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ツナマヨのおにぎり

 先に謝っておく。唐突ですまない。私は、ツナマヨが嫌いだ。ホントに好きな人には悪いが、好きな人の気が知れなかった。いや、もう、ほんとに、嫌いだった。

 好きな人からすれば、「おん?戦争か?」と喧嘩腰になるかもしれないが聞いてくれ。私にも嫌いであるという確かな理由が一つある。その理由は、あのベタベタした食感とマヨネーズの味だった。その食感とマヨネーズのコンビネーションが不快でたまらなかった。耐えられなかったのだ、あの味に、あの食感に。

 そんな私がいつの日かツナマヨのおにぎりを食べるようになった。

 あれは確か、学校に通っていた時のことだ。最初のほうは良かった。元々、私の実家は家でダイニングを囲んで食べることが多かったから、コンビニ弁当なんて高級品だった。学生になり、多少なりともお金に余裕ができた。ある程度収入ができたから自由になった。午後の授業が終わると昼の飯時だ。ゆっくり食べたいが、時間もない。だから、昼飯は大半がそのコンビニ弁当や、コンビニのおにぎりだった。

 コンビニのおにぎりも、とても高品質になり、パリッとした海苔としっとり立っているお米は、味わい。近年の企業努力の成果だろう。とてもそのおにぎりはおいしかった。

 だが、数カ月経つと、食えるものではなかった。不味いという以前に、味に飽きが来てしまった。本当に、実家の味が懐かしかった。懐かしいなと実家の味が恋しくなっていた、その時のご飯時だった。いつも通りご飯を食べようと飯に手を伸ばして弁当を手に取る。お茶もと手を取るが、眼に入ってしまった。ツナマヨだ。「ああ、嫌いだったな。でも、親父は好きだった。」と思ったのだ。

 親父は好きだった。執拗に何故好きなのか理由を聞いても、なにも話してくれなかった。仕事終わりにコンビニに寄り、そこでツナマヨを買う。それが、ルーティンの様なものだったのかもしれない。

 そのことを、おにぎりを選ぶときに記憶が蘇った。

 「ああ、買ってみるか。」とふと懐かしくなって、買ってしまった。そうして、家に帰り、食べてみると、不味かった。本当に不味かった。でも、なぜか、塩気が強かった。あの嫌いな食感を口の中で頬張った。

今でも思う、ツナマヨが嫌いだと。でも、あの時の透明な塩味の多い味は忘れない。

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