正中線とは何か。どう使うか①

古武術などで、よく出てくる概念が「正中線」です。一般的に「重心を通る垂直な線」であると定義され、この正中線がしっかりしているのが達人だといわれます。
しかし「正中線とは、具体的に何なのか」あるいは「何の役に立つのか」について語っている人は殆どいません。

私も最初は漠然としたイメージしか持っていなかったのですが、最近になって、正中線には物理的な根拠があると実感しました。
定義するなら「正中線とは、運動の中でバランスを作り出す能力である」。

バランスと言っても、ただ安定しているというだけではありません。
無足や寸勁、無拍子の動きなど、高度な動きの背景にも、正中線の働きがあるのです。
そうした正中線にまつわる話を、物理の側面から書いてみようと思います。

・各部の重心が揃うと効率が良い

積み木なら、中心をきっちりそろえて積むと、安定して高く積めますね。これが最も安定し、エネルギーのムダも少ない状態です。
人体でも、このように身体各部のバランスが中心にそろえられれば、いいわけです。
 
しかし、人間は積み木のように静止することはありませんね。
手足をちょっと動かすだけで中心はズレますし、ちょっと動くだけで軸は傾きます。
そもそも、運動すれば加速度や遠心力がかかり、力の条件はどんどん変化します。そのなかでバランスをとるとは、どういうことか。

・正中線は「加速度」と「質量」と「距離」の変換によるバランス能力

人間が運動する時の動きの要素は「加速度・質量・中心からの距離」の、3つになります。

加速度は、速度の変化。速度の変化には、すべて力が必要です。動かしはじめの加速と、動かし終わりの減速。それに重力の加速も加わります。

質量は、身体各部の重さ。体幹部は大きく、手足の先に行くほど小さくなります。

距離は、重心からの距離。前後左右上下に、どれだけ離れているかを示します。

実はこの3つは相互に関連していて、補い合ったり、代用したりすることができるのです。それによって、負荷やバランスの崩れを分散させることができるのです。

・負荷を分散する仕組み

・小さな質量でも、大きな加速度をかければ、大きな質量と釣り合う。
 ⇒身体の一部を加速・減速させることで負荷を時間的に分散できる

・重心からの距離が大きければ、小さな質量でも大きな力に対抗できます。   
 ⇒中心からの距離によって、負荷を位置的に分散できる

その変換を無意識的に行えるようにするのが、正中線。
次回から詳しく説明します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?