて「今のは嘘です。付き合います、付き合ってください、お願いします」と言ってしまいたい。

本当にそうしたい…

もう、折れちゃおうかな…

何度も何度もそう思いました。

でも、それをなんとか堪えて最後まで言わなかったんだよね。

その場をうまく取り繕って暫くの間の何となくの付き合いは出来たとしても、それは全然貴方の為にならないと思ったから。

きちんと彼氏として付き合える、まだ見ぬ他の誰かとの方がずっとずっと貴方が幸せになれると思ったから。

そこでやっと言えたのが「彼氏としてでは無く、友達として付き合っていこうよ」という提案だったんだけれど、貴方は即答で「そんな付き合いは出来ない。もう、メールも電話もしないし、勿論、金輪際会う事も無い」といってきかなかった…。

僕がこんな事を言った理由としては、ゲイの友達も少なく、飲みに行く事も無い貴方がやはりとても寂しそうだとも思ったし、貴方が幸せになる為の力に少しでもなりたいとも思ったから。

その頃の僕は少ないながらもそれなりに友達も居たし、飲みに行こうと思えば行けるような暮らしをしていたし、ゲイである事が特別に楽しいとまでは思わなかったけれど、でも、ゲイである事もそんなに悪く無いなぁと思えるくらいには満足していたので、「貴方を救ってあげたい」と言えば大袈裟だけれども「ゲイでも結構楽しい」とは思えるくらいには変われるようなきっかけを作ってあげたいとは思ってましたよ。

ただ…

嘘偽りなくそれはそうなんだけれども、もう一つの気持ちを正直に書くと、こんな良い人をここで完全に失ってしまうのが本当に辛くて、彼氏としての付き合いは叶わなくても、せめて友達として自分の側にいて欲しいという僕の未練

それはやっぱり、物凄くあったよね。

だから、本当に必死に、友達の関係を拒否する貴方を何度も何度も説得したんですよ。

でも、この後、結局どうなったのかを覚えて無いんだよね。

どう考えても、その後もとてもしんどい時間だったとは思うんだけど、本当にこの後どうしたんだろう?

よっぽど忘れてしまいたい記憶だったのかなぁ…。

ただ、これもまた同じように覚えていなんだけれども、それから友達としての付き合いが始まった事についても、どうやってそれがスタートしたのかも全く覚えていないんだよね。

この辺の記憶がすっかり無くなっている。

って事は、ただのバカなのか…。

あれだけ頑なに拒否され続けたのに、どういう始まりだったんだろう。

普通に考えれば、あんなに頑なに拒否していた貴方との友達としての付き合いなんて始まる訳がないのにね…。

まぁ、とにかく、こうして僕達の友達としての付き合いは始まったんだけれど、それは友達としてというにはちょっと考えられないくらいに濃すぎる付き合いだったように思う。

はっきりしているのは僕の人生の中で最もメールをして、最も電話で話した人が貴方です。

そして、最も口論になった人も貴方。

普通さ、これだけ何度も何度も口論になったら、思想、信条、価値観、性格?

それはもうありとあらゆるものがお互いに不一致で、到底付き合えるようなもんじゃ無くて、友達としての関係を終わらせるなんて事には十分過ぎるくらいに十分だと思いながら、僕は毎回電話をしていたよね。

でも、そこは僕が無理を言って続けて貰った友達としての関係だったので、たとえどんな事があっても、僕の方から付き合いを止めるという選択は無いなぁとは思っていました。

それに、こういう関係が貴方にとって、もの凄いストレスになっている事は僕にも十分に分かっていたので、だから貴方がわざと僕のいう事にいちいちつっかかってきているのかなぁと思ったりもしたしね。

本当に、よくもまぁあんなに毎度毎度、口論になったと思う。

でも、次の電話の時には、お互いに何事も無かったかのように普通に電話で話し始めているんだよね。

そこはまぁ、お互いに大人だったからだと思う?

いや、あれは流石に度を越しているよ。

それなのに電話を架ける方も架ける方だし、受ける方も受ける方だと思うよね。

ただ、なんだかいつも喧々諤々の二人だったけれど、あの電話の中にも何か、何故か心地よいと思える部分はあったよねぇ。

どうしてこうなっちゃうんだろう、もう口論はしたく無いなぁと何度も思ったけれど、それでも電話する事はいつも楽しみだったんだから不思議だよ。

これはもう、恐ろしい程の相性としか言いようの無い、そんな感じだったと思う。

だけどさ、結局は互いに理解しあったり、尊重しあっていたのかっていうと、それはあまりなかったんだとも思う。

だから、そういう不一致が少しづつでも確実に積み重なっていってさ、僕らの友達としての関係はいつしか自然消滅的に終わってしまったのかも知れないねぇ。

で、これもまた同じように、どうして終わってしまったのか、よく覚えていないんだよ。

何か決定的な大喧嘩をしたのか、お互いに終わりだと思う何かがあったのか、今となっては覚えていないんだよねぇ。

これは結構大事な事だと思うんどけど、お互いに覚えていないんだから、嫌になっちゃうよねぇ…。


つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?