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この時期になると必ず見かける間違い(1-1)自家製酵素ジュース 【衛生管理のお話し】

先日、ある静岡県のホテルが提供している自家製酵素ジュースの製法についてYahoo!ニュースに取り上げられ話題となり、販売中止、謝罪するということがあった。

正直このニュースを目にして
「やっと世の中でニュースになるようになったか」という感想をもった。


内容としては
該当ホテルが自家製酵素ジュースを宿泊客に提供していたが、そのジュースの原料である夏みかんと砂糖を手で攪拌して発酵させたという。
そのドリンクを飲んで入浴するとデトックス効果があると説明。
その様子をとあるテレビ番組で紹介し、その内容に疑問を持った視聴者がSNSで拡散し、物議となり最終的にホテル側が謝罪したというもの。



酵素ジュースとはどんなもの?

いわゆる「酵素ジュース」「酵素シロップ」と呼ばれるものは、一般的に果物に砂糖を加え、容器内で素手で攪拌し、数日常温で発酵させたもの。
主に水や炭酸水で割ってドリンクとして飲用する。
いわゆる「果物のジュースの素」で、
もう何年も前から発酵界隈ではおなじみのアイテムである。

普段発酵を楽しんだりしている人にはこの「酵素ジュース」または「酵素シロップ」はとてもメジャーな存在であり、作ったり飲んだりした人も多いのではないかと思う。

以前から私はこの「酵素ジュース」に関しては懐疑的であり
講座や講義の中でほぼ毎回、啓発や問題定義を取り上げて話してきた。

何故この「酵素ジュース」が問題なのか?
答えはとてもシンプルなところにある。



酵素ジュースの問題点

結論から言うと、酵素ジュースの問題点は主に3つある。
その問題点をこれから分けて記事にしていこうと思う。

最初の1つ目は

「果物と砂糖を混ぜたものを手でかきまぜる事により手の常在菌で発酵させる」

繰り返すが発酵について知識がある人であれば、このようなことは絶対にしない。
何故、果物と砂糖を混ぜたものを手で混ぜて発酵させてはいけないのか?
それはなぜか?
この答えもとてもシンプルなところにある。

  1. 手の常在菌は発酵に関与する菌と、食中毒菌が必ず混在しているから

  2. 食中毒菌により腐敗が進む可能性がある

  3. 食中毒菌を防御するものがどのくらいの量で存在するか不明だから

  4. こんなもんでデトックスできないから

  5. ヘタしたらお腹こわすから

  6. 子どもに飲ますなんてもってのほかだから

後半の3行はちょっと過激になりましたが(笑)
1.~3.は発酵の基礎概念があればわかることであり、自分の口に入れるものであれば絶対に選択はしない。



「てしごと」という言葉のマジック

手作りは素敵だ。
ちょっとよくわからないものが入っている工業製品より、自宅で素性のわかる素材を使って、自分の手で時間をかけてつくったものを食べる。
とても尊いことだと思う。そして理想だ。
けど、工業製品にはない安全な製造環境をキープしながら家庭内で手作りをするということはちょっとだけもでいいのでそれなりの知識があったほうがいい。
特に発酵はその過程は目に見えない。
だからなんとなくできているように見えてそれは正解に向かっているのかどうかがわからない。

私のところにはそんな疑問がたくさん舞い込む。

発酵を楽しむうえで最も悩むことそれは

「正解がわからない」
「到達地点がわからない」
「ほんとうにこれでできているのかわからない」
なのだ。

発酵を始める動機として
家族や自分の健康のためとする人は多い。
だからこそ、発酵の正しいルートやセオリーを学ぶほうが成功率もあがるし、何より健康のためにはじめたことなのに、知らないことがあることでお腹をこわすなどという本末転倒な事は防げるのだ。



手はすさまじいほどの雑菌の温床

新型コロナウイルス
世界中が振り回されたこのウイルスを防ぐために必要なこと

「手を洗う」

コロナが蔓延する何十年も前からずっと言われてきたことだ。
私が小学生のころ、給食の前に手を洗う時間に流れていた唄を思いだす。
「石鹸で手を洗おう~♪」

コロナもインフルエンザも
ウィルスや風邪などの予防に手を洗うのは基本的なことだ。
それだけわたしたち手には雑菌がすさまじいほどいる。

アメリカ・カリフォルニア州にあるカブリオ・カレッジの微生物学者ターシャ・シュトゥルム氏が
「寒天培地のゼリーで満たしたシャーレに8歳の息子の手を浸け、細菌の手形を作りました」
と写真付きで語った記事は私にとってかなり衝撃的だった。

そして、この写真を見たとき、「きれいだな」とシンプルに思った。
いやこんな感想を持つのは多分変態(誉め言葉)。
発酵好きは変態(誉め言葉)が多いが、おそらくいわゆる一般的な感性の方はドン引きするであろう。

この中のどれが、いい菌で悪い菌かなんて絶対に学者でない限りわからない。

※閲覧注意
手の雑菌を培養した画像はさしずめアート作品のよう

Palm print of an 8 year old in nutrient medium after the 8 year old had played outside.

Imgur
この画像を見て綺麗と思ったアナタは私と同じ変態(誉め言葉)です。


人の手にはどれだけの有用な発酵に関与する菌がいて、腐敗菌がいるのか。
それは絶対にわからない。
どの菌の構成比かなんてどこを触ってきたか、衛生環境もわからないからだ。

発酵は人間にとってよい菌が、悪い菌よりも多い時に発酵に寄っていくので当然手の常在菌のバランスが悪ければ発酵はうまくいかない。
たとえそれが手を洗った後だとしても。
なのできちんと消毒をしたツールや容器を使って調理をするということはとても大事なのだ。

そして手だけでなく、食材が古く腐敗菌が多く付着していることが想定できる場合も同じだ。
食品製造を行う厨房や工場は保健所の指導のもと衛生管理がちゃんとされているが家庭のキッチンはそうはいかない。
むしろ家庭の台所のほうが雑菌の温床だったりする。

手作りの発酵食品は、何が入っているかわからない加工食品以上に
何が入っているかわからないのだ。



発酵の菌も雑菌もみんな大好き!
それは「糖」


「美味しいものは油と糖でできている」
これ名言だよね・・・・・
人間も微生物もみんな大好き。それは「糖」


基本的に発酵に関わる菌も、雑菌も糖が好きだ。
糖をエサに増殖する菌はとても多い。
どちらかが糖が嫌いなら問題はないが、残念ながら雑菌は糖が大好きだ。
(大事なことなので2回言う)

発酵は数の多い菌や元気で優勢な菌が増殖していくので
万が一手でかき混ぜたときに雑菌が優勢だった場合、それは発酵ではなく腐敗にまっしぐらに向かう。

せっかく体によいと思って始めたことなのに
発酵せず腐敗に向かうことは家庭内においては確率はとても高い。

この「酵素ジュース」の材料は、果物と砂糖のみで作ることに大きなポイントがある。
発酵が始まるスターター的な存在が糖のみであるということだ。

発酵を円滑に導くためには

  1. 発酵に関与する菌のエサ

  2. 発酵に関与する菌を助ける、増殖させる環境

  3. 雑菌を増殖させない環境

これらが必要不可欠となる。
特に3番の「雑菌を増殖させない環境」は大きな役割をもつ。
それらの1部は酸であったり、塩であったりいろいろあるのだが、酵素ジュースにはそれらの条件がない。
いわば、発酵に関与する菌が増殖できる一方で雑菌にもよい環境であるということなのだ。

(しかもだいたいは常温発酵させる。常温の環境下も雑菌たちは大好きな環境下だ。)

雑菌も糖が好きだ。
仕込む段階で、手や食材や容器などに雑菌が発酵に関わる菌よりも元気だったり優勢だったり多かったりした場合、容易に腐敗に傾く。
その過程が目に見えないだけに、腐敗リスクは1mmでも少なくしておいたほうがいい。

手作り発酵食品において重要なことのひとつは衛生面。
この私たちの手には、発酵に関わる菌以外にも、雑菌の温床であるということを忘れてはならない。

ましてや、果物と糖を合わせた菌にとってごちそうだけしかない部屋に飛び込んだらどうなるか?
目に見えない環境の中でも、阿鼻叫喚な状況になることを避ける事も我々がコントロールすることは可能だ。

手作りは素敵だけど、まずは第一にそのことを念頭にして楽しんでもらえたらいいかなと思う。


次回→
酵素ジュースの問題点2つ目

いつの間にか酒になっちゃった!を防ぐために

ご期待ください(笑)


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