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フィクション小説)ロボット一人旅

※フィクションです。SFもどきです。

ロボット一人旅。これは、暇を持て余す私の個人的な企画だ。

ロボットの遠隔操作の運用試験としては、本格的で、衛星とも契約して、ロボットとの通信が途絶えることはない。

九州から出発、とりあえず青森の中心部までの旅を予定している。

主にローラー走行で移動する。アスファルトを安全に走行し、どうしようもない段差は回転アームバーを使って乗り越える。

ローラーのゴムは軍規格のものだ。これで、途中でゴム交換の必要はない筈だ。

実は、すでにこの企画は何度も失敗している。拉致されたり、壊されたりで大変なのだ。スポンサーはいたら大目玉をくらっているところだ。個人で企画してよかった。

私は投資で成功して、金銭を持っており、必要なものは通販ですべて手に入る。ロボットの改造もプロにお任せしている。

最長記録の大阪では道頓堀で酔っ払った阪神ファンに川へ落とされた。なのでもう、大阪は寄らないことにした。

とうとう、6度目の挑戦(20回に及ぶ地元リスタートは数えていない)で、分かってきたことがあった。

ロボットに必要なのは、コミュニケーション能力だった。稼働するのにソーラーの充電だけでは支障をきたす。親切なひとに、コンセントを借りられるように、スムーズに交渉する。それが課題だった。

早い段階で福◯市の不良に2度絡まれて、命乞いを勉強した。

ウォーレンバフェットの教訓を生かして、相手に合わせてヤンキー流の愛嬌で接して、適当にさよならできるようになった。

戦闘力として、撃退用に極太のエアシリンダーのアームの突貫パンチを取り付けようか迷ったこともあったが、実験ではコンクリートブロックを2つ粉砕したとのデータを渡されたのでやめた。

モニター右下のバッテリーランプが点灯している。そろそろ、バッテリーを補充しないと、節電モードになってしまう。

歩道沿いの道、隣の晩御飯みたいに、庭付き一戸建てのお宅のインターホンを鳴らす。

「すいません。X企画のAと言います。ロボット遠隔操作の試験中で、日本横断の旅の途中です。お手数ですが、お宅のお庭のコンセントをお借り出来ませんか?」

相手はびっくりするが、ロボットの開発ボランティアとして協力していただける。

とりあえず、庭にコンセントがある家庭には余裕があるようだ。狙い目だな。

電気代の自動振込のインターフェースを作っていたが、代えって怪しまれるので、無償で協力を頼む方が断られないことが分かっている。お礼も、私が直接言っている。まったく、このロボット、私が操作しないと本当に何にもしないな。

夕陽を眺めながら、しばらく休憩。

実は、今後自走するために、開発当初からAIを搭載してデータを集めている。AIと言っても行動にはリンクさせていない。ロボットの心の中として、浮かぶ行動の選択肢などをモニタリングできる。履歴をみると、

「アナタ、ありがたい」

「床、硬い、これは道路」

「ヤンキー、転がす」

私がひたすら、歩道を走らせているだけだが、センサーからくる状況の変化には、ほぼ不快感を示している。

「アブナイ、オオサカ、アブナイ」

「先生、オレ、バスケしたい」

相変わらず、あやしい。まだ、行動と同期しない方がいいな。そもそも、こいつのAI、根本的に問題があるだろう。もう、結構、データあるのに。センサー系だけは良いんだよな、全く。

自分で操作するロボットって、結局、面倒臭いな。日本でアバター計画とかあっても、これだけ面倒だと、あんまり流行らないだろうな。

コミュニケーション能力も、こいつの場合は天井が低くそうだ。私の能力なしで、ヤンキーをいなせるだろうか。多分、無理だろうな。

それに、自分でも旅がしたくもなってきた。焦ったいよ。私は自分の身体を操作したい。操作、言葉がおかしいかな。私は、旅の準備をしよう、だって、このロボットより、私の方が…。よく動く。よく動かすって、何を…。


ポァンッ!

「やばい、エラーだ。ストップして」。

「あー、またですね」。

研究員は、ガシガシと頭を掻いている。

ロボットはさらなる進化のため、人間的な感情をコントロールし、高度なサービスを可能とする必要があった。

そこで、極めて人間的なAlを外部モジュールとして開発することが推奨された。AIを操作する外付けAlだ。接続されたマシンは、愛情ある人間が教えたように、行き届いた学習を重ねる。そして、機械の暴走を防ぐ役割もあるのだ。

先程、一旦、ストップがかかったのはモジュールが自分をモジュールだと気付いてしまいそうだったからだ

気付いてしまうと、最終的に擬似的な人間的欲求がストップしてしまい、性能が著しく下がるのである。例外なくAIを育てるという役割を放棄してしまう。

そのため、自己の存在について考え始めると消耗期限が近いと判断される。賢すぎると直ぐに使い物にならなくなる。その限界点を調整するのが至難の技なのである。

因みに、この装置はエモーショナルコントローラー、エモコンと言われている。

繋いだ機器のAlが、古いものであっても、それを補い、機器のAlのレベルを最大限に引き上げてくれる。人体を模したセンサー付きで、カスタマイズにより情報収集力は、人間を超えている筈だと言われている。

AI搭載のルンバに繋げると、サービスセンターへの修理の依頼はもちろん、改善案まで提示してくる。今では、猫の面倒までみてくれるという。飼い主より懐いて、クレームがくる始末だ。

エモコンが接続先のAIをフルチューンできるのは、相性にもよるが平均4台である。

「ウォーレンバフェットとか、実際に株でもやんのかよって」。

「でも、何が役に立つか分かりませんよ。あのあと、ヤンキー克服してましたからね」。

「はぁっ!?関係ねーだろ」。

「今回は接続した相手が古過ぎましたね。人間に回帰するための肉体のイメージが希薄だったのがエラーの主な原因かと」。

「またそこかー、思考が肉体の内部感覚に迫るとデータがなくて止まるし、一度でも道筋ができるともう時間の問題だからなぁ」。

完「ロボット一人旅」











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