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ニホンカモシカとの出会い

私のご近所さんは、ニホンカモシカだ。

去年の夏、現代アート作家の師匠とともに岐阜県恵那市飯地町に来て以降、
家の敷地内にニホンカモシカがやってくるようになった。

今ではお互い顔なじみで、カモシカたちは私たちに慣れっこだ。

私たちがいても怯えることなく、
しれっと草を食って、しれっと帰っていく。


しかし、私は飯地町に来るまで、ニホンカモシカという動物自体知らなかった。

私がはじめてニホンカモシカというをしったのは、
師匠がスマホで撮影した動画がきっかけだった。

アート活動の拠点を名古屋から岐阜県飯地町に移すべく、
2022年春、私たちは準備を進めていた。

運良くすぐに家がみつかったものの、家周辺の草がぼうぼうだっため、
家に住むまえに、草刈りをしなければいけなかった。

ある朝、師匠がひとりで草刈りに来たときのこと。

草刈り機をとりに車庫に近づくと、ふと、何かの視線を感じたらしい。

すると、家のすぐとなりの草むらから、ニホンカモシカがひょっこり顔を出していた。

師匠はすぐさまスマホで動画を撮影し、
私に見せてくれた。

師匠がはじめて会ったニホンカモシカ

最初は鹿か?と思ったが、
鹿にしては首が短くて、ずんぐりむっくりしている。

そして、なにも考えてなさそうな、すっとぼけた顔…。

なんだ、この生き物は??

すると、これがニホンカモシカだよ、と師匠が教えてくれた。

それにしても、ナゾの動物は師匠のほうを見つめていて、全然にげようとしない。

へえ、変わった動物がいるんだな。

これが、私がニホンカモシカを認知した瞬間だった。

しかし、ニホンカモシカは“氷河期からの生き残り”といわれる日本固有種の動物である。

「日本書紀」や「万葉集」にも記載されているらしい。

今は特別天然記念物に指定されている、貴重な生き物だ。

師匠は嬉しそうに言った。
「山神があいさつしに来てくれた。

山神か…。

私が山神と聞いてぱっと思いつくのは、「シシガミ」や「乙事主」、「モロ」といった、
宮崎駿監督の映画『もののけ姫』に出てくる山の神々。

よくよく考えてみれば、それぞれ、鹿、イノシシ、犬という動物に似た姿をしている。

『古事記』にも、ヤマトタケルが"白いイノシシ"の姿をした伊吹山の神と対峙する話があるから、
山に住む動物を山の神をする感性は、あながち間違っていないのかもしれない。

それにしても、家の内見に来たときはニホンカモシカなんて一匹も来なかったのに、
よくもまあ、師匠がひとりで来たタイミングで、都合良く顔を出してくれたものだ。

たまたま草を食べに来ただけ、かもしれないが、
師匠と私にとっては、思わぬカモシカの訪問は「この地に住んでもいい」という思し召しをもらえたような気がした。

イノシシに食われたタケノコ

そして、2022年8月、私は兄弟子と師匠とともに飯地町の家に引っ越した。

これで私もカモシカに会えるかな、期待していたが、
なかなかお目にかかることはできなかった。

一方で、師匠は"カモシカ運"をもっているのか、
ふたたび間近くでカモシカに遭遇し、Facebookでライブ配信をしていた。

えー、いいなあー。

師匠が羨ましくてしかたなった。

師匠がFacebookライブで配信したカモシカ映像

ところが、その一ヶ月後。

いよいよ、私もニホンカモシカにお目にかかれる時が来た。

雨がふるなか、ふらっとカモシカが来てくれたのだ。

当時の写真はこれだ。

そのとき、古いカメラしか持っていなかったので綺麗に撮れなかったが、とても嬉しかった瞬間だ。

当時はちょうど、兄弟子と師匠のおかげで、敷地内の草刈りが完了し、新芽がでてきたころだった。

背の高い草が刈られて、エサを食べやすくなったのだろう。

師匠と私が見守るなか、カモシカはのんびりと草を食べて帰っていった。

その日以来、ニホンカモシカが頻繁に草を食べにくるようになった。

いつも来てくれるカモシカだけでなく、
毎度違うカモシカが代わる代わるやってくる。

秋になり、食べ盛りの季節になったからだろうか。

それにしても、我が家のカモシカの出没率が異様に高かった。

ときには、カップルできたり、親子できたり、3匹同時に出没することもあった。

敷地内で師匠も柿をとっているとき、2匹のカモシカが目の前を走り抜けたこともある。

飯地町の人も、ここまでニホンカモシカが現れることは珍しいという。

どうやら、我が家の敷地はカモシカネットワークに信用されたらしい。

個体によって反応はちがうが、
ほとんどのカモシカは、私たちに気がついてもすぐには逃げない。

その代わり、じいっと見てくる。

そして、少し気まずそうに尻を向けて、
草をムシャムシャ食べはじめる。

逃げはしないけど、尻は向けるし、メシは食う。

そんな姿を見て、私はニホンカモシカたちに愛着を持ちはじめた。

三匹同時に出没したニホンカモシカ

せっかくだから、カモシカたちを綺麗に撮影したいと思い、
望遠レンズのついたカメラをレンタルした。

望遠レンズなら、距離があってもちゃんと撮れる。

ありがたいことに、カモシカはじっとしていてくれるので、たくさん撮らせてもらえた。

撮った写真を並べてみると、
頻繁に現れるカモシカがいることに気がついた。

そして、望遠レンズで顔がはっきり撮れるようになったので、
個体の識別ができるようになってきた。

私たちは、よく現れるカモシカに、それぞれ名前をつけてみた。

・かも吾郎
・かもの助
・かも吉
・かも奈
・かもみーる

ニホンカモシカは、ぱっと見てオスかメスか分からないが、雰囲気でなんとなく命名した。

当てずっぽうでつけた名前だが、
名前をつけると愛着がわいてくる。

カモシカが訪れるたびに、師匠と私は
「あれはかもの助か?」
「いや、体が大きいから、かも吾郎だ」といって、当てっこをするようになった。


こちらでは、我が家にやってくるかわゆいニホンカモシカたちのグッズを販売しているショップです。是非、お立ち寄りください。

現代アート作家・日比野貴之のnoteはこちら。

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