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春の終わり、夏の始まり 29

那智勝浦旅行から帰宅してから、1週間が経った。
7月も中旬に入り、そろそろ真夏の太陽が照りつける時期。

お互い日常に戻り、日中は仕事、夜はリビングでビールを飲みながらくつろぐ日々を送っている。
この日の夜も、唯史と義之はビールを飲みながら、それぞれノートパソコンを開いていた。
二人とも、那智勝浦で撮った写真の整理をしているのだ。

その時。
義之のスマートフォンが鳴り響いた。
ディスプレイに表示された文字を見て、義之は少し驚いた表情を見せ、リビングの窓際に移動する。
「はい、高村です」
落ち着いた声で応答し、電話の向こうの話に耳を傾ける義之。

「えっ…イタリア、ですか?」
驚いた表情で、義之は真剣に話を聞いている。
「はい…、わかりました。出発はいつですか?」
義之は左手に電話を持ち、メモを取り始めた。

「明後日の朝一番のフライトですね、準備しておきます。詳細はメールで送ってください」
電話を切り、義之は少し緊張した顔を唯史に向けた。
「唯史、だいぶ急な話なんやけど、イタリアに行くことになった」
「出張?」
唯史は、飲んでいた缶ビールをテーブルに置く。

「うん。前にお世話になった出版社なんやけど、予定してた人が事故になったらしくて。そんで、急きょ俺に話が回ってきたらしい」
「いつから?」
「明後日の朝一番の飛行機で、1週間くらいかな」
言いながら義之は、貴重品が入っている引き出しを開ける。
「とりあえずパスポートはあった、飛行機のチケットは出版社が押さえてるから……」

次に義之は、押入れからスーツケースを取り出した。
「海外は久しぶりやわ。唯史、いい子でお留守番しといてな」
おどけた様子で、唯史の頭をなでる。
「あのな、子供とちゃうんやで」
抗議するも、義之は笑うばかりである。

そして翌々日の朝、義之はイタリアへと旅立った。

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