夏のある夜、私は空を見上げながらベランダに座って
県外に住む母に電話をかけた。

昼間は鬱陶しい夏の空気も、夜になるとひんやりとした風が吹き
心地よいと感じる時期。

私にはどうしても伝えなければならないことがあり、
その時を逃したらそれはまたいつになるか分からなかった。

母が電話に出たことが、私には奇跡のように感じて嬉しくなる。

どう切り出して良いのか少しだけ迷ったが、単刀直入に伝えた。


急にどうしたの?

そう聞かれて、私は説明しようとした。
その瞬間、声が震え、涙が出て来る。
虫の声が大きくなり、月がぼやける。
言葉にするのがやっとだった。

シンプルな祖父の想い。
生きていればきっと伝えたかったこと。
父親が息子達に望むこと。

この時の感覚を私はずっと忘れないだろう。
生きていた。
祖父は私。

過去も未来もなく、その瞬間が混じり合う。


電話越しに、母は私の異変に気が付き、とても驚いていた。

やっと会話が出来る様になってから、変だね、と笑って電話を切った。


きらきらと瞬く星を見ながら、
これが、私の使命の一つなのかもしれないと思ったが


それは今もよく分からない。



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