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水滸噺 4月(下)[永久機関青蓮寺]

あらすじ
豹子頭、健康診断で死の淵に立ち
死の淵に立ちし玉麒麟、及時雨の愛に濡れる
没遮攔、眼帯選びで小遮攔を震わせ
子午山の母、豹子頭・九紋竜・禁軍元帥を震わす

水滸噺 注意書き
北方謙三先生水滸伝何でもありな二次創作です。
・水滸伝の原典ネタは日常茶飯事、スマホにMRIなど電子機器も飛び交い、  
 あの人が梁山泊で元気に生きていたりする、異世界からお届けします。
・原作未読の方でも楽しめるように、ネタバレを極力避けていますが、
 薄々感づいてしまう個所が垣間見えますので、その点はご注意ください。
・作者のtwitterにて1日3回を目標に投稿しています。 
・今月号、バックナンバーのご意見ご感想、リクエスト等々、こちらまで
 お寄せいただけると、とても嬉しいです!いつも助かっています!
・原作に興味を持たれるきっかけになったらこれ以上の喜びはありません。
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局地的に大人気(になれたらいいな)!
四月を少しフライングしてお届けします。
それではいってみましょう!

梁山泊

梁山泊(りょうざんぱく)…この世界では108星の生まれ変わりという設定はないけれど、妙に共通点を持った男女が集う場になった。共通点を言葉にするのは難しい。

騎馬隊

騎馬隊…よく走るお馬とよく走る兵隊とよく走らせる騎馬隊長のいる部隊。

人物
・林冲(りんちゅう)…愉快な騎馬隊長。黒い騎兵を率いる。
・索超(さくちょう)…サブ騎馬隊長。青い騎兵を率いる。
・扈三娘(こさんじょう)…綺麗所担当。彼女ファンの騎兵を率いる。
・馬麟(ばりん)…笛担当。笛の名手のバンドを率いる。
・郁保四(いくほうし)
…旗担当。何をするにも隊長に率いられる。

・宣賛(せんさん)…諸事情があって頭巾で顔を隠している。感情はリアクションに出やすいタイプ。
・呂方(りょほう)…流花寨の隊長に「両方だ呂方」って真顔で言われたとき、あとでじわじわきた。

1.
宣賛「…」
林冲「もう一度だ、宣賛」
索超(林冲殿に乗馬を習うとは)
馬麟(大した奴だ)
宣「…!」
林「よし、行けるぞ」
宣「…やった!」
索(お!)
馬(…⁉︎)
林「乗れたな」
宣「ありがとう、林冲殿」
林「ふん」
索「良かったな、宣賛」
馬(今、疾駆する馬と林冲殿がしばらく併走していたような)

・林冲(りんちゅう)…身体能力に全特化しているので、多少のバグは誰も気にしなくなった。馬とかけっこさせた結果、第2コーナーまでほぼ互角。
・索超(さくちょう)…教えるのも上手だが、丁寧すぎて指示待ち部下になりがち。
・馬麟(ばりん)…笛の吹き方を教えたくても、楽譜なしでノリで吹いてるだけだから如何ともし難い。
・宣賛(せんさん)…初めての乗馬。果敢にも林冲に頼み込んで教えてもらった。その際にできた数々の傷は、林冲に教えてもらった勲章である。

2.
索超「なあ呂方」
呂方「どうした、兄貴?」
索「ここだけの話だが」
呂「おう」
索「俺は入山する前に放浪していたが」
呂「そうだな」
索「今思えばあれが最後ののどかな長期休暇だった気がするのだ」
呂「兄貴のスキルはどこでも重宝されるほど貴重だからな」
索「騎馬隊だと?」
呂「高すぎるな」

索「俺からすれば当たり前なことをしているだけだが」
呂「論理的な思考ができる」
索「うむ」
呂「的確なコミュニケーションが取れる」
索「まあな」
呂「人を思いやることができる」
索「それほどでもあるまい」
呂「当たり前のレベルが高い」
索「面接官か」

・索超(さくちょう)…剣の実力。穏やかな人柄。サバイバルスキル等々、各隊に一人は欲しい逸材。馬麟と扈三娘がその希少価値を即座に見抜いた。
・呂方(りょほう)…索超の気の置けない弟分。会うたびに索超の気が濁りつつあるのがとても心配。

3.
張藍「林冲様が猫だったとしましょう」
林冲「おう…」
張「どうなさいますか?」
林「どうって…」
張「こら、林冲!」
林「!」
張「木に棒を叩きつけてはいけません」
林「稽古だ」
張「部下を投げ飛ばしてはいけません」
林「体術だ」
張「猫のする事ではありません」
林「俺は人だ」

張「人である林冲殿が獣になって夜に…」
林「まだ昼だ、張藍」
張「朝にされた事も…」
林「参った、張藍」
張「お食事の話ですよ?」
林「…」
張「何を想像されたのですか」
林「やめろ、張藍」

索超「翻弄されている」
馬麟「こんなのも悪くないな」
扈三娘「ぬるいですね」
郁保四「新鮮だ」

・張藍(ちょうらん)…林冲最愛の人。騎馬隊最強のご令嬢になるポテンシャルがあったと信じたい。
・林冲(りんちゅう)…大事にしろよ。嫁も友も部下も。

・索超(さくちょう)…モテる素質はある。本人的にはあまり。
・馬麟(ばりん)…モテる素質はある。本人的にはあまり。
・扈三娘(こさんじょう)…モテる素質しかない。中身の話は除くと。
・郁保四(いくほうし)…モテる兆しが見え隠れ? 

致死軍&飛竜軍

致死軍&飛竜軍…梁山泊の特殊部隊。兵の一人一人は寡黙だが豊かな感受性を持ち合わせており、兵による美術展は宋国皇帝すらうならせる繊細な展示品を取り揃えている。

人物
・公孫勝(こうそんしょう)…頭倒立が得意な隊長。
・劉唐(りゅうとう)…公孫勝のコントロールが得意な隊長。
・楊雄(ようゆう)…仮病が得意な隊長.
・孔亮(こうりょう)…尻ぬぐいが得意な隊長。
・樊瑞(はんずい)
…筋トレが得意な隊長。
・王英(おうえい)…スケベが得意な隊長。
・楊林(ようりん)…気配を消すのが得意な隊長。

4.
劉唐「この策は公孫勝殿の影武者が必要だ」
孔亮「…」
楊雄「…」
樊瑞「…」
王英「…」
楊林「…」
劉「この面子なら一択だな」
孔「待ってくれ、劉唐殿」
劉「まだお前とは言ってないが」
孔「俺以外ろくな面子じゃねえじゃねえか」
雄「生意気な」

孔「赤毛!」
劉「赤髪鬼だ」
孔「黄色!」
雄「病関索」
孔「マッチョ!」
樊「混世魔王だ」
孔「チビ!」
王「矮脚虎!」
孔「えっと、地味!」
林「罵るならスムーズに罵れ。錦豹子だ」
孔「身体の特徴じゃねえか」
劉「本当だ」
樊「親近感が湧くな」
雄「お前は?」
孔「…独火星」
林「星!」

公孫勝「騒がしいな」
劉「公孫勝殿」
公「影武者などいらんと言った」
劉「孔亮が嫌がるので」
孔(チクるな)
公「孔亮が?」
孔「やらないとは言っていません」
公「なら、楊林だろう」
林「え⁉︎」
雄(なんで?)
王(地味すぎる)
孔「楊林がやるくらいなら、俺がやります」
公「決まりだ」
孔「」

・公孫勝(こうそんしょう)入雲竜(にゅううんりゅう)。妖術師っぽいあだ名だけど、ここだと適正イマイチ。
・劉唐(りゅうとう)赤髪鬼(せきはつき)。まんま赤毛、と思いきや元ネタはうなじに赤毛がちょろっとあるよ!って意味。
・楊雄(ようゆう)病関索(びょうかんさく)。関羽の三男が病気っぽいから。所によって、病は〇〇勝りって意味もあるよ。
・樊瑞(はんずい)混世魔王(こんせいまおう)。彼も妖術師だけど、フィジカル寄り。
王英(おうえい)矮脚虎(わいきゃっこ)。短足。
・楊林(ようりん)錦豹子(きんぴょうし)。立派な見た目の事。地味だけど。
・孔亮(こうりょう)独火星(どっかせい)。火星は戦の星。

5.
孔亮「いつから嵌められたんだ」
楊雄「よく似合ってるぜ、公孫勝殿」
孔「お前じゃ無理な役だな」
楊「似合ってるな…」
孔「やめろ」
楊「いや、これは…」
孔「…」
楊「孔亮」
孔「なんだ」
楊「よく似合っている」
孔「一度死ぬか?」

孔(調子が狂ってきた)
兵「伝令!」
孔「なんだ」
兵「高廉が公孫勝殿を探索中」
孔「見つかるまい」
兵「それが…」
孔「どうした?」
兵「公孫勝殿が妙に端正になったので気をつけるよう触れが出ているそうで」
孔(そんなに?)

高廉「公孫勝が端正になった」
殷天錫「影武者では?」
高「馬鹿者」
殷「!」
高「公孫勝はもともと端正だ」
殷「?」
高「私の攻撃でお顔をやつれさせてしまい、日々心を痛めていたのだ」
殷「高廉殿?」
高「これで心置きなく攻撃できる」
殷「公孫勝好きなんですか?」
高「大嫌いだが?」

・孔亮(こうりょう)…ここまで褒められると満更でもなくなってきた。
・楊雄(ようゆう)…実は全身白塗りすれば公孫勝に見えなくもない。

・高廉(こうれん)…公孫勝のライバル。公孫勝を憎みながら愛でつつ、苦しませながら育みたい。
・殷天錫(いんてんしゃく)…高廉の副官。モブだと思うやろ?原典だと違うんよ。端役だけど。 

騎馬隊&致死軍

騎馬隊&致死軍 …早い話が林公である。

人物
仲良し隊隊長
・林冲(りんちゅう)…致死軍の連中はハードワークでかわいそう。
・公孫勝(こうそんしょう)…騎馬隊の連中は走らされすぎてかわいそう。

不憫な副官
・索超(さくちょう)…林冲の言葉の意味が分からなくてかわいそう。
・劉唐(りゅうとう)…公孫勝の独自性についていけなくてかわいそう。

6.
林冲「おいウスノロ」
公孫勝「なんだ、馬鹿」
林「馬鹿とはなんだ」
公「言ったのはお前が先だ」
林「俺はウスノロと言ったのだ。馬鹿とは言ってない」
公「本当に馬鹿だな、林冲」
林「頭をねじ切るぞ、公孫勝」
公「こんな馬鹿をつれてやっているのか、騎馬隊は」
林「許さんぞ、公孫勝」

索超「やはりこの二人だけでは話が終わらん」
劉唐「ダブルボケだからな」

・林冲&公孫勝…文字数がある限りただただボケ倒し続ける、本家公認カップル。至高のボケ宋江と組んだ時のみツッコミに回る。
・索超&劉唐…お互いのお頭の情報交換は密にしており、連絡ノートの数は郁保四の背丈ほどになった。どこに収納しよう。

7.
公孫勝の野郎はウスノロだ。それなのにあいつは痩せこけて肌が白すぎる。どうしてそこまで不健康な生活を貫くのか、俺には理解できない。飯くらい意地汚く食らいたいだけ食らえばいいと思う。自分は生きていてはならぬなどとほざいて死にたがるところが本当に嫌いだ。あいつが死ぬ時は俺が殺してやる。

林冲は極め付けの大馬鹿だ。とにかく一目散に死に向かって突っ走っていく。何故そこまで死に魅せられているのか、私には理解できない。あいつが死ぬのは大いに構わんのだが、とどめを刺すのは絶対に私だ。その役だけは、誰にも譲るつもりはない。せいぜい首を洗って私が殺すまでの余生を楽しんでいろ。 

遊撃隊

遊撃隊… 素っ裸史進率いるやんちゃ坊主がそろった部隊。兵の露出度も軒並み高い。

人物
・史進(ししん)…棒術が得意。服を脱ぐ速さも目を見張るものがある。
・杜興(とこう)…いびるのが得意。李応への愛も目を見張るものがある。 

・徐寧(じょねい)…鎗が得意。鎧の派手っぷりも目を見張るものがある。
・李応(りおう)
…飛刀が得意。気風の良さも目を見張るものがある。

8.
史進「相変わらずガチャガチャうるせえ鎧だな、徐寧」
徐寧「賽唐猊に関する苦情は一切聞かん」
史「金ぴかだし、やたら光は反射するし」
徐「聞こえんな」
史「お前を夜間の偵察に出せと命令したのはどいつだ?」
徐「林冲だ」
史「なんでそういうことするかな」

史「徐寧はここまでで良い。敵に気づかれる」
徐「聞こえん」
史「いい加減に怒るぞ」
徐「なんだと」
史「徐寧」
徐「本当に聞こえないんだ。なんて言ったんだ?」
史「まずはその鎧を黙らせろ」

・史進(ししん)…梁山泊一二を争う武芸者と目されているが、間違っても林冲には言えない。
・徐寧(じょねい)…賽唐猊(さいとうげい)という金ぴかでやたら重い鎧を装着して闘う。装飾品のパーツが多く、一個でもなくなると大騒ぎする。

9.
杜興「また性懲りも無く裸になりくさりおって」
史進「黙れ死に損ない、裸ではなく風通しの良い格好と言え」
杜「貴様を経由した風なんぞわしの屁よりも臭いわい」
史「この野郎」
李応「相変わらず仲が良いな」
杜「李応殿!」
史(今、杜興の尻に尻尾が生えたような)

李「すまんな、史進」
史「…」
杜「全くなんですよ、李応殿。史進は本当に私を困らせまして」
史(声と口調と姿勢が驚くほど違う…)
杜「史進はしょっちゅう裸になるんですよ、はしたない」
李「私も子供の頃はよく裸で寝ていたぞ」
杜「李応殿はいいんです。李応殿は」
史(危うかったな、李応)

李「史進、杜興と仲良くしてくれよ」
史(願い下げだ)
李「杜興も上手くやるんだぞ」
杜「かしこまりました」
史(爺いのデレなんて誰も得せん)
李「またな」
杜「良い一日を!」
史(デレ爺)
杜「…」
史「…」
杜「わしらが上手くやれるのは、どっちか死んだ時だよな」
史「分かってんじゃねえか、爺」

・史進(ししん)…全裸になりたがるところを除けば、割とまともな部類かもしれない。まともとは何か。
・李応(りおう)…攻城兵器を扱う重装備部隊隊長。週末は項充と飛刀を競い合い負けた方が酒を奢る。
・杜興(とこう)…ツンデレ爺。誰も得をしないデレは李応に全振り。史進にデレるくらいなら死を選ぶ。 

騎馬隊&遊撃隊

騎馬隊&遊撃隊…騎馬隊のあまりの速さについていけなかった史進は、自分を含む兵隊全員の衣類をキャストオフしてリベンジを果たす。その代償は扈三娘からの侮蔑に満ちた眼差しであった。

人物
・林冲(りんちゅう)…自分より馬鹿なやつを見つけてすごくほっとした。
・史進(ししん)…林冲と朱武のどっちがめんどくさいか聞かれたときは、真剣に悩んだ。

10.
林冲「強くなったな、史進」
史進「俺は林冲殿すら上回る男になる」
林「ほざけ」
史「王進先生すら上回る男になるつもりだ」
林「大きくでたな」
史「まあどれだけ強くなろうとも」
林「うむ」
史「王母様には死んでも勝てんだろうがな」
林「全面的に同意だ、史進」

史「怖いってレベルじゃないんだよな」
林「俺も着衣の乱れを厳しく指摘された時は死を覚悟した」
史「王母様に躾けられたテーブルマナーは、強烈だった」
林「梁山泊じゃ役に立たんな」
史「王母様より強い人はいらっしゃるのだろうか」
林「童貫すら躾けてそうだ」
史「まさか」

童貫「行儀が悪いな、鄷美」
鄷美「失礼いたしました」
童「手づかみで食ってはならん、畢勝」
畢勝「申し訳ございません、つい…」
童「お前ら、行儀の調練を受けさせてやろうか」
鄷「それだけはご寛恕を」
童(私が心底恐怖を覚えた唯一の相手が、王進殿のご母堂とは死ぬまで誰にも言えん)

・王母(おうぼ)…戦の指揮とか武術の強さとかにいくら秀でていようとも、それらを完全に無力化する最強おばあちゃん。

・林冲(りんちゅう)…襟のシミを見つけられた時の顔が忘れられない。
・史進(ししん)…箸の使い方を正された時の飯は全く味がしなかった。

・童貫(どうかん)…定食屋で店員に不躾な態度をとったところを公衆の面前で厳しく叱られた。
・鄷美(ほうび)…ガサツ
・畢勝(ひつしょう)…ズボラ 

本隊

本隊…梁山泊の一軍部隊。歩兵も騎兵も平均以上の連中が配属されている。隊長のカラーも結構顕著だとか。

人物
・関勝(かんしょう)…子供扱いすると膨れるが、大人扱いすると調子に乗る。そういうところだぞ。
・呼延灼(こえんしゃく)…鞭を二本使うから、バッティングはスイッチヒッター。剛の右打ち、柔の左打ちが持ち味。
・穆弘(ぼくこう)…眼帯。中学生の男子だったら眼帯している人物に心惹かれなかったかい?
・張清(ちょうせい)…石。石の入っている袋は、嫁の瓊英(けいえい)手作りの逸品。機能性、収納性が抜群。

・宣賛(せんさん)…軍師。教えるのも上手。
・戴宗(たいそう)…1日800里(440km)はさすがに走れないって。

11.
関勝「今日の眼帯はなんだ、穆弘?」
穆弘「金色の眼帯だ」
関「今日もイカすではないか」
穆「そうだろう」
関「光を放っているな」
穆「太陽を反射しているのだ」
関「もしかして、その眼帯は金属でできているのか?」
穆「そうだ」
関「…熱くならないか?」
穆「既に熱い」
関「お洒落も大変だ」

関「俺も付けてみようか」
穆「おう、まだ部屋に百八種類あるぞ」
関「どれが似合うかな」
穆「関勝は…」

関「どうだ、宣賛」
宣賛「目が充血してますよ。夜更かしをしてはいかん、関勝殿」
関「違う!」

・関勝(かんしょう)…宣賛にウキウキで眼帯を見せびらかしに行く際、視界と遠近感に戸惑った。
・穆弘(ぼくこう)…眼帯はもれなく梁山泊に持ってきた。付ける眼帯によって変わるキャラの数々を、李俊は眼帯コレクションと呼んでいる。
・宣賛(せんさん)…実は催事用の覆面をいくつかもっているらしい。 

12.
張清「みどりの日だ!」
戴宗「緑好きとしては黙ってられん」
張「…」
戴「何かな?」
張「深い緑だな」
戴「ビリジアンと言え」
張「俺の緑はもっと鮮やかだぞ」
戴「ピーマンみたいだな」
張「言い方!」

張「緑色は良いな」
戴「良いな」
張「投げる石も緑色にしたい」
戴「俺は炭を緑色にしたい」
張「このマントも侯健に仕立ててもらったのだ」
戴「見事な緑だ」
張「遠目にも緑がよく映えるだろう?」
戴「この格好で石を投げるのか?」
張「そうだ」
戴「ピーマンが種飛ばすみたいだぞ」
張「もう!」

・張清(ちょうせい)…緑将軍。石を投げるのが得意。実は両利きで右投げだと速球が、左投げだとチェンジアップが決め球。
・戴宗(たいそう)…緑ランナー。とても足が速いが、葉物野菜も足が早いぞ。

練兵場

練兵場… 兵隊の調練の場。とても広い。

人物
・李逵(りき)…彼は兵隊を率いるよりも、ボディーガードの方が得意。もっとも彼を慕う兵の数は計り知れない。
・焦挺(しょうてい)…巨漢でほんわかした顔。チャーミングな風貌ながら、IQは林冲よりも高い。遥かに。
・宋万(そうまん)…巨漢。杜遷とは古い付き合い。林冲のファン。
・杜遷(とせん)… 巨漢。梁山泊の古参は軒並みデカい。林冲の隠れファン。

・張青(ちょうせい)…怠け者の居酒屋店主。嫁さんにいきるも、すぐにしっぺ返しにあう。
・孫二娘(そんじじょう)…過去を詮索したものは二度と日の目を見ないといわれる、キャリアウーマン。

13.
李逵「お前でかいな」
焦挺「でかいぞ」
李「力士か?」
焦「まあな」
李「相撲を取るぞ」
焦「望むところだ」
李「!」
焦「手強い!」
李「‼︎」
焦「それ!」
李「おい!」
焦「強いな、お前」
李「お前の腹の肉は逸品だ!」
焦「食い物じゃねえ」

李「Kgあたり、銀二粒は下らない超一級品だ」
焦「褒められてるのか?」
李「金に困ったら売れ!」
焦「金と引き換えに命はやらん」
李「いかん、よだれが」
焦「俺を食うシミュレーションするな」
李「冗談だって。どこに人の肉を売り物にする店があるってんだ!」
焦「面白いな、お前」

孫二娘「…」
張青「どうした」
孫「違う世界のあたしの声が聞こえたよ」
張「…なんて言ってた?」
孫「保健所の抜き打ち検査に気をつけろって」
張「?」

・李逵(りき)…板斧の腕は超一流。他の武術はちょくちょく負ける。
・焦挺(しょうてい)…相撲が強い。林冲にコテンパンにされ続けたが、ある日うっかり勝ってしまった。

・張青(ちょうせい)…ある山の居酒屋店主。調理師免許も衛生管理の手続きも済ませているが、保健所にマークされ続けている現状に違和感。
・孫二娘(そんじじょう)…山の居酒屋の女将。肉付きのいい常連がトイレから帰ってこないのはあたしのせいじゃないからね。

14.
宋万「致死軍に入りたい」
杜遷「俺もだ」
宋「だが調練に速攻で挫折した」
杜「俺もだ」
宋「性格的な適性もあるらしい」
杜「らしいな」
宋「その点はお前の方が向いてるな」
杜「年齢的にはお前も向いている」
宋「諦めたくないのだが」
杜「現状諦めるしか…」

王倫「諦めるな!」
宋「あんたは!」
杜「死んだはずの!」
王「…私が死ぬのはオープンなのか?」
宋「まあ残当だし」
杜「喪失感も無いし」
王「貴様ら」
宋「それよりなんで出てきたんだ」
杜「公孫勝呼ぶぞ」
王「貴様らを励ましに来たんだ」
宋「なんだと」

杜「何を企んでいる」
宋「陰謀はこりごりだ」
王「信用ねえな」
宋「失せろ、疫病神」
王「私は梁山泊の守り神だぞ」
杜「ふざけるな」
宋「公孫勝、頼む」
公孫勝「…」
王「おのれ、貴様ら!」
杜「呆気なかった」
公「宋万、杜遷」
宋「なんだ」
公「…誰と話をしていたのだ?」
宋・杜「⁉︎」

・宋万(そうまん)…元祖梁山泊コンビ。古参以外の個性を模索中。
・杜遷(とせん)…元祖梁山泊コンビ。ナイスミドルな古参将校。

・王倫(おうりん)…not108星。小物界の超大物。本人的には大物界の小物だとか。

・公孫勝(こうそんしょう)…妖術?手品か何かだろう? 

二竜山

二竜山…実は林冲が中継ぎで頭領をやっていたことがある。二竜山の黒歴史である。

人物
・秦明(しんめい)…二竜山のボス。兵にとても慕われているが、そのきっかけは初心すぎる結婚劇であることを本人は知らない。
・解珍(かいちん)…元々は猟師。解宝と虎を退治した時の写真はインスタで大きく取り上げられた。
・郝思文(かくしぶん)…副官。秦明のどんくささは関勝と一味違うことを実感。
・燕順(えんじゅん)…秦明と歳はそこそこ近い。兵の指揮は及ばないが、女性経験の豊富さは秦明など歯牙にもかけない手練れである。
・楊春(ようしゅん)
…地味で目立たないタイプ。宴会の乾杯の場にいなくても、誰も気づかないのが悩みの種。

15.
郝嬌「秦明様」
秦明「何かな、郝嬌殿」
郝「赤ちゃんはどうやってできるのですか?」
秦「それは」
郝「どうやって?」
秦「なぜ、私に」
郝「秦明様なら赤ちゃんの仕込みを終えたばかりだからよく知っていると、解珍様が」
秦「あの糞爺」

秦「それはだな、郝嬌様」
郝(様?)
秦「私も、赤子を作った時のことはよく覚えてなくて」
郝(お顔が真っ赤)
秦「いかん。調練の検分の時間だ。その事は父上に聞いてみたら良いと思う」
郝(父上も似たような感じなんだけど)
秦「すまぬ。さらばだ。郝嬌様」
郝(郝嬌様なんて、関勝殿に呼ばれて以来…)

秦「やれやれ。戦ならこんな事にはならんのだが」
燕順「久しぶりだったろう、楊春」
楊春「まあ…」
秦「どこに行っていたのだ?」
燕「いやあ。久しぶりに里の妓楼に…」
秦「不埒者!」
燕「」
楊(今、疾駆の勢いを乗せたラリアットを…)

・郝嬌(かくきょう)…郝思文の娘。ぽやっとしているが、可愛いからよし。関勝と何かがあり、既に陥落させている。
・秦明(しんめい)…二竜山の指揮官。子どもの性教育のために裴宣が作ったテキストを読んで赤面した。
・解珍(かいちん)…秦明へのセクハラが面白すぎる。お互い50を超えた爺のはずだが。
・燕順(えんじゅん)…すけべ番長王英。イケメン鄭天寿という二大女泣かせを従わせたツワモノ。かくいう自分もなかなかの物。
・楊春(ようしゅん)…地味。戦の指揮はやたらできるが、地味。史進に振り回された過去あり。

16.
秦明「容が可愛すぎる」
郝思文「どれくらいですか?」
秦「腕白盛りだ」
郝「可愛い頃です」
秦「お前の子供はどうなんだ?」
郝「瑾と嬌ですか?」
秦「ここだけの話にするのを約束する」
郝「しからば」
秦「うむ」
郝「ここまで立派になるとは思いませんでした」
秦「素直でよろしい」

解珍「驕るな親バカども」
秦「厄介な爺が」
解「わしの倅はとんでもない野郎になったぞ」
秦「お前らを見ていると、兄弟のように見える時があるのだが」
解「笑止だ、秦明」
郝「ところで、解珍殿」
解「なんじゃ」
郝「その誂えたような、漫画で見たことある虎のチョッキはどこで?」
解「これは」

秦「オーダーメイドでもここまで手はかけん」
郝「侯健の仕立てにも劣らぬ出来栄え」
解「倅のお下がりよ」
秦「贈り物だろう」
解「違う」
郝「正直になりましょう、解珍殿」
解「何のことだ」
解宝「父上、似合ってるじゃねえか」
珍「貴様の上着」
宝「見事な白虎だろ?」
秦・郝「」
珍「な?」

・秦明(しんめい)…秦容(しんよう)という未来のエースの親父。試しに狼牙棒を持たせたら、握ったまま離さなくなった。
・郝思文(かくしぶん)…息子の郝瑾(かくきん)、娘の郝嬌様(かくきょうさま)の親父。実は嫁さんも隠れハイスペック。
・解珍(かいちん)…解宝だって、二世ではないか!
・解宝(かいほう)…毛皮の上着は全部自分で狩った。 

清風山

清風山…山賊の根城。見た目も言動も山賊にしか思えないが、厳しすぎる規律や仕事はそこら辺の山賊と比べ物にならない。

人物
・燕順(えんじゅん)…親分。豪放磊落でいかにも山賊な山賊。
・王英(おうえい)…子分。山賊の子分らしく、語尾にやんすをつけてみたらはまりすぎていた。
・鄭天寿(ていてんじゅ)… 銀細工師をやっていた。彼の作品は、秦明や燕順のキーホルダーやお守りになっている。

17.
燕順「お前ってやつは本当に女泣かせだな」
鄭天寿「それほどでもねえよ」
王英「俺は?」
燕「てめえは文字通り、女泣かせでばっかじゃねえか」
鄭「てめえの嫁に来る女の顔が見て見てえな」
王「覚えてやがれ」

扈三娘「!」
扈成「どうした、三妹」
妹「今凄く馬鹿にされた気がしました」
成「?」

・燕順(えんじゅん)…この四人組が秀逸すぎる水滸伝があってな。絵巻水滸伝って言うんだけど。
・王英(おうえい)…絵巻水滸伝の自分との境遇の差に悶絶した。
・鄭天寿(ていてんじゅ)…絵巻水滸伝のようにノリノリで女装はせん。

・扈三娘(こさんじょう)…絵巻水滸伝の私よりキリッとしてる。
・扈成(こせい)…扈三娘の兄貴。初めて会った聞煥章が舌なめずりした。 

双頭山

双頭山…北の方の拠点。双頭山の片っぽが禿山だが、隊長の頭頂部と絡めて考えてはいけない。

人物
・朱仝(しゅどう)…隊長。三国志の関羽に憧れている。関勝に妙なシンパシーを感じた。
・雷横(らいおう)…隊長。どんな事件や困難も独自のポジティブシンキングで乗り切る。愉しかったな、と。
・宋清(そうせい)…兵站担当。宋江の弟だが間違っても頭領を継ぐつもりはない。
・李忠(りちゅう)…副官のおっさん。史進の師匠をやっていたこともあったが、梁山泊で再会した時はお互い妙な気を使ってしまった。
・董平(とうへい)…二本の槍を巧みに使う。目立つ旗を馬に括り付けて目立とうとしたが、双頭山の木々に引っかかってにっちもさっちもいかなかった。

18.
宋清「馬が足りない?」
朱仝「頼む宋清」
宋「馬か」
朱「必要なんだ」
宋「騎馬隊の馬を増やすには場所が足りないぞ」
朱「数頭でいい」
宋「無駄ではないか」
朱「本当は馬ではなく」
宋「馬ではなく?」
朱「…トナカイが欲しい」
宋「…頼まれたのか」
朱「今年も俺がサンタだ」

宋「確かに双頭山の近隣住民の方との連携は強い方がいいのは間違いないが」
朱「だろ?」
宋「トナカイなぞどこで仕入れればいいのか知らんぞ」
朱「お前なら出来る」
宋「根拠は?」
朱「…ガッツがある」
宋「朱仝」
朱「…」
宋「そういうのは良い」
朱「すまん」

朱(結局仕入れてくるから侮れない)
宋「髭を白くしろ、サンタ」
雷横「トリックオアトリート!」
宋「違う」
朱「では行ってくる」
雷「死ぬなよ」
宋「私たちのプレゼントも忘れるなよ」
朱「…サンタで住民と交流し、その帰り道に兵糧庫を襲う策か」
宋「それが官軍へのプレゼントだ」
朱「侮れん」

・朱仝(しゅどう)…髭が凄い、双頭山の隊長。頭が薄くなってきたのを見て見ぬ振りして久しい。
・雷横(らいおう)…豪快な親分肌の双頭山隊長。脳筋軍人なのはご愛嬌。
・宋清(そうせい)…宋江の弟。ポワポワしている兄に比べると実直でくそまじめ。卑屈モードに入るとしつこくなるのは兄似。

19.
李忠「私は弱い」
朱仝「潔いな」
李「だから弱い者の気持ちが分かる」
朱「頼もしい」
李「兵の気持ちもケアできる」
朱「有り難い」
李「だから」
朱「だから?」
李「ハラスメントに敏感です」
朱「厄介な」

李「兵に罰走をあたえましたか?」
朱「弛んどったから」
李「パワハラです」
朱「そんな」
李「新兵に酒を飲ませましたか?」
朱「宴だったし」
李「アルハラです」
朱「厳しい…」
李「私の嫁の有無について聞きましたね?」
朱「…聞いたが」
李「セクハラです」
朱「お前はおっさんではないか」

・朱仝(しゅどう)…双頭山隊長。髭を剃っても頭頂の毛根は息を吹き返さないので、えらく損した気分。
・李忠(りちゅう)…副官。弱いものの兵法として、労基法やハラスメントに精通している。梁山泊の労基法の施行については目をつぶった。

20.
陶宗旺「石積に遊び?」
董平「石を積むだけではつまらんだろう」
陶「そういうものですけど」
董「石以外も積んでみたりしようと思わんのか?」
陶「貯金は積立してますが」
董「その堅実さは魅力だが、遊びが欲しいな陶宗旺」
陶「遊んでたら崩れるんで」
董「遊べ、陶宗旺」
陶「身を崩しますよ」

・董平(とうへい)…武術・兵の指揮に加え、歌舞音曲についても一廉だったが、楽和のガチっぷりに怯んで披露出来なくなった。
・陶宗旺(とうそうおう)…石積の名手。試みでぷよぷよをやらせてみたら、初見で見事な連鎖を完成させたという。 

流花

流花寨…梁山泊の最重要拠点。しまった軍師こと呉用の肝いりでできた拠点。作ったの早すぎない?という突っ込みは皆の心の中にあったが、徐々にその懸念が表面化しつつある。

人物
・花栄(かえい)…弓の名手。剣は中の上。槍は中の中。人付き合いは中の下。
・朱武(しゅぶ)…軍師。面倒見がよくなったのは結果論。
・孔明(こうめい)…顔に大きな傷のある副官。温厚でめったに怒らない。

21.
孔明「致死軍はどんなだ?」
孔亮「公孫勝殿の信者ばかりで、俺がいなきゃ大変だよ」
明「大変だな」
亮「兄貴は?」
明「花栄殿は相変わらずさ」
亮「秦明殿がいなくても平気か?」
明「たまに会う時は小躍りしてるな」
亮「秦明殿がいなきゃなんもできなかったからなぁ」
明「弓以外クソだもんな」

亮「弓は凄すぎるんだけど、他がな」
明「他がな」
亮「飯も作れないし」
明「道に迷うし」
亮「黄信殿に妬まれてたし」
明「空気読めんし」
亮「秦明殿がいなきゃ何も…」
明「⁉︎」
亮「…」
明「俺の杯が矢で砕け散ったということは…」
亮「そろそろお開きにしよう、兄貴」

・孔明(こうめい)…花栄の副官。弓以外は思いのほか鈍臭い花栄を色々サポートする役回り。ゲッ、孔明!と言ってはいけない。
・孔亮(こうりょう)…性格はあれだけど、有能な致死軍隊長。公孫勝と愉快な仲間たちのボケる様をせせら笑って楽しむが、尻拭いをするのは大抵彼。

22.
花栄「私といえばなんだと思う?」
朱武「弓だな」
花「お前ですらそうなのか、朱武」
朱「落胆するなよ」
花「気になって流花寨の兵全員に聞いてみたんだが」
朱(お気楽なもんだな)
花「全体の95%がそう答えた」
朱「残りの5%は?」
花「イケメン」
朱「チッ」
花「よく通る舌打ちだ」

朱「お前はどんな結果だったら満足なのだ?」
花「そうだな」
朱「…」
花「…」
朱「思いつかんのか?」
花「思いつかんな」
朱「そんなもんさ」
花「弓が上手いのも、顔が良いのも当たり前なものだから、もっと本人的に意外性のある答えがほしかった」
朱「チッ」
花「舌打ち上手いなあ、朱武」

朱「じゃあ弓とイケメンを除いてアンケートをとれば良いのではないか?」
花「さすが神機軍師」
朱(そんなんで褒められても)
花「もう一度アンケートを取ってくる」
朱(戦時中なんだが)

朱「どうだった?」
花「見事に収束した」
朱「一番多かったのは?」
花「特になし」
朱「やっぱり」
花「チッ」

・花栄(かえい)…弓矢とイケメンを除いたら?間抜け、じゃないですか?(魏定国)
・朱武(しゅぶ)…史進とは違うベクトルで我が道を行く花栄は、また違っためんどくささがあるという。

華山

少華山…梁山泊の遥か西にある山。後に史進の実家は史進のゆるキャラグッズで大もうけしたという。

人物
・朱武(しゅぶ)…呉用もびっくりのハードワーク。
・陳達(ちんたつ)…カンガルーもびっくりの跳躍力。
・楊春(ようしゅん)…空気もびっくりの存在感。
・史進(ししん)… 部下もびっくりの汚い尻。

23.
史進「俺を暴れさせろ、朱武」
朱武「史進。頼むから策を考えさせてくれ」
史「頭を使うだけだろう、お前は」
朱「…今何と言った、史進」
史「」
朱「確かに俺は頭しか使っておらん」
史「…」
朱「その頭を使って、一体何を考えていると思う?」

陳達「兄貴の逆鱗だ」
楊春「九紋竜のよりヤバいな」

朱「戦の策、兵糧の確保、兵の配置」
史「…」
朱「物資の管理、兵の士気、お前らの使い方も考えている」
史「…」
朱「俺は一つの頭でこれ以上の事を考えているのだ。棒を振り回すだけの奴と訳が違う」
史「すみませんでした」
朱「戦はすみませんで済むのか?」

陳「ガチ泣きだ」
楊「たまにはな」

・朱武(しゅぶ)…公式軍師。あだ名も神機軍師。弟三人は事務仕事の才が皆無なので、一人デスクワークに勤しみ続けている。
・陳達(ちんたつ)…文字は読めないが、人の名を覚えるのが得意なので頼りになる。
・楊春(ようしゅん)…文字は読めないが、根回しが得意なので頼りになる。
・史進(ししん)…文字は読めても我が道を行くので頼りにならん。 

養生所&薬方所

養生所&薬方所…病気になったら行くところだが、医者も薬師も事務局長もある種の病気である。

人物
・安道全(あんどうぜん)…患者を診ないと死ぬ病にかかっている。
・薛永(せつえい)…薬草をみたら一度食わずにはいられない病にかかっている。
・白勝(はくしょう)
…厄介者の面倒を見ずにはいられない病にかかっている。

24.
安道全「たまには医者らしいことをしよう」
白勝「いつもしてんじゃねえか」
安「あれは趣味だ」
白「趣味…」
安「健康診断をしよう」
白「いいな」
安「これにかこつけて、医療機器をしこたま発注するぞ」
白「ほどほどにな」
安「…」
白「どうした」
安「…増築は出来るか?」
白「何をする気だ」

林冲「俺たちに必要なのか?」
安「無論だ」
林「俺に悪いところなどない、ヤブ医者」
索超(言葉)
馬麟(態度)
扈三娘(頭)
郁保四(脳)
安「お前は精密検査をする」
林「何」
安「頭の検査だ」
林「貴様」
安「その汚い言葉遣いと態度は頭が悪いか脳がいかれている証拠だ」
索・馬・扈・郁(さすが安道全)

林「やめろ、安道全」
安「肺腑の矢の摘出手術に比べたらぬるいぞ」
林「そっちの方がマシだ」
安「正気か、林冲」
林「正気だ」
馬(酔っ払いが酔ってないと言うのと同じだな)
索(www)
安「男になれ、林冲」
林「嫌なものは嫌だ」
安「丸太だ、薛永」
薛永「⁉︎」
白(林冲のための増築だったのか)

林「死ぬかと思った」
馬(解釈に困る)
安「結果を見るぞ」
白(こそ泥時代の俺に、MRI使ってるなんて言ったらどんな顔するかな)
安「これは…」
林「…」
安(外科が専門だから全く分からん!)
林「安道全?」
安「残念だ、林冲」
林「死ぬのか?」
安「健康だ」
林「よかった!」
安(よかった、バカで)

・安道全(あんどうぜん)…医療行為のスキルのみ限界突破。他は皆無。
・白勝(はくしょう)…経費が降りず実費でMRIを買わされたが、クーリング・オフを適用できるか心配。
・薛永(せつえい)…健康診断のデモを担当したところ、セルフ人体実験がたたり、血液検査で異常値を連発し、安道全に大喜びでICUに搬送された。

・林冲(りんちゅう)…健全すぎる肉体は脳を蝕む。
・索超(さくちょう)…胃潰瘍気味。
・馬麟(ばりん)…注射が苦手。
・扈三娘(こさんじょう)…梁山泊で筋肉量が激増。
・郁保四(いくほうし)…体は頑丈。メンタルは繊細。

25.
黄信「なぜ俺が薬屋の手伝いを」
薛永「よろしくお願いします」
黄「…」
薛「…ご不満ですか?」
黄「戦に出れぬ自分が腹立たしくてな」
薛「怪我は日にち薬ですからね」
黄「もどかしい」
薛「副作用を気にしなければ、良い薬ありますよ」
黄「目が怖い。薛永」

薛「ちょうど新しい薬を開発したのですが、治験してくれる人がいなくて」
黄「俺をちらちら見ながら言うセリフか」
薛「黄信殿」
黄「断る」
薛「いえ、その丸太を取っていただけませんか?」
黄「おう」
薛「ありがとうございます」
黄(しかし使い込まれた丸太だな)
薛「御免」
黄「」

黄「…俺は一体何を」
薛「…」
黄「薛永?」
薛「…薬学の発展に犠牲はつきものですよね」
黄「⁉︎」

・黄信(こうしん)…梁山泊一の愚痴り屋さん。自分より強くても、弱くても。おかずが美味くても、不味くても文句を言う。梁山泊めんどくさい奴ランキング軍人部門筆頭。
・薛永(せつえい)…薬屋さんモードになるとわがままになるのは、安道全にインスパイアされた弊害。まだ死人は出てない、よね?

26.
宋江「受難だったな、盧俊義」
盧俊義「全くです、宋江殿」
宋「燕青も死線をさまよったな」
盧「そうですな」
宋「燕青が」
盧「はい」
宋「治療している時にうわ言を言っていてな」
盧(闇塩の拠点と重要人物の名だな)
宋「重要な事を言っているのだと思い」
盧「?」
宋「書き出しておいた」
盧「」

宋「あいにくその紙は部屋に置いてあるのだが」
盧「今すぐ持ってきて、私の前で燃やせ、宋江殿」
宋「大事なものでないのか?」
盧「大事なものだからこそ、燃やすのだ」
宋「意味が分からん」
盧「誰にも見せていないだろうな?」
宋「多分…」
盧「多分?」
宋「絶対!」
安道全(私に見せた紙か?)

盧「目眩がしてきた」
安「概ね察したよ、盧俊義殿」
宋「持ってきたぞ」
盧(正確にもほどがある)
宋「燃やすぞ」
盧「急げ」
宋「燃やした」
盧「良かった」
宋「ところで、盧俊義」
盧「なんだ」
宋「紙は燃やしたが、中身を覚えてしまった私はどうなるのかな」
盧「紙と同じ目に合わせてやろうか」

・宋江(そうこう)…過ぎた善意は悪意よりも恐ろしい結果を招く。
・盧俊義(ろしゅんぎ)…こんなんでバレるなら沈機に言った方がましだ!
・安道全(あんどうぜん)…他人事だと空気はそこそこ読める。
・燕青(えんせい)…大ハッスルして盧俊義の大ピンチに立ち向かった。真相は12巻!

27.
白勝「たまには職人たちと飲むのも悪くないな」
李雲「まったくだ」
白「お前飲まねえのか、李雲?」
李「実は下戸なんだ」
白「忠実だな」
薛「飲むぞ、白勝」
白「飲んでるな、薛永」
李(顔色が…)
白「…お前、酒は平気なのか?」
薛「平気なわけねえだろ」
白「飲むなや」

李(おぞましい顔色だ)
白「搬送しろ、安道全」
李「だめだ、寝ている」
白「湯隆、頼む」
湯「善処はするが…」
白「早くしろ」
湯「燕青を打ち倒した野郎だろ?」
白「!」
湯「友のためなら命は惜しくないが、その役目が俺に務まるかどうか」
白「早まるな、湯隆」

薛「今なら死域の林冲にも勝てる」
湯「俺たちでは…」
黄信「騒がしいな」
白「…」
黄「お前かよ、って顔だな」
白「薛永を止めてくれ」
黄「容易い」
李「本当か?」
黄「薛永、良い薬が手に入った。匂いを嗅いでくれ」
薛「任せろ」
黄「ほれ」
薛「」
黄「眠り薬だ」
白「酒毒を制したのも毒か」

・薛永(せつえい)…自分が薬の実験台も兼ねているので、1日2食がサプリメントはザラ。
・白勝(はくしょう)…当然のごとく幹事。
・李雲(りうん)…下戸だからドライバー担当だな。
・湯隆(とうりゅう)…体は逞しいが武芸は薛永ほどではない。

・黄信(こうしん)…薬屋のバイトが意外と面白く、役に立ちそうな薬をくすねている。

・安道全(あんどうぜん)…今日の役ただず。 

聚義庁

聚義庁…梁山泊の頭脳が集う会議室があるが、頼りになる頭脳もしまったを連発するので結局頼りにならない。

人物
・宋江(そうこう)…梁山泊頭領。優しいよ。末恐ろしくなるくらい。
・晁蓋(ちょうがい)…梁山泊頭領。今回は出番がなかったが、小噺の間で元気にしていた、はず。
・呉用(ごよう)…しまった。出番がない。

28.
鄧飛「劉唐にそそのかされて来たものの」
林冲「…」
史進「…」
鄧「なんだこの面子は」
宋江「待たせた」
鄧(宋江殿?)
宋「お前らも常日頃から悩んでいたことだろう」
鄧(?)
宋「だから私はセミナーを開催することを選んだ」
鄧(?)
宋「頭が悪いと言われた者の頭をよくするセミナーを」
鄧「」

史「待ってください」
林「俺たちの頭が悪いというのですか」
宋「悪い」
鄧(ひでえ)
李逵「うるせえぞ」
史「板斧をしまえ」
林「李逵だって頭が悪いではないか」
李「おう。俺は頭が悪いぜ」
林「…」
李「だがそれを自覚しているだけ、お前らよりはましだと分かった」
林「」
鄧(頭いいな、李逵は)

林「李逵に論破されるとは」
宋「それではセミナーを始める」

宋「おめでとう、これでお前らの頭は良くなった」
鄧(どうだか)
史「なんだか頭が良くなった気がする」
林「おう、脳が鍛えられた心持ちだ」
鄧(マジかよ)
宋「見事だ」

李「なあ、鄧飛」
鄧「なんだ」
李「宋江様も大概だよな」
鄧「」

・宋江(そうこう)…セミナー主催者。彼の純粋な善意はいつも予期せぬ所で牙を剥く。
・林冲(りんちゅう)…致死軍のKさんが勝手に申し込んでた。脳をもっと鍛えようと思った。物理的に。
・史進(ししん)…軍師のSさんが勝手に申し込んでた。服を脱いだらきちんと畳もうと思った。
・李逵(りき)…字が読めるよりも大切な事をいつも教えてくれる。
・鄧飛(とうひ)…飛竜軍隊長。とりあえず劉唐は許さん。 

朱貴・朱富のお店

朱貴・朱富のお店… 魚肉の饅頭が名物の居酒屋さん。朱貴の頃はひょうひょうとした居酒屋。朱富になると小料理屋のたたずまいに変貌。

人物
朱貴(しゅき)…人を見る目がある、梁山泊の窓口担当。弓も花栄ほどじゃないけど上手いよ。
朱富(しゅふう)…梁山泊の居酒屋店長。定休日は顧大嫂のお店を研究している。

29.
王倫「親父」
朱貴「荒れてるね、首領」
王「当たり前だ」
朱「また林冲か?」
王「あいつに武芸を習った時のことだ」
朱「いきなり凄えな」
王「首領の俺を容赦なく打ちのめしやがって」
朱(無理もない…)
王「そんなことを無理やり続けていたら」
朱「ふむ」
王「妙に身体が動いたのだ」
朱(死域?)

王「あのまま動き続けると死ぬのだそうだ」
朱「らしいな」
王「そうやって林冲は俺のことを殺そうとしているに違いない」
朱「まさか」
王「おまけにあいつは死域から出すために、首の急所をしたたかに打ったのだぞ」
朱「首領を死なさんためだろ?」
王「痛すぎて死ぬかと思った」
朱(めんどくせえ)

・王倫(おうりん)…薄幸の初代梁山泊首領。作中では貴重なゲス小物枠担当。

・朱貴(しゅき)…酒場の親父。周りが大物すぎて、王倫の清々しい小物っぷりが逆に愛おしくなってきた。

30.
朱富「顧大嫂の饅頭にあって、私の饅頭に無いものを教えてくれないか?」
顧大嫂「あんたのはあんたので充分美味いよ」
朱「最近淡白な味だと飽きられて、売り上げが落ちているんだ」
顧「味の分からん奴らだ」
朱「顧大嫂の良い意味でいい加減な調理法を会得したいんだ」
顧「今、褒めたのかい?」

顧「蒸したよ」
朱「ここからだな」
顧「油をぶちまける」
朱「!」
顧「饅頭を並べる」
朱「放るな!」
顧「力一杯饅頭を潰せば…」
朱「哀れな」
顧「出来上がりだよ!」
朱「心を込めた手料理をジャンクフードに毒された倅に嫌がられた母の気持ちになったよ」
顧「私は心がこもってないってのかい」

・朱富(しゅふう)…朱貴の弟。その繊細な仕事ぶりは食通こそ唸らせるが、ガサツな梁山泊の男には理解されにくい。
・顧大嫂(こだいそう)…男ってこんなのが好きなんだろう?ってメニューを取り揃えて大儲けしている。闇塩の収入をも上回りかけ、大慌てで休業した。 

郵便屋さん

郵便屋さん…梁山泊自慢の連絡網。とにかく足が速くて遠くに走れる奴らがそろっている。年に一度のかけっこ大会は、王定六を胴元に博打が盛んにおこなわれる。

人物
・戴宗(たいそう)…神行法を使うと800里(420km)走れるらしいが、もっとこき使われるようになるだろうから絶対に使わない。
・張横(ちょうおう)…温厚でインテリな風貌だが、やっぱりやくざ者の血を引いているところが見え隠れする。ワンタンとうどんのどっちが好きか聞かれたら一目散に逃げよう。
・王定六(おうていろく)
…とにかく足が速い。痩せているから追い風だと少しホバリングすることもある。

31.
王定六「足が速い以外の長所が欲しい」
張横「ふむ」
王「張横、俺の長所を教えてくれ」
張「足が速い」
王「それ以外で」
張「長く走れる」
王「走る系を無しにしよう」
張「歩くのも速い」
王「足を使うのも無しだ」
張「体力がある」
王「フィジカル系も無しだ」
張「面倒だな」
王「俺の台詞だ」

・張横(ちょうおう)…通信部門担当。違う世界の自分は追い剥ぎ船頭。多分一番キャラが違う。
・王定六(おうていろく)…足が速い。歩くのも速い。諦めるのも、早い。 

林冲さん家

林冲さん家…林冲と張藍の愛の巣。ここで末永く幸せに暮らす世界があっても良かったよな。

人物
林冲(りんちゅう)…張藍のへそくりを見つけただけで優位に立ったつもりかい?
張藍(ちょうらん)…林冲の諸々をほとんど把握しているが、知らんぷりをしている。握っている秘密は小出しにして楽しまないと!

32.
林冲「禁軍教頭を辞める」
張藍「まあ」
林「料理人になろうと思う」
張「本当に?」
林「なるったらなる」
張「お料理をされた事は?」
林「食材を仕入れるのは得意だ」
張「お肉屋さんと繋がりが?」
林「いや、狩るのだ」
張(それは猟師さんでは…)

林「やるからには、料理の彩りと客のマナーにこだわりたいな」
張(めんどくさい)
林「料理を提供する順番やメニューにも一工夫加えたい」
張「それで、林冲様?」
林「なんだ」
張「お料理は出来るのですか?」
林「獣の解体は任せろ」
張(それはお肉屋さん…)

魯智深「わざわざ呼び寄せて、何の用だ」
林「フランス料理を振る舞ってやる」
魯「そのふざけた帽子は何だ」
林「シェフの帽子だ」
魯「可憐だな奥方」
張「ウエイトレスです」
林「黙れ、色坊主」
魯「客にいう言葉か」
林「料理を食ってとっとと帰れ」
魯「食う前に帰るぞ」
林「それは待て」

・林冲(りんちゅう)…獣の解体は上手でも、野菜を刻むのは苦手。シェフの帽子が天井につっかえそう。
・張藍(ちょうらん)…旦那のやりたいことを好きにやらせてあげる天女のようなご令嬢。でもキッチンの掃除はやってね。
・魯智深(ろちしん)…林冲宅で肉を食し酒を飲んだ。寺の小僧に坊主である意味を問われ、真剣に悩んだ。 

掲陽鎮

掲陽鎮…南のほうにある、暴れん坊の顔役がいる無法地帯。厄介ごとのほとんどはおおむね穆春のせい。

人物
・穆弘(ぼくこう)…眼帯マン。
・李俊(りしゅん)…闇塩商人。豪快チキン。
・穆春(ぼくしゅん)…かませ犬。
・童威(どうい)
…双子マン兄。
・童猛(どうもう)…双子マン弟。
・李立(りりつ)…居酒屋さん。魚料理に定評がある。

33.
穆弘「今日の眼帯はお花にしようか」
李俊「おい、穆弘」
穆「!」
李「お前の弟がまた面倒事起こしてるぞ」
穆「なんだと」
李「早く眼帯をつけろ。見るに耐えん」
穆「今日はお花の気分だったが、気が変わった」
李「なんのことだ」
穆「紅と獣、どっちがいいと思う」
李「眼帯の話か、それは」

穆春「兄上が来る前に片付けねば」
悪漢「片付けられるのは貴様だ」
弘「春!」
春(来ちまったよ)
悪「来やがったな没遮攔、てめえを遮るのはこの俺様…」
弘「弱い!」
悪「」
春(このモードは…)
弘「この俺の眼を赤くさせた奴は地獄へ行くのだ」
春(紅モードか…)
李(心痛むものがあるな)

・穆弘(ぼくこう)…隻眼のイケメン。装着する眼帯によってキャラが変わる。それはもはや眼帯が穆弘と言ってもおかしくないかもしれない。
・李俊(りしゅん)…闇塩商人。しょっぱいのは酒場の勘定の時だけでも多すぎる。
・穆春(ぼくしゅん)…穆弘の弟。絵に描いたようなかませ犬。「覚えてやがれ!」の決まりっぷりは地元一番。

34.
李俊「今日の眼帯はなんだ?」
穆弘「菖蒲だ」
李(もはや眼帯の体をなしてない)
穆「皆が俺の眼帯のバリエーションを楽しみにしているから、辞められんのだ」
李(お前がそう思っているだけだ)
穆「李俊も片目を抉れば眼帯をつけられるぞ」
李「カジュアルに勧めるな」

李「ただ付けるだけじゃ駄目か?」
穆「駄目ではないが」
李「駄目ではないが?」
穆「抉った方が、窪みのスペースを有効活用した立体的な眼帯をつけやすいぞ」
李「俺は眼帯のおしゃれの可能性よりも視界を選ぶぜ」

・穆弘(ぼくこう)…眼帯ブラコン。穆春の秘蔵写真をこっそり愛でてるが、李俊は春画と呼んでいる。
・李俊(りしゅん)…こっそり眼帯をつけて悦に入っているところを見てしまった童猛が半殺しにされた。

35.
穆春「兄者のバカ!」
穆弘「」

穆「春がグレてしまった」
李俊「お前は年がら年中グレっぱなしだろうが」
穆「何がいけなかったのだ」
李(片目から二倍の涙が…)
穆「まさかあの春が」
李「お前が兄なら当然だろう」
穆「兄者、俺はどうしたら…」
李(見るに耐えん)

穆「む、懐から手紙が」
李「誰からだ」
穆「春!」
李(どいつもこいつも)
穆「読むぞ」
李「いや、いい」
穆「兄者へ」
李「いいと言った」

穆「」
李「」
穆「春…」
李(穆春にまさかこんな形で泣かされるとは…)
穆「見ろ、李俊」
李「…こいつは!」
穆「眼帯から涙が…」
李(奇跡だ…)

・穆春(ぼくしゅん)…小僧。出来た弟だな、と嫌味で言われることが多いが、兄弟揃って褒められることはまず無い。
・穆弘(ぼくこう)…暴れん坊。遮る物なしで没遮攔と呼ばれているが、信号はきちんと守る。
・李俊(りしゅん)…暴れん坊。穆春を泣かした時のことはあまり思い出したくない。 

36.
李俊「おい、童威」
童猛「俺は童猛だ」
李「…」

李「童猛!」
童威「俺は童威だって」
李「…」

童「なんで兄貴は俺たちを間違えるんだ」
童「全くだ」
童「似てるのは顔と体型と性格だけだってのに」
童「どう思う、李立?」
李立「きっとどっちでもいいんじゃねえか?」
童「?」
童「?」

・童威(どうい)…童猛の双子の兄。親父も双子でお袋は三つ子だったらしい。
・童猛(どうもう)…童威の双子の弟。家族写真を見た李俊が爆笑した。
・李立(りりつ)…店に来た足音で童威か童猛か分かるようになったときはヤキが回ったと思ったという。
・李俊(りしゅん)…ぶっちゃけどっちも大差ないから、適当に呼んでる。

独竜岡

独竜岡(どくりゅうこう)…スパイシーなにおいが充満している一帯。その影響か、住民は少しとげとげしい。

人物
・解珍(かいちん)…阪神ファン。虎だもん。
・解宝(かいほう)…日ハムファン。お肉屋さんだもん。
・鄒淵(すうえん)…中日ファン。出林竜だもん。
・鄒潤(すうじゅん)
…オリックスファン。猛牛には角があるもん。

37.
解宝「肉を食い飽きた」
鄒潤「気持ちは分かる」
解「かと言って魚はない」
鄒「しかし肉っけは欲しい」
解珍「わしの出番か」
宝「呼んでない、父上」
珍「案ずるな、宝。こんな事もあろうかと」
宝「なんだ」
珍「様々な食材をタレに漬けてある」
宝「タレが余計なんだよ」

珍「蘭に漬けた肉は食える」
宝「肉とタレに飽きてんだよ」
珍「蓮に漬けた肝の臓は?」
鄒「それ食った兄貴がまだ吐いてる」
珍「凛に漬けた野菜は?」
宝「原形とどめてねえ」
鄒「液状化してやがる」
珍「案ずるな。独竜岡料理の掟がある」
宝「それは?」
珍「焼けば食える」
宝「引っ込んでろ」

宝「父上は」
鄒「拗ねて黒鉄連れてどっか行った」
宝「俺たちは贅沢を言っているのだろうか」
鄒「せめて解珍殿のタレが食える代物だったら」
宝「やれやれ」

宝「本当だからな」
李応「まさか」

・解珍(かいちん)…タレを作り始めた頃は近隣よりも身内に一番顰蹙を買っていた。タレの壺にはかつて愛した女の名前をつけているらしい。
・解宝(かいほう)…タレ臭いと近所の子供にいじめられていた。タレは美味くなったが、俺の複雑な想いも間違いなく良いアクセントになっているはず。
・鄒潤(すうじゅん)…大きなコブがチャームポイントな鄒淵の弟。くすねた解珍のタレの壺に火種を投入したら大惨事になった。
・黒鉄(くろがね)…解珍の飼い犬。タレの匂いを嗅がせた鄒淵は生涯許さない。

・李応(りおう)…食えるようになったタレしか知らない。苦労話とはあまり縁がない。

38.
魏「凌振に口出すんじゃなかったなぁ」
解宝「どうした、魏定国?」
魏「解宝か」
解「悩んでいるな」
魏「大砲が上手くいかんのだ」
解「それは?」
魏「大砲の弾の威力が足りなくて悩んでいる」
解「ふむ」
魏「お前に言っても仕方ないが」
解「心当たりは、ある」
魏「なに?」

解「あるが、すぐになんとかなる代物ではない」
魏「手に入れるためなら何でもする」
解「分かった。俺の故郷の独竜岡にヒントがある。山中の蔵を探せ」
魏「ありがとう」
解「鄒淵の力を借りるといい」
魏「恩にきる」

鄒潤「解宝殿、魏定国になぜあの場所を?」
解「親父の尻拭いも倅の仕事さ」

魏「持つだけで手が荒れるとは」
鄒淵「用心しろ」
魏「これはなんなのだ?」
鄒「企業秘密だ」
魏「だが、これを使えば爆発力が増す気がする」
鄒「試してみよう」
魏「?」
鄒「火種を入れ」
魏「!」
鄒「投げると」
魏「蔵に投げるな!」
鄒「あ」

魏「…」
鄒「…この通り」
魏「すげえものを見た」

・凌振(りょうしん)…大砲
・魏定国(ぎていこく)…火薬の調合が得意で大砲の弾を作らされている。今回の件でインスピレーションは湧いた。
・解宝(かいほう)…悔いのない親孝行ができた、はず。
・鄒潤(すうじゅん)…コブが凄い。コブで触診検査をしたら驚くほど的中した。
・鄒淵(すうえん)…解宝の友。案内した蔵は思い出の場所だったが、期せずして葬ることに。

・???…どこぞの爺いが狂ったように作りまくった何か。失敗作を隠した蔵から異臭が漏れ始め、近隣住民からクレームが来た。もしも大砲の調合に混ぜることができたら、一味違っていたかもしれない。 

雄州 

雄州…雄州のガキ大将関勝率いる愉快な仲間たちのいる地域。子供たちは関勝のことが大好きだけど、大人は…

人物
・関勝(かんしょう)…雄州のジャイアン。
・郝思文(かくしぶん)…雄州ののび太。宣賛と作成した関勝のハンドシグナルは多岐にわたる。
・宣賛(せんさん)…雄州のドラえもん。四次元ポケットはないが、関勝をギャフンといわせる知恵は豊富。
・単廷珪(たんていけい)
…聖水将軍ってもんだから、呉用がうきうきで水軍に配属しようとしたけど、本人の強い希望で双頭山に行ったという。なんで?
・魏定国(ぎていこく)…瓢箪矢という発火する矢を考案した。飛ばしたときの変な音が関勝のツボにはまり大変だった。

39.
郝嬌「関勝殿」
関勝「何かな、郝嬌様」
郝思文「関勝殿⁉︎」
関「何も言うな、郝思文」
嬌「関勝殿とのお約束なの」
郝「関勝殿に様など…」
関「しつこいぞ、郝思文様」
郝「!」
関「…郝思文」
郝「嬌」
嬌「なあに、父上?」
郝「悪くないな」
関「この野郎」

嬌「関勝殿、お馬になって」
関「郝嬌様のためなら」
郝(凄えものを見てるな)
嬌「速い、関勝殿」
関「俺は赤兎だ」
郝「楽しいか、嬌?」
嬌「楽しい!」
関「何よりだ、郝嬌様」
嬌「関勝殿を跪かせてるのが!」
関「」
郝「www」

・郝嬌(かくきょう)…様を忘れるな!郝嬌様だ!(関勝)
・関勝(かんしょう)…雄州の将軍。副官の娘の次に偉い。
・郝思文(かくしぶん)…関勝の副官。関勝は郝嬌の弟なのだろうか。

40.
郝思文「瑾は大人になりたいのか?」
郝瑾「すぐにでもなりたいです」
郝「大人になるのは難しいぞ」
瑾「本当ですか?」
郝「とても、難しい」
関勝「おい、郝瑾。大きな芋虫を捕まえてきた。郝思文の懐に仕掛けよう」
郝「この有様だ」
瑾「…」

陳娥「関勝様。家に来たならちゃんと靴を揃えなさい」
関「今やろうとしたところだ」
陳「瑾の相手は手を洗ってからにしてくださいね」
瑾「むしろ私が関勝殿の相手をしてるんですが」
関「郝瑾!」
瑾「関勝殿」
関「なんだ」
瑾「どうすれば大人になれるのですか?」
関「俺は大人だが?」
郝「」

瑾「大人は芋虫を捕まえて、父上の懐にしまうのですか?」
関「これも戦だ」
瑾「戦?」
関「郝思文を騙して違う場所へ連れて行く知略」
郝「丸聞こえです」
関「芋虫を素手で捕らえる胆力」
瑾「…」
関「いたずらがバレた後、叱られる勇気を養うことができるのだ」
瑾「なるほど!」
郝(子どもだな)

・関勝(かんしょう)…うっかり郝嬌様に芋虫を見せて大泣きさせてしまった。
・郝思文(かくしぶん)…関勝用の小屋でも拵えようかと真剣に考え始めた。
・陳娥(ちんが)…郝思文の嫁。一分の隙もない家事やご近所づきあいに定評がある。
・郝瑾(かくきん)…郝思文の息子。彼の副官デビューは関勝とのお使いの同行であったという。 

侯健の仕立て屋さん

侯健の仕立て屋さん… 開封府の知る人ぞ知る仕立ての名店。やたら腕の長い店主と、不思議な子供のいるお店。

人物
・侯健(こうけん)…仕立て屋さん。時遷に肩関節の外し方を習った結果、パンチのリーチが梁山泊で一番になった。
・侯真(こうしん)…仕立て屋さんのマスコット。いたと思ったら、いつの間にかいなくなっている。いなくなっているのではなく、床下か天井裏かあなたの後ろにいるだけなんだけどね。

41.
侯健「時遷」
時遷「おう」
侯「息子と遊んでくれて感謝する」
時「なんの」
侯「しかし、だ」
時「…」
侯「天井裏から離れなくなり」
時「…」
侯「完全に気配を殺して背後に立たれ」
時「…」
侯「関節を外して引き出しに収納されていた時は卒倒したぞ」
時「あいつはいい泥棒になる」

侯「私は遊んでくれと頼んだだけで、泥棒に育てろとは頼んでない」
時「遊び相手が俺ならやむなしだろ」
侯「親としては」
侯真「父上」
健「どうした、真」
真「今まち針が落ちる音がしました。あと、お店のお客が銭を落とす音を三度聞きました」
時「悪くないだろ?」
侯「セコいがな」

・時遷(じせん)…スパイの親方。端正な顔だから変装する時の化粧はいつも念入り。
・侯健(こうけん)…スパイの仕立て屋。腕が長いのは特に役立たない。
・侯真(こうしん)…侯健の息子。幼少期の時遷とのトレーニングの数々が、意図せずして青年期に花開くことをまだ知らない。 

子午山

子午山…ならず者厚生施設。笛の音が賑やかだったり、裸の若者が大暴れしていたり、石を拳でたたき割ったり、愉快な住人が入れ代わり立ち代わりやってくる不思議な場所。

人物
・王母(おうぼ)…ゴッドマザー。王母様の手にかかれば、厄介な油汚れも入ってくる虫も手なずけてしまうことだろう…
・王進(おうしん)…ゴッド師匠。不器用を極めると器用になるなんてことは一切なかった。
・鮑旭(ほうきょく)…元祖入塾生。子午山のパイオニアで、黎明期を知る生き証人。
・馬麟(ばりん)
…子午山で笛の根が聞こえたらラッキーと登山者は言う。
・楊令(ようれい)…子午山でもマスコット。人参だけは友になれなかった。
・張平(ちょうへい)…楊令の相棒。山椒は小粒でもぴりりと辛いを体現するしたたか者。

42.
馬麟「鮑旭」
鮑旭「なんですか?」
馬「…」
鮑「馬麟殿?」
馬「なぜ俺にそこまでバカ丁寧な口調を使うのだ、鮑旭」
鮑「申し訳ございません」
馬「…」
鮑「どうしても王進先生が近くにいると荒々しく喋れなくて」
馬「トラウマだったか」

馬「とりあえず王進先生には、友達同士なら荒々しくてOKという許可を得た」
鮑「考えたこともありませんでした」
馬「というわけで、荒々しく喋る調練だ鮑旭」
鮑「分かりました!」
馬「鮑旭」
鮑「」
馬「荒々しく喋れと言った。俺にバカ丁寧な口調は禁止だ。使ったら棒で打つぞ」
鮑(デジャヴだ)

・鮑旭(ほうきょく)…盗っ人時代は荒々しく喋っていたが、躾により馬鹿丁寧すぎる喋り方になった。そろそろバグるかもしれない。 
・馬麟(ばりん)…教え方は結構スパルタ。この辺りが将来、騎馬隊長とシンクロするのであった。

43.
鮑旭「馬麟」
馬麟「…」
鮑「お前は俺に何をして下さったと言うのですか?」
馬「…」
鮑「私の言葉遣いのどこがおかしいのか言ってみやがれ」
馬「鉄笛を…」
鮑「耳障りな笛など笑止だ、馬麟殿」
馬「…」
鮑「俺をもとに戻せ、ください」
馬「えらいことになった」

王母「馬麟!」
馬「王母様」
王「鮑旭がバグったのですね」
馬「申し訳ございません」
王「進は?」
馬「あちらで沈思したまま死域に入られました」
王「全く」

鮑「母上」
王「鮑旭、私です」
鮑「私の言葉使いを直せ、ください」
王「可哀想に」
馬(映画みたいだ)
王「大丈夫です、鮑旭。進も馬麟も怖くありません」
鮑「母上」
王「鮑旭」
鮑「…」
馬(凄えものを見た)
王「…馬麟は話があります」
馬「!」
鮑「鳥が、王進先生の頭に、落ちました」

・鮑旭(ほうきょく)…真人間でも両極端に触れすぎると大変だよね。
・馬麟(ばりん)…中途半端に新しい歩き方を会得しようとしたら、覚えられなかったどころか覚えていた歩き方も忘れてしまった故事を思い出した。

・王母(おうぼ)…北方水滸ワールドのナウシカ。この人が戦に出たら世界を救えるのではないか…
・王進(おうしん)…寝ても覚めても食べても死域に入る。最近は死域に入らない努力をしてる時に死域に入った。

44.
鮑旭「馬麟?」
馬麟「…」
鮑「今何を吹いていたのですか?」
馬「…」
鮑「鉄笛にしては随分と太い音だったような」
馬「誰にも言うなよ」
鮑「分かった」
馬「つい買ってしまった」
鮑「サックス?」

馬「サックスだけではない」
鮑「でかい」
馬「トロンボーンだ」
鮑「トランペットか?」
馬「ホルンもある」
鮑「そんなにラッパを揃えてどうするのだ?」
馬「…吹く」
鮑「口は一つだろう?」
馬「…」
鮑「鉄笛で誤魔化すな」
馬「…」
鮑「馬麟」
馬「…」
鮑「半音高いぞ」
馬「!」

・鮑旭(ほうきょく)…耳が肥えてきた。耳コピできたかもしれないと馬麟に調子に乗ったが、笛の吹き方を知らなかった。
・馬麟(ばりん)…笛の名手。打楽器にトライしたが、リズム感はあまり無かった。

45.
楊令「困った」
張平「どうしたのですか、兄上?」
楊「財布を忘れたらしい」
張「またですか」
楊「うっかりしていた」
張「家に戻るのも遠すぎますし」
楊「戻ってたら日が暮れるな」
悪者「やい、小僧ども!」
張「カモですよ、兄上」
楊「特別だぞ、張平」

悪「化け物か貴様ら」
張「こいつも無一文ですよ」
楊「けしからんな」
悪「お前が言うな」
張「返り討ちにされるお前が悪い」
楊「もっと計画的に金を使えんのか」
悪「使えたら追い剥ぎなんかしねえよ」
楊「仕方ない。私たちが困った時のための銀をやろう」
悪「かたじけねえ」
張「おい、楊令」

・楊令(ようれい)…梁山泊頭領の器を持つものは、得てして間抜けなところがあるのだ。
・張平(ちょうへい)…器用すぎて小回りが利きすぎたので、大きくなりきれなかった気がする。まぁ十分でかいんだけどさ。

46.
楊令「人を傷つけるのは良くない事だ、張平」
張平「悪者は人ではありません、楊令殿」
楊「限度はある」
悪者「右腕がお釈迦になっちまった」
張「人間は生まれながらの悪です」
楊「私は善を信じたい」
悪「俺はお前らの善意を信じてるぜ」
張「黙れ、盗っ人」
楊「お前も執行猶予中だからな、張平」

張「私たちが治療した腕で盗みをするかもしれませんよ?」
悪「随分だな、おめえ」
楊「彼はもう盗みはしないよ、張平」
張「なぜそう言えるのです?」
楊「彼の目を見ろ」
張「汚っ」
悪「随分だな、おめえよ」
楊「見るのは目やにではない、瞳だ」
悪「楊令殿」
楊「…汚いな、やはり」
悪「」

・楊令(ようれい)…最近した悪いことは、王母様の目を盗んでニンジンを張平の器に移したこと。
・張平(ちょうへい)…捕まってる盗っ人を見たらすごく馬鹿にする。盗人猛々しいやっちゃ。

・悪者(わるもの)…こいつがいると楊令も張平も生き生きする。不思議! 

青蓮寺

青蓮寺…蓮の花が見ごろな季節は観光客でにぎわう。いいのか、秘密機関。

人物
・袁明(えんめい)…総帥。ポーカーフェイスに似合わぬ素直さがたまらない。
・李富(りふ)…幹部。青蓮寺に住んでいるので、諸々の生活費はほとんどかからないが、宅配便の荷物は届きにくい。
・聞煥章(ぶんかんしょう)…義足。若手のホープで有能なんだが、妙な不運体質も持ち合わせている。
・洪清(こうせい)
…袁明の従者。ポーカーフェイスに似合わぬ茶目っ気がたまらない。
・呂牛(りょぎゅう)…聞煥章の友達?あいつは俺のおもちゃみたいなもんだ。
・沈機(しんき)…李富の部下。連続出勤日数記録を今なお更新中だが正直勘弁してほしい。

47.
李富「聞煥章」
聞煥章「どうした」
李「この給与明細を見てくれ」
聞(凄まじい残業代だ)
李「聞くのも恥ずかしいのだが」
聞「ほう」
李「なぜ残業で特別な賃金が発生するのだ?」
聞「それは答える方も恥ずかしい質問だ、李富」

李「そんなことで賃金が」
聞「出なければ青蓮寺に労基署が来る」
李「すると青蓮寺に住んでいる私はいるだけで残業代が発生するのか?」
聞「残業代を考案した者もそんな事例は想定してないと思う、李富」
李「しかし家も処分してしまったし」
聞「ホームレスが青蓮寺に住み着いてるのと同じだな」

李「なるほど。職場以外にも住まいが必要なのだな」
聞「納得するポイントが奇抜だ」
李「だが困ったぞ」
聞「どうした」
李「貯金は全て寺に寄進してしまった」
聞「どこの寺だ」
李「青蓮寺」
聞(…読者の皆は何から突っ込むかな?)

・李富(りふ)…給料の大半を青蓮寺に寄進している。永久機関だなこれは。
・聞煥章(ぶんかんしょう)…李富の仕事に対する執念からエネルギーを採取するプロジェクトのプレゼン資料を作成中。

48.
袁明「毎月匿名で莫大な寄進をしてくれる者がいる」
洪清「…」
袁「いつか直接感謝を伝えたいものだ、洪清」
洪「その件について報告が」
袁「…」
洪「賃金の振込をしていたとき」
袁「…」
洪「匿名の寄進と同じ番号を見つけてしまいました」
袁「…名は?」
洪「…李富」
袁「茶を所望する、洪清」

袁「李富か」
洪「…」
袁「あの、李富なのだな」
洪「…」
袁「つまらぬ問いをした。青蓮寺の李富といえば、あの李富しかいない」
洪「…」
袁「…同姓同名の者はいなかったかな」
洪「…」
袁「歴代所属した者にもいなかったかな」
洪「殿」
袁「…取り乱した」

袁「おかしいとは思っていた」
洪「…」
袁「寄進した者に送る感謝のお手紙も、寄進者の宴の届けも、一通だけ青蓮寺に帰ってくるのだ」
洪「…」
袁「盲点だった。匿名の者がまさか現役の幹部だったとは」
洪「…」
袁「…洪清」
洪「はい」
袁「内緒にしていいと思うか?」
洪「…」
袁「駄目か」

・袁明(えんめい)…背中で見せるタイプの青蓮寺総帥。働く姿はかっこいいけど、使うツールはほとんどアナログ。
・洪清(こうせい)…袁明の従者。経費をちょろまかした聞煥章がその後どうなったか、彼は黙して語らない。

49.
袁明「よく来た、李富」
李富「なんの御用でしょうか?」
袁「まあ座れ」
李「?」
袁「洪清。茶と菓子を」
李「そんな、袁明様」
袁「今日はもてなさせてくれ、李富殿」
李「⁉︎」
袁「…李富」
李「…」
袁「…」
洪清(筆頭株主の対応に苦慮されている)

袁「毎月青蓮寺に莫大な寄進してくれる者がいてな」
李「それは何よりです」
袁「…覚えはないか」
李「…ありませんが」
袁「そうか…」
李「…」
袁「…」
李「寄進といえば」
袁「…」
李「私も気に入った寺に寄進をしているのですよ」
袁「…何という寺かな?」
李「確か、青蓮寺と…」

袁「…気づいたか?」
李「…」
袁「…」
李「はて?」
袁「そうか…」

・袁明(えんめい)…青蓮寺の蓮の花が見頃の季節は、押し寄せてくる観光客にいつも苦労している。この間はカップルの写真を頼まれた。
・李富(りふ)…青蓮寺の庭の風情が気に入って、寄進している。その庭が職場にあることをまだ知らない。
・洪清(こうせい)…お花の管理も仕事の一つ。開封府ではスリの天敵として恐れられている。

50.
聞煥章「大型連休か」
呂牛「お前らは?」
聞「私は忌憚なく休む」
呂「出来るのか?」
聞「つもりだった」
呂「ヘタレたか」
聞「李富を見ろ」
呂「どれ」
聞「仕事が休みであり、休みが仕事な奴だぞ」
呂「…もう一度頼む、聞煥章」

聞「24時間365日休まず働く奴だよ」
呂「一人和民だな」
聞「青蓮寺の灯火は消えないんじゃない、消せないんだ」
呂「消したら李富がゴネるな」
聞「長期休暇くらい休めと言ったら何と言ったと思う?」
呂「ハードルを上げたな」
聞「梁山泊の古い符丁の解読をするとよ」
呂「パズル好きなのか?」

・聞煥章(ぶんかんしょう)…一人遊びを極めたソロ充を自負していたものの、そろそろ誰かと遊びたくなってきた。
・呂牛(りょぎゅう)…行楽シーズンは彼らのボーナス期間でもある。観光客の懐はゆるいだろ?

51.
聞煥章「連休を返上した挙句の深夜残業ほど割りに合わんものはない」
沈機「さえずるな、聞煥章」
聞「あなたは…」
沈「李富殿の5〜6番目の部下、沈機とは私のことだ」
聞(中堅の爺か)
沈「深夜まで働いた自分をなぜ素直に認めん」
聞「私は働く時と休む時を分けたいだけです」
沈「甘いぞ、聞煥章」

沈「青蓮寺たるもの、国に滅私奉公してなんぼ」
聞「私はそういうのどうでも良いので」
沈「それがなぜ深夜まで働く?」
聞「自分の仕事に納得がいかないだけですよ」
沈「見たところ、資料の年度に誤差があるな」
聞「本当ですか?」
沈「待ってろ。最新年度のものを作ってある」
聞(なかなか侮れん)

聞「終わりました、沈機殿」
沈「何よりだ」
聞「これで心置きなく」
沈「次の仕事だな」
聞「」
沈「闇塩の首魁の手がかりを見つけたのだが、どう思う?」
聞「帰るんですけど」
沈「梁山泊を滅ぼした時に快く帰れ」
聞「せめて休みを」
沈「さっき茶を飲んだではないか」
聞(死ぬな、私)

・聞煥章(ぶんかんしょう)…この後かつてない勢いで妓館になだれ込み、出禁になった。
・沈機(しんき)…カレンダーの赤い字の意味を忘れて数十年。 

52.
聞煥章「…」
袁明「…」
洪清「…」
李富「…」
聞(このメンバーで後何刻車内で過ごせば良いのだ)
袁「…」
洪「…」

?「御大による大人悩み相談室の時間だ」

聞(ラジオで誤魔化そう)

?「ラジオネーム…袁明さん」

聞「︎」
洪「!」
袁「…」

?「有能な従者と部下二人で渋滞にはまっている中、場の空気が固く困っています。御大だったらどんな話題を振って場を和やかにしますか?」
洪「…」
聞「…」
袁「…」
?「そんなに頼りになる部下なら、自分の失敗談や好きな女の話をするのはどうかな?」
袁「…」
?「自分の隙をあえて晒すのさ」

聞(凄えものを聞いた)
洪「…」
袁「…」
聞「…」
袁「洪清」
洪「はい」
袁「ラジオを止めよ」
洪「…」
袁「…」
聞(寝たふりをして誤魔化そう)
袁「…聞煥章」
聞「は!」
袁「私の若い頃の失敗を話そう」
聞「」
洪「…」

・袁明(えんめい)…ラジオネームは渾名で良いのか?
・洪清(こうせい)…いつも買うお茶よりだいぶ高いものを仕入れた。
・李富(りふ)…ガン寝してたので意図せずして難を逃れる。
・聞煥章(ぶんかんしょう)…色々ありすぎて感情を司る器官がぶっ壊れかけた。呂牛からのラインもしばらく鳴り止まなかったという。

・?…この世界の創造主。ハードボイルドな風貌ながら、その温かいお人柄と柔らかな手は一度実感したら忘れられない。
 

53.
趙安「禁軍にフレッシュさが足りん」
聞煥章「果物でも齧ってろ」
趙「果物」
聞「悪態から連想するな」
趙「果樹園で調練は?」
聞「フレッシュではないな」
趙「果物のCMで禁軍フレッシュをPRするのは」
聞「好きにしろ」
趙「…なるほど。禁軍と青蓮寺のフレッシュコラボか」
聞「今なんと言った」

聞(こんな企画を袁明様が通すとは)
呂牛(お似合いだ)
聞「オレンジの格好とは」
趙「おはフレッシュ、聞煥章」
聞「お前はなぜ普通の軍人なんだ」
趙「私はナチュラルフレッシュだからな」
聞「私はフレッシュではないのか?」
趙「聞煥章」
聞「」
趙「フレッシュに、なりたいのか?」
聞(正気に戻れ聞煥章)

趙「聞煥章。貧弱な歯茎では到底フレッシュとはいえんぞ」
聞「まだオレンジを咀嚼させるつもりか」
趙「フレッシュは強靭な歯茎から始まるのだ」
聞「歯医者か、お前は」
趙「フレッシュに、なりたいんだろ?」
聞「それは」
趙「なるんだろ?」
聞(なぜ私は断れないのだ)

・聞煥章(ぶんかんしょう)…青蓮寺の若手のホープだったのが災いした。でもルックスにはもう少し気を配った方が良い。
・趙安(ちょうあん)…禁軍期待の若手で闊達な性格のフレッシュマン。フレッシュ!
・呂牛(りょぎゅう)…野次馬。

54.
趙安「フレッシュ!」
聞煥章「調練の後なら汗を洗い流してから来い」
趙「ジューシーではないか」
聞「どうしてジューシーな果実からカメムシの匂いがするのだ」
趙「カリフォルニアにカメムシはおらん」
聞「何の用だ」
趙「これを見てくれ」
聞「汗臭い懐から取り出すな」
趙「汗ではない、果汁だ」

聞(鼻が麻痺してきた)
趙「宋国フレッシュマンコンテストのパンフレットだ」
聞「絶対行かんぞ」
趙「既に主賓格の審査員長だが?」
聞「いつの間に」
趙「公平中立な立場で全員の参加者に平等で的確なジャッジをした上で、私を優勝させてくれ」
聞「最後に本音がダダ漏れしたな」
趙「果実だからな」

聞「趙安」
趙「なにかな」
聞「今年いくつになった?」
趙「果実で言えば食べ頃の季節だ」
聞(気が遠くなってきた)
趙「食べ頃だが、完熟には少し早い。手頃な青臭さが売りの果実といったところかな」
聞「お前の体臭は宋国より腐敗していると思う」

・趙安(ちょうあん)…フレッシュ!
・聞煥章(ぶんかんしょう)…趙安の匂いが着物に染み付いた気がしてならない昼下がりであった。 

禁軍

禁軍…ラスボス。スマホの予測変換の「ち」が調練でない兵は一人もいない。

人物
・童貫(どうかん)…最強宦官。宦官だから声が甲高い。初対面の兵がほぼもれなく笑いそうになるほど。
・鄷美(ほうび)…調練ホリック。彼から調練を引くと何が残るだろうか。
・畢勝(ひつしょう)…調練ホリック。調練管理アプリを作成し大もうけした。
・侯蒙(こうもう)…調練ホリックな周囲に冷ややかだが、文官にしては並外れた体躯なのも無理もない話。

・趙安(ちょうあん)…フレッシュ!どうしてこうなったキャラランク堂々第一位。

・高俅(こうきゅう)…蹴鞠ではエースストライカーだが、政策提言は的外れ。

55.
童貫「高俅の軍と合同で調練など」
高俅「童貫元帥」
童「…」
高「此度の合同調練の申入れ、ご快諾いただき御礼申し上げる」
童「…」
高「先日は元帥のブートキャンプで可愛がっていただいた」
童「…」
高「此度は我々のホームに元帥をお招きしたかった次第」
童「…」
高「お楽しみに」
童「…?」

童「これは」
鄷「いかん、韓天麟右翼に回れ!」
畢「違うぞ鄷美、左翼だ」
童「最強の我が軍が」
鄷「畢勝!」
畢「すまぬ鄷美、間に合わなかった」
鄷「いい加減にしろ、畢勝」
畢「…お前が合わせにくい位置にいるからだ」
童「高俅如きに翻弄されている…」

高「気の毒だ。接待モードに切り替えよ」
部下「かしこまりました」

高 33-4 童

童「…」
鄷美「まさかこんなことが」
畢勝「蹴鞠で戦とは」

・童貫(どうかん)…会合の掴みの挨拶では、「宦官になった結果三代欲求が、食欲・睡眠欲・調練欲になりました」がお約束だが、有識者は満場一致で同意している。
・高俅(こうきゅう)…宋国の蹴鞠インフルエンサーとして名を馳せているものの、ビジネスモデルのえげつなさに会員から不満の声が。
・鄷美(ほうび)…畢勝とのツートップが全く機能しなかった。足首がとても硬いことに初めて気づいたという。
・畢勝(ひつしょう)…決定機なのに鞠をふかしてしまった。股関節の柔軟性向上の調練を始める予定。

56.
童貫「動かんな、鄷美」
畢勝「信徒の群れのようですな」
鄷美「渋滞を我慢する調練ほど生産性のない調練はありませんね」
童「甘いぞ、鄷美」
鄷「!」
童「調練に生産性など笑止」
鄷「…」
童「無為にしか思えん悠久の時こそ有効活用し、己を鍛える調練のひと時とすることを心得よ」
鄷「は!」

童「侯蒙」
侯蒙「はい」
童「サービスエリアまであと何刻かかる?」
侯「まずこの信徒の列を抜けなければ検討もつきませんな」
童「そうか…」
侯「…」
童「…」
鄷(もしや!)
畢(元帥!)
童「案ずるな」
鄷・畢「!」
童「今より私は膀胱を鍛える調練を始める」
侯(www)

童「不覚であった」
鄷「…」
童「前のサービスエリアで厠に行くのを忘れていた」
畢「…」
童「おまけにカフェインまで摂取してしまったのも私の油断だ」
鄷「元帥…」
童「過去の私が今の私に膀胱の調練を課したのだと思うことにしよう」
侯(エチケット袋も無いからな)

・童貫(どうかん)…やっと辿り着いたサービスエリアをうっかりやり過ごした侯蒙を強めに殴った。
・鄷美(ほうび)…多分渋滞の脇を駆け抜けた方が速く着いたと思った。
・畢勝(ひつしょう)…サービスエリアでポケット版替天行道を買ってご満悦。
・侯蒙(こうもう)…禁軍ご一行のピンチとはいえ、法定速度と交通法規を破るわけにはいかなかった。

57.
呼延灼「フレッシュ」
趙安「呼延灼殿。私はフレッシュではありません」
呼「お前ほどのフレッシュマンはいないぞ」
趙「恥ずかしい」
呼「趙安」
趙「…」
呼「フレッシュである事は恥ずかしい事ではない」
趙「…」
呼「お前はこれから旬を迎える果実だ。自分の鮮度と食べ頃を見誤るな」
趙「はい」

韓滔「やっとフレッシュマンをなすりつけることができたのか?」
呼「涙を呑んで、禁軍の尊い犠牲になってもらったよ」

・呼延灼(こえんしゃく)…禁軍第8代目フレッシュマン。ジャケットの撮影やファンサービスに嫌気がさして、北の将軍に。
・趙安(ちょうあん)…禁軍第9代目フレッシュマン。デビュー時はこれほどのフレッシュマンは見たことがないと評判になったが、体臭がフレッシュとは言い難い年齢に。
・韓滔(かんとう)…呼延灼の友達。8代目の活動時に敏腕マネージャーとして名を馳せた。

南の果て

南の果て…水滸伝が終わって数十年たった未来のお話。具体的に言えば岳飛伝であるが、もうしばらく水滸伝でいいよね?

人物
・岳飛(がくひ)…彼の間抜けさはもしかしたら梁山泊頭領に相応しかったかもしれない。
・秦容(しんよう)…南にて砂糖作りに邁進。甘いのは砂糖だけで充分!とよく言う。

・呼延凌(こえんりょう)…呼延灼の息子。色々あり軍のリーダーという苦労を背負う。ずっとそうなんだよな、彼は。
・山士奇(さんしき)…でかい。身体の大きさと反比例する声の小ささ。

58.
秦容「二日酔いにならないためには酒を飲みつつ甘藷糖を舐めるといいらしい」
岳飛「ほう」
秦「試さない理由はない」
岳「のった」
秦「相変わらず辛い酒だ」
岳「甘藷糖の甘味が引き立つな」
秦「塩も悪くない」
岳「つまみの野草の苦みも良いものだな」
秦(こんな事をしてて良いのかな、呼延凌)

呼延凌「もう一度だ!」
山士奇「呼延凌殿、そろそろ休ませないと」
呼「この陣形が完成するまでは休まん」
山「やれやれ。辛口だ」
呼「甘いぞ、呼延凌」
山「しょっぱい涙が出てきそうだぜ」
呼「露骨に苦い顔をするな」
山「兵の気持ちもささくれますぜ」
呼「終わったらしこたま肉を食わせてやるよ」

岳「美味いなあ」

山「上手いなあ」


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文庫19巻+読本セット
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