大フレッシュマン

水滸噺番外「大フレッシュマンシリーズ」

北方水滸噺で一際異彩(と異臭)を放つフレッシュ趙安(俺は何を言っているのだ)。

謎に包まれしフレッシュマンの歴史を紐解かんと、二人の若い軍人が突撃しますが、その歴史の解明は一筋縄ではいかない代物だったようです。

人物

・李明(りめい)…禁軍の若手将校の筆頭。第十代フレッシュマンには絶対になりたくない。
・公順(こうじゅん)…フレッシュ趙安の副官(候補)。第十代目フレッシュマン候補次点。あどけない童顔は女性ファンが多いという。

・趙安(ちょうあん)…第九代目フレッシュマン。禁軍のホープ。
・何信(かしん)…趙安の親衛隊隊長。くどすぎる顔と濃すぎる体臭。
・陳恵(ちんけい)…趙安の副官。ほぼモブ。

・袁明(えんめい)…青蓮寺総帥。
・洪清(こうせい)…袁明の従者。体術の達人。
・呉達(ごたつ)…青蓮寺の幹部。元々は軍人。
・沈機(しんき)…青蓮寺の中堅。

・童貫(どうかん)…禁軍元帥。
・酆美(ほうび)…童貫の副官。 
・侯蒙(こうもう)…童貫の抱える文官。

・楊業(ようぎょう)…初代フレッシュマン。宋建国の英雄。
・呼延賛(こえんさん)…二代目フレッシュマン。彼も宋建国の英雄。子孫は梁山泊入りした第八代目フレッシュマンの呼延灼。

第一話「フレッシュマンの謎」

李明「このままでは次のフレッシュマンは俺になっちまう」
公順「だからって私を引っぱり出さなくても」
李「俺だって元帥の調練を仮病で休んでいるんだぞ」
公「バレたら三月のブートキャンプですね」
李「考えたくもない」
公「何信殿の調練も恐ろしいですよ」
李「あいつと同室は願い下げだよ」

李「おかしいと思わないか?」
公「何がですか?」
李「初代が楊業、二代目が呼延賛」
公「そして八代目が呼延灼、九代目が趙安殿」
李「七代目が呉達という青蓮寺の幹部らしいのは掴んだ」
公「それよりも前が全く掴めませんね」
李「もっとおかしな点は他にある」
公「それは?」

李「フレッシュマンの代数が若すぎると思わないか?」
公「確かに」
李「宋国が出来て150年経つというのに、九代しか経っていない」
公「楊業、呼延賛は建国の功臣」
李「鍵は三代目にあるはずだが」
公「それが全く掴めない」
李「なのにフレッシュマンが復活されたのはごく最近だ」
公「不自然だ…」

李明「手がかりを掴めんだろうか」
公順「呉達殿に面会するのはどうでしょう?」
李「青蓮寺か」
公「呉達殿は軍人でしたし、その縁を辿れば会うのに不自然はないかと」
李「よし、呉達殿に面会しよう」

呉達「波乱の香りがしませんか、洪清殿?」
洪清「…」
呉「未熟な果実が発するような」

李「失礼いたします」
呉「禁軍の李明殿だな」
公「この度はご面会いただきありがとうございます」
呉「趙安の副官の公順殿か」
李「呉達殿は軍人だったと聞き、昔の話を聞きたくなり」
呉「私も忙しいが、有能な若い軍人と会うのは無駄ではないからな」
公「単刀直入にお伺いします」
呉「軍人らしいな」

公「呉達殿も七代目フレッシュマンだったと趙安様から伺っています」
呉「左様」
李「ダンディーでジューシーなフレッシュさは開封府の女性を虜にしたと」
呉「昔の事さ」
公「我らも十代目フレッシュマンの座をかけ、切磋琢磨しておりまして」
呉「ほう」
李「呉達殿の前のフレッシュマンは」
呉「やめよ」

李明「呉達殿?」
呉達「そこから先はフレッシュマンを継ぎし者しか触れる事は許さぬ」
公順「我々も十代目を」
呉「まだフレッシュマンを名乗る事は許されていないはずだ」
李・公「!」
呉「二人のうち一人がフレッシュマンの歴史を紡ぐ事ができるのだよ」
李「…」
公「…」
呉「お引き取り願おう」

李「想像よりも厳しいな」
公「もう辞めませんか、李明殿」
李「貴様、フレッシュマンを俺に押し付けるつもりか」
公「これ以上は危ない気がします」
李「怖気づいたか、公順」
公「これは宋国の暗部を探るのと同様ではないでしょうか」
李「宋国の暗部?」
公「闇、と言えるかもしれません」
老人「…」

李「おっと、失礼。ご老人」
老「…」
公「もう帰りましょう」
老「若い軍人よ」
李「何か?」
老「フレッシュマンの歴史を探ってはならない」
公「!」
李「何かご存知なのか?」
老「探ってはならぬと言ったばかりだぞ」
公「しかし、私たちは知りたいのです」
老「無駄に命を捨てる事になっても?」

李明「命を?」
老人「軍人がそんな事で死んではならない」
公順「フレッシュマンにそんな深い闇が?」
老「闇ではない。光だ」
李「光?」
老「みだりに足を踏み入れたら、その光に命をかき消されてしまうぞ」
公「その光の先に何があるのですか?」
老「面白い質問だ」

老「その光は、国を照らす光だ」
李「国を照らす?」
老「左様。その光は国の黒々としたものに当てることで…」
老人「沈機」
沈機「…」
老「李富殿が探している」
沈「かしこまりました」
李・公「…」
老「若い軍人よ」
李・公「…」
老「出口まで案内しよう」

李(凄まじい威圧感だ)
公(口を開くと打ち倒されそうだ)
老「出口だ」
李「ありがとうございます」
老「二度とフレッシュマンの歴史に触れるな」
李・公「!」
老「一度しか言わぬぞ」
李・公「…」

沈「食べ頃の果実に触れると昔話がしたくなりますな」
老「…」
沈「第五代目フレッシュマン洪清殿」

李明「なんだあの老人は」
公順「恐ろしいほどの手練れでしたね」
李「今日のところは引き上げよう」
公「そうですね」
李「公順」
公「はい」
李「続けるか?」
公「…」
李「今なら引き返せるぞ」
公「続けましょう」
李「死ぬかもしれんぞ」
公「構いません」
李「分かった。俺たちは一連托生だ」

公「趙安殿にそれとなく聞いてみます」
李「深入りはしない方がいいかもしれんぞ」
公「私は趙安殿の副官です」
李「俺も童貫元帥に心当たりがないか聞いてみよう」
公「仮病がばれないように」
李「お前もな」

袁明「…」
洪清「…」
袁「若さとは瑞々しいものだな、洪清」
洪「…」

・李明(りめい)…フレッシュマンの乳首の見える衣装だけは絶対に嫌だ!
・公順(こうじゅん)…フレッシュマンになってからの趙安殿はやっぱ変だ!
・何信(かしん)…フレッシュ趙安に魅了され己のフレッシュさを磨いているが、賞味期限はとっくに過ぎてる。

・呉達(ごたつ)…第七代目フレッシュマン。若い頃は開封府中の女性をフレッシュさで魅了していたが、今でも青蓮寺女性職員にファンは多い。
・沈機(しんき)…青蓮寺の中堅だが、仕事の実績や執念は若手には真似できない凄みがある。
・洪清(こうせい)…彼の若い頃の話を知る者は皆口をつぐむという。
・袁明(えんめい)…勿論彼にも若い頃はあった。その頃のことはあまり思い出したくない。

第二話「フレッシュマンの謎」~李明の章~

李明「一日休んだだけで気後れするな」
鄷美「李明」
李「鄷美殿」
鄷「まったく体調を壊すなど、それでも禁軍将校か」
李「申し訳ございません」
鄷「病床調練に励んでいたのであろうな?」
李「病床でもインナーマッスルを調練していました」
鄷「よろしい、調練に戻れ」
李(調練ホリックめ)

童貫「李明」
李「は!」
童「お前が休みの間に、青蓮寺から警告が届いていたぞ」
李「青蓮寺から!?」
童「わざわざ私から直接伝達するように、との念の込めようであった」
李「…」
童「李明」
李「…」
童「私に聞きたいことがあるのではないか?」
李「…」
童「内容によっては、仮病を不問にしても良い」

李「…」
童「何もないならばお前を三月の調練に連行させるぞ」
李「恐れながら」
童「…」
李「フレッシュマンの歴史とはなんなのでしょうか?」
童「宋国にあった忌まわしき負の歴史よ」
李「元帥も歴史をご存知なのですか?」
童「二つ目の質問に答えるほど、私の機嫌は良くないぞ、李明」
李「…」

童貫「お前の考えるフレッシュマンの歴史を述べてみよ」
李明「しからば…」
童「…」
李「私はフレッシュマンは軍人が襲名するものだと考えておりました」
童「…」
李「趙安、呼延灼。その前は呉達という元軍人が襲名したことからそう考えました」
童「…続けよ」

李「しかし、フレッシュマンの核はどうやら青蓮寺にあるようだったのです」
童「…」
李「昨日私は青蓮寺幹部になった呉達と面会しておりましたが、フレッシュマンの歴史に触れることを決して許そうとしませんでした」
童「…」
李「その後、私は青蓮寺に勤める老人に出会いました」
童「…」

李「その者は、フレッシュマンは国の闇を照らす光であると申しておりました」
童「国の光、か」
李「その話をしている最中、恐ろしい老人が話を遮り、私を出口まで導いてから、警告したのです」
童「恐ろしい老人?」
李「私は導かれている時、口を開いたら殺されると思いました」
童「正しい」

童貫「命を拾ったな、李明」
李明「やはり」
童「あの者は、洪清と言う」
李「洪清殿?」
童「宋国一の体術の名手だ」
李「そんな者が、なぜ青蓮寺に」
童「それは知らぬ」
李「…」
童「しかし、フレッシュマンの歴史を犯そうとする者を洪清が見逃したなど、信じられん話ではあるな」
李「なんと!」

童「李明」
李「はい」
童「その強運に免じて、三月の調練を一月に縮めてやろう」
李「…」
童「お前の着想は悪くはなかったが、私を驚かせるほどではなかった」
李「…」
童「今のお前には一月の地獄がちょうど良い」
李「…」
童「一度死んでこい、李明」
李「…かしこまりました」

童「一月の調練をこなし、生きて帰った暁には、私の知るフレッシュマンの歴史を話しても良い」
李「…」
童「支度をせよ、李明」
李「かしこまりました」

童「侯蒙」
侯蒙「はい」
童「フレッシュマンの光は、国を照らすと思うか?」
侯「そうは思えませんな」
童「奴らは、光ではない。闇だ」 

・李明(りめい)…仮病を使った罪悪感であまり眠れなかった。
・鄷美(ほうび)…仮病調練など認められるか!
・童貫(どうかん)…兵の顔色を見れば仮病かどうかなど一発で分かる。
・侯蒙(こうもう)…フレッシュマンとは肌が合わない。歳を取ったから、という理由ではないぞ。

第二話「フレッシュマンの謎」~公順の章~

公順「私はまだ副官候補生だった」
趙安「フレッシュ!」
何信「フレッシュ!」
公「フレッシュマン調練中か」
何「フレッシュ趙安殿」
趙「何かな、ジューシー何信?」
公(文字数が嵩むな)
何「フレッシュな副官候補生の中に、趙安殿の目に叶う者はいましたか?」
趙「熟れる兆しが見える者は、いる」

何「その者は?」
趙「公順だ」
何「まだ彼は花も咲かせていないと思いますが」
趙「確かに、彼はまだまだ芽が出始めた頃合いだ」
何「その程度の者が気になるのですか?」
趙「見るべき所は、彼が芽を出した早さと発芽した時の強靭さだよ、何信」
公(褒められてるのか?)

趙「わざわざ我らフレッシュ趙安軍を志願し、下働きでも甘酸っぱさを振りまき続けた」
何「確かに、彼のチャーミングな顔は瑞々しいですな」
趙「何信」
何「は」
趙「軍人が見た目に騙されてはいけない」
何「!」
趙「彼は可愛らしいけれども相当なしたたか者だ」
何「?」
趙「公順!」
公「!」

何信「盗み聞きか、公順」
公順(相変わらずキツい匂いだ)
趙安「何か報告かな?」
公「はい、明日の調練の事で話が」
趙「明日は休息日だよ、公順」
公「!」
趙「何か私に聞きたい事でもあって来たのかな?」
何「公順!趙安殿に嘘をつくなど」
趙「何信」
何「!」
趙「Be quiet」
公「?」

趙「幸いフレッシュマンの調練も終えた所だし、新芽の君を愛でるのも悪くないと思った所だ」
公「はあ」
趙「しかし、あまりにもお痛がすぎると」
公「…」
趙「君と言えどもその芽を積まなくてはいけないからな」
公「…」
趙「聞きたいことは何かな、公順」

公「私は、趙安殿がフレッシュマンになられてから大きく変わられたと思っています」
趙「私が、変わった?」
公「フレッシュマンになる前の趙安殿は、もっと慎ましく丁寧な方でありました」
何「公順、貴様」
趙「何信」
何「…」
趙「公順」
公「…」
趙「その感想は半分正しく、半分違う」
公「…」

趙安「確かに私は、フレッシュマンになってから大きく変わった」
公順「…」
趙「しかしそれは、私という果実が、食べ頃を迎えただけのこと」
公「…」
趙「私は食べ頃を迎えた」
公「…」
趙「だがな、それに味が伴うのかと言えば、全く別の話なのだ」
公「…それは?」
趙「偉大なる先代、呼延灼」

公「呼延灼将軍」
趙「もう将軍ではない。梁山泊の、賊徒だ」
公「…」
趙「かつて私が仰ぎ見て、生涯叶わぬと痛感したフレッシュマン、呼延灼」
公「…」
趙「その無念、悔しさを何回鉄塔に登って叫ぶことで晴らそうとしたことか」
公(迷惑だな)
趙「そんな彼からフレッシュマンを託されたのが、私だ」

趙「フレッシュマンを引き継いだあの日」
公「…」
趙「呼延灼は、私の腐臭にいち早く気づき、厳しく戒めた」
公「…」
趙「その優しさは甘くなかった。とてもパンチが効いていたよ」
公(殴られたんだな)
趙「私は、呼延灼を超えねばならぬ」
公「…」
趙「その為に、死ぬまでフレッシュマンを貫く所存だ」

・公順(こうじゅん)…趙安軍の匂いに慣れてきた。遊びに来た友達は失神した。
・趙安(ちょうあん)…以後、文字数の都合でフレッシュ趙安を趙安と省略する。
・何信(かしん)…以後、文字数の都合でジューシー何信を何信と省略する。

第三話「フレッシュマンの夢」

公順「結局何も分からなかった」
陳恵「公順」
公「陳恵殿」
陳「フレッシュマンを嗅ぎまわってるそうじゃないか」
公「何故それを」
陳「何信は分かりやすい奴だからな」
公「何か言っていましたか?」
陳「趙安殿が黙らせていた」
公「趙安殿が」
陳「少し俺の知っている事を教えてやろう」
公「?」

陳「俺は、開封府にいた頃の呼延灼殿の部下だったのだ」
公「なんと!」
陳「呼延灼殿はフレッシュマンを襲名され、絶頂を迎えようとしていた」
公「…」
陳「しかし、当時のフレッシュマンへの風当たりは、強かった」
公「…」
陳「高俅をはじめとする一派が、フレッシュマンを廃する運動を起こした時期だ」

陳「呼延灼殿は、強烈な逆風にも関わらず、果敢に立ち向かっていた」
公「すごい」
陳「しかし、遂に心が折れてしまったのだ」
公「それは?」
陳「高俅一派の嫌がらせだ」
公「…」
陳「通りすがりに、こう言われたのだという」
公「なんと?」
陳「キモい、と」
公「」

陳恵「伝説の二代目フレッシュマン呼延賛以来の襲名だったが、あっけないものでな」
公順「…」
陳「呼延灼殿は、フレッシュマン引退を決断され、代州の将軍になる道を選んだ」
公「…」
陳「そして白羽の矢が立ったのが、趙安殿だ」
公「やっと知ってる頃の話になった」
陳「いや、お前は何も知らない」

公「それは?」
陳「呼延灼殿が、なぜ趙安殿を次期フレッシュマンに任命したのか、という事だ」
公「…」
陳「ここからは、俺の憶測に過ぎぬのだが」
公「…」
陳「安撫使であった趙安殿のお父上の強い意向があったようなのだ」
公「父君が?」
陳「フレッシュマンになれず、その夢を息子に託したのだ」

公「そんな過去が」
陳「確かではないが、闊達でも恥ずかしがり屋だった趙安殿が、フレッシュマンになりたがるとは思えん」
公「なるほど」
陳「俺が話せるのは、ここまでだ」
公「ありがとうございます」
陳「…」
公「陳恵殿」
陳「何だ?」
公「ぶっちゃけキモいですよね?」
陳「めっちゃキモいよな」

公順「この鉄塔はいつ来ても登りたくなるな」
趙安「呼延灼殿。私は、フレッシュマンになった事を、悔やんではいません」
公(趙安殿!)
趙「しかし、私はあなたと共に戦いたかった。それだけが、心残りです」
公(どうしたのだろう?)
趙「登ってこい、公順」
公「!」
趙「お前の青臭さは、高みでも鼻に付く」

公「失礼いたしました」
趙「三度目はないぞ、公順」
公「呼延灼殿と、共に戦うとは?」
趙「お前も、憧れの人がいたら、共に戦いたいと思わないのか?」
公「…私は、その憧れの為に日々精進していますよ」
趙「公順、お前の憧れとは?」
公「あなたと共に戦う事です。趙安将軍」

趙「私と共に?」
公「そうでなければ、禁軍でもキワモノ扱いされている趙安将軍の軍など、志望しません」
趙「随分だな、お前」
公「私は、趙安殿がこの国を背負う将軍に相応しいお方だと見込んだのです」
趙「私が?」
公「はい」
趙「まだまだ新芽だと思っていたが、いつの間に蕾をつけ始めたのやら」

趙「公順」
公「はい」
趙「追従はいらん」
公「…」
趙「なぜ、お前は私をそこまで買った?」
公「あなたが、ご自身の弱さと葛藤するところに惹かれたのです」
趙「私の弱さ?」
公「熟れた果実なのに、傷みを隠さないところです」
趙「知ったような口を」
公「フレッシュマンですから、私も」

公「禁軍は、果実と思えぬほど無臭な軍か、腐り果て液状化したような軍しかないと思っていました」
趙「言うではないか、公順」
公「しかし、あなたの軍は違った」
趙「…」
公「臭いんです。あなたの軍は」
趙「貴様」
公「人間らしい臭みがするんです」
趙「…」
公「そんな軍、他には無かった」

趙「そうか。私の軍は臭いのか」
公「臭いです」
趙「何信は、なんとかせねばならんと思っていたが」
公「何信殿のエグい臭みも、我ら趙安軍には欠かせませんよ」
趙「臭みのハーモニーか」
公「その軍は、フレッシュ趙安殿が将軍でないと成り立ちません」
趙「公順」
公「趙安殿」
趙・公「フレッシュ!」 

・公順(こうじゅん)…嗅覚に異常をきたすほど鈍感になってしまったが、戦や揉め事の匂いにはとても敏感。
・陳恵(ちんけい)…どっかで出てきたはずの、初代趙安軍副官。…どこで出てきたっけ?
・趙安(ちょうあん)…鉄塔は、呼延灼と共にフレッシュマンの衣装に身を包み、フレッシュポーズの練習をした、かけがえのない思い出の場所。

第四話「フレッシュマンの史」

李明「帰還いたしました、元帥」
童貫「獣のようだな、李明」
李「今、死ぬわけには、いきませんから」
童「それでは、約束を果たすとしようか」
李「…」
童「フレッシュマンを再興させた者がいるのは、知っているな」
李「楊業、呼延賛以来、欠番でしたからね」
童「その者は、大宋国全土を敵に回した」

童「宋国全土を敵にしてまで、なぜフレッシュマンを再興したのか」
李「…」
童「腐敗しつつあるこの国を蘇らせたかったのだ」
李「…」
童「新法党と旧法党の暗闘を、知っているか?」
李「知識だけですが」
童「新法党の魁は、いつも奴であった」
李「…」
童「第五代目フレッシュマン、洪清」
李「!」

童「その副官を務めていたのが、第六代目フレッシュマン、沈機だ」
李「あの老人」
童「奴らは、フレッシュマンの衣装に身を包み、旧法党との戦いを繰り広げていたのだ」
李「恐れながら、元帥」
童「…」
李「旧法党の衣装は、どんなでしたか?」
童「同じくらいキモかった」
李「なんだこの国」

童「新法党と旧法党の血で血を洗う暗闘は、果てる事なく続くと思われた」
李「…」
童「だが、新法党に悲劇が起きた」
李「それは?」
童「新法党総帥の名を、聞いたことはないか?」
李「確か、王安石と」
童「…」
李「まさか!」
童「そのまさかだ」

李「信じられません」
童「王安石こそ、フレッシュマンを再興した張本人で、奴こそ抹消されし、三代目フレッシュマンなのだ」
李「恐ろしい…」
童「奴が失脚した結果、新法党は窮地に立たされた」
李「…」
童「王安石がいなくなり、旧法党の反撃にあった新法党は、妥協を余儀なくされたのだ」
李「妥協?」

童「奴は、旧法党に駆逐されるよりも、膝を折り和議を結ぶことを選んだ」
李「…」
童「その際の恥辱は、かつてないほどだったと言われている」
李「…」
童「しかし、和議を結んだ選択は、正しかった」
李「…」
童「奴が恥辱を耐え忍び、作った組織こそ」
袁明「青蓮寺だ」
洪清「…」
李「!!」
童「…」 

・李明(りめい)…一月の懲罰調練の思い出?土は食えるってことかな…
・童貫(どうかん)…自分で考案しておきながら、調練の惨状を見てドン引きすることがある。

・王安石(おうあんせき)…宋国をフレッシュにすべく、新法党を立ち上げた。良い子のみんなは新法党を躊躇わずフレッシュ党と読んだに違いない。
・袁明(えんめい)…稀代の改革者王安石に心酔した若手時代。
・洪清(こうせい)…フレッシュマンの衣装を着る早着替えの技は、今では体術の稽古着を着る時のみ片鱗を見せる。

第五話「フレッシュマンの闇」

童貫「随分と仰々しいではないか、第四代目フレッシュマン袁明」
李明「!」
袁明「昔話は、もう充分だろう、童貫」
童「呉達を軍に返してくれるのなら、私ももっと楽ができるのだがな」
袁「本人の強い希望だ」
童「洪清。あの衣装にはもう身を包まないのか?」
洪清「不要」
李(私はどうしたら)

洪「若い軍人よ」
李「!」
洪「警告したはずだ」
李「…」
童「洪清」
洪「…」
童「私の目の黒いうちは、目の前で部下を死なせるわけにはいかんぞ?」
李「!」
童「何をしに来たのかな、袁明?」
袁「随分と我々の秘めた過去について喋ってくれたな」
童「嫌か?」
袁「嫌ではないし、過去を消すことはできない事も分かっているつもりだ」
童「…」

袁「李明と、話がしたい」
童「それは勝手にしろ」
李「!」
袁「李明」
李「はい」
袁「童貫の話を聞いてどう思った?」
李「私は国のことは、あまり分からないのですが」
袁「…」
李「一つだけ、分かることがあります」
袁「それは?」

李「フレッシュマンの衣装だけは、着たくないことです」
洪「李明」
袁「お前が怒りに震えるとは珍しいな、洪清」
洪「…」
袁「李明」
李「…」
袁「お前の気持ちは、よく分かるぞ」
李「?」
袁「実は私も、あの衣装は二度と見たくないほど嫌いだ」
洪「!?」
袁「外で待っていろ、洪清」

袁「フレッシュマンの歴史は、宋建国の功臣楊業から始まる」
李「はい」
袁「呼延賛が継いでから、その後続かなかったのはなぜだか分かるか?」
李「…キモかったから、ですか?」
袁「…」
李「…」
袁「正解だ、李明」
李(マジかよ)
袁「それを王安石様が、国をフレッシュにするために蘇らせたのだ」

袁「王安石様が失脚され、フレッシュマンの名を私、洪清、沈機が継いだが、問題が発生した」
李「…」
袁「後継が、いなくなってしまったのだ」
李「キモかったからですか?」
袁「…」
童「李明」
李「…失礼いたしました」
袁「そこで私は禁軍将校呉達に目をつけ」
李「…」
袁「呉達は、快諾したのだ」

袁「呉達の後の人選も難航した」
李「…」
袁「しかし、奇跡が起きた」
李「奇跡?」
袁「初代フレッシュマン楊業の末裔、楊志。二代目フレッシュマン呼延賛の末裔、呼延灼が禁軍に加わったのだ」
李「…」
袁「しかし楊志は、早々とフレッシュマン候補から、外された」
李「それは?」
袁「顔の痣だ」
李「痣?」

袁「青面獣と呼ばれるほど、大きな顔の痣があった」
李「…」
袁「軍人の才覚は飛び抜けていたが、これではフレッシュマンとは言えないと、我々の間でも候補から見送られたのだ」
童「今思えば大失敗だったな」
袁「結果呼延灼をフレッシュマンにする事になったのだ」
李「袁明様」
袁「…」

李「なぜ私に、フレッシュマンの歴史を?」
袁「お前を、早急に第十代目フレッシュマンに襲名させる動きがある」
李(どこで!?)
袁「お前の返答次第では、すぐにでもフレッシュマン引継の儀を行えるぞ」
李「趙安殿は?」
袁「あれはもう腐った果実だ」
李(体臭きついもんな)
袁「どうかな、李明?」

・李明(りめい)…やっぱり俺の価値観は間違ってなかったのか。
・童貫(どうかん)…実は一度だけフレッシュマンの衣装を着たことがある。

・袁明(えんめい)…王安石様は素晴らしい人だったが、ファッションセンスだけは受け入れられなかった。
・洪清(こうせい)…これが恥ずかしいという感情だったのか。
・呉達(ごたつ)…禁軍時代は童貫とそりが合わなかったが、調練の才能は認められていた。ぶっちゃけデスクワークの適性は思ったほどではない。

最終話「フレッシュマンの友」

趙安「お待ちください、袁明様」
袁明「趙安」
公順「童貫元帥。お部屋を今暫しお騒がせする事を、お許しください」
童貫「…」
李明「公順、その衣装は」
公「趙安殿とお揃いの、フレッシュマンの衣装だ」
李(やっぱキモいな)
袁「洪清。この腐った果実どもをなぜ通した」
洪清「目です。殿」
袁「目?」

童「歴代フレッシュマンの中でも、一番敵の命を奪った者が言うことを信用すべきではないかな」
袁「!」
趙「…」
公「…」
袁「燃えたぎった熱い目をしている」
李「…」
袁「それになんとしたことだ。今まで鼻についていた臭気が微塵も無くなっている」
趙「私はもう迷いません、袁明様」
袁「趙安」

趙「私は、自身の臭気に全く気付いておりませんでした」
李(酷かったですよね)
童(酷かった)
趙「それも全て、私の迷いという腐臭から生じる臭気だったことに気づいたのです」
袁「趙安。お前の迷いとは?」
趙「先代フレッシュマン、呼延灼への未練です」
袁「ほう」

趙「私は、呼延灼が賊徒になった事を、未だ受け入れる事が、出来ていませんでした」
袁「…」
趙「もしかしたら、私も呼延灼の元へ行くべきなのではないか、という迷いさえあった事を、告白いたします」
李(マジかよ)
趙「しかし、その未練を全て断つことができました」
袁「それは?」
趙「我が副官、公順の力です」

趙「公順」
公「我ら趙安軍は、宋国で一番人間の軍である事を誇りとして、戦います」
童「我らが人間ではないと?」
公「童貫元帥の軍は、私のような者では入ることはできないでしょう」
李(公順)
公「それでも我らは、宋国の禁軍として戦いたいのです」
童「それが趙安の軍である理由は?」
公「臭みです」

童「臭み?」
公「人間の、臭みです」
童「…」
趙「失礼ながら、童貫元帥の軍はフレッシュというには無味無臭すぎるのです」
童「ほう」
趙「私は禁軍をフレッシュにしたいのです」
童「なるほど」
趙「禁軍をフレッシュにする魁として、私たちの軍をお認めください」
童「好きにするがよい」
袁「…」

童「袁明」
袁「まさかこんな所で、昔の友の目を見つけるとは思わなかった」
趙「袁明様」
袁「趙安」
趙「は!」
袁「引き続き、宋国フレッシュマンを任せる」
趙「有難きお言葉」
袁「宋国のために青蓮寺は、お前の力になる事を約束しよう」
趙「…」
袁「ではな、童貫」
洪「…」
童「またな、袁明」

李「見事だった、公順」
公「お前も大変だったではないか、李明」
李「公順」
公「おう」
李「我々は所属する軍こそ違うが、生涯の友である事を、ここに誓おう」
公「勿論だ、李明」
李「いつか共に、宋国の旗のもとで戦う日を楽しみにしているぞ」
公「俺もだ、公順」
李「さらばだ」
公「さらば、友よ」

呼延灼「…」
韓滔「どうした、呼延灼」
呼「フレッシュな匂いに、スパイシーな刺激を感じてな」
韓「フレッシュマンってのはなんだったのかのう」
呼「あれはふざけたものではない」
韓「まさか」
呼「あの衣装には、死んだ者の血が染み込んでいる」
韓「本当か」
呼「だが、もう二度と着たくはないがな」 

・公順(こうじゅん)…李明と刎頸の交わりを結んだ。フレッシュマンの衣装は戦場の下着としても有効ですね!
・趙安(ちょうあん)…歴代フレッシュマンには感じられないが、李富や聞煥章にはまだまだ実感できる程度の体臭。

・李明(りめい)…公順と断金の交わりを結んだ。公順に友情の証として送られてきた衣装の用途に困っている。
・童貫(どうかん)…若いころの日記からフレッシュマンの衣装を着用している写真が出てきてじわりと汗をかいた。

・袁明(えんめい)…二人の若きフレッシュマンの瑞々しさに光を見出した。悪くないではないか、フレッシュマンも。
・洪清(こうせい)…いつ着る時が来ても問題ないように、開封府のクリーニング屋に衣装を持って行った。

・呼延灼(こえんしゃく)…かつてフレッシュマンの指導をした後輩と戦う日も近い。
・韓滔(かんとう)…宋国の酔狂に付き合わされる身にもなってほしいのう。

長々とご覧いただきありがとうございました!(いや、マジで)

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