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コロナ禍に公演を打つ

またまたご無沙汰してしまいました。

コロナが全国に広まってもうだいぶ経ちました。今年の前半の第1波の時は、国が「緊急事態宣言」を出し、所謂「3密」になるような空間から強制的に人々を締め出しました。劇場もまた休業要請の対象になり、多くの劇団や団体が公演を中止や延期せざるを得なかったのは記憶に新しいところです。宣言が解除され、劇場もボチボチ再開し(潰れた所もありましたが)、でもウイルス自体がなくなった訳ではなく、当然のように第2波が押し寄せつつあります。
こんな時にも演劇公演を行おうとする団体はあります。様子見の団体も勿論多いですが、感染対策をとり、客席を減らして上演に踏み切る人達もだいぶ出てきました。オンラインのみでやるところや、配信との「ハイブリッド上演」をするところもあります。

ぶっちゃけ、今この状況下で演劇公演を行なっても、利益は出ません。何せ、ソーシャルディスタンスで客席を削っているわけですから、普段のキャパの半分位になってしまうのです。役者としても、このご時世お客様を呼びづらいという事情もあります。だからといって、料金を2倍にするわけにも当然いきません。また、スタッフさんのギャラや出演者へのギャラ・バックを半額にすることもできません。という前に、劇場費は通常のままというのが普通でしょう。(割引に応じてくれる所もあるようですが。)グッズ販売にも影響は出ます。ツーショットチェキのように、出演者と観客が密になるようなことはできません。
要するに、収入は確実に減るのに、経費は減らない(むしろ、感染症対策のために増加する)のです。当然、興行全体では赤字になります。赤字は、誰かが被らなければなりません。それでもやるのかという話です。(そうかといって、中止すれば劇場のキャンセル料がかかります。)

採算度外視で公演を打つ理由は一体何なのか?
いくつかあるでしょう。キャンセル料のことはさておいて、一番は、とにかく演劇が好きすぎるということ。演劇人の多くは、回遊魚と同じで、演劇をやっていないと死んでしまう(精神的に)。だから、リモートでも何でも、何とか発表の場を持とうとするのです。しかし、勿論それだけではありません。心の何処かに「演劇の火を消してはいけない」という使命感のようなものがあると思うのです。現下の状況は、演劇等の実演芸術家にのたれ死ねと言っているようなものです。未曾有の危機です。社会の大多数の人達は「演劇なんて、なくても構わない。勝手にのたれ死んでくれ」と思っているでしょうが、本当にそれでいいのでしょうか。演劇等の芸術が如何に社会にとって必要なものであるかは、古今東西いろいろな人達が論じているので、ここでは繰り返しません。自分の愛するものを、多くのお客様に何としても届けたい。その強い思いが、経済の論理を超えてしまったのです。(どんな団体でも「お客様と自分達の安全」との間で葛藤はあると思います。)

ただ、それができるのは、一部の団体に限られるのも事実です。要は、採算度外視で公演を行える「体力」があるところです。特に小劇場の場合、劇団というのは劇団員が奴隷のように劇団に奉仕するという構造があります。劇団員がいる劇団であれば、あらゆるスタッフワークや雑用を含めて、劇団員が無償でこなしてくれます。その分、制作費(経費・外注費)を圧縮することができるのです。その上、劇団員はチケットノルマを負ってくれます。これは安定した売上を確保する上で大いに貢献します。
要するに、「劇団とは、劇団員を搾取することで回っている組織」なのです。(いいか悪いかは別にして。)
僕のように、基本僕がプロデューサー兼脚本家兼演出家、他は全て外注という仕組みで公演を行うところは、搾取する対象がいませんので、自分1人の財力と能力でできることが制約されてしまうのです。僕の知っている、やはり実質的に1人でやっているユニットは、主宰がプロデューサー兼脚本家兼演出家なのは当然として、他に衣装・小道具・宣伝用動画作成、果ては音響オペ・照明オペまでこなしていました。それも、半端なくきっかけの多い芝居で。ある時期までは役者としても出演していましたから、もうスーパーマンとしか言い様がありません。僕の場合、こういう特殊能力が全くないため、スタッフワークと役者が全て外注になってしまう。そうなると、採算度外視といっても、切る自腹が大変なことになります。かつての僕もそうでしたが、コンスタントに収入が得られる副業(本業?)でも持っていない限り、特に今のような状況下では、公演を打つのはまず無理です。どうしてもとなれば、zoomでも使ったオンラインの芝居を小ぢんまりとやってよしとするしかありません。

誰か、コロナ禍の演劇公演のもう少しまともなビジネスモデルを考えてくれる人がいるといいのですが、なかなか名案は出てきそうもありません。ただ、こういう時だからこそ、無駄な部分を削ぎ落として、最低限のお金で最高の舞台を作り出すアイディアを捻り出す必要があります。それが配信なのか何なのか分かりません。ただ、体力のない団体や個人でも、無理なく公演が打てる環境になれば、コロナ禍に喘ぐ実演芸術界にもさらに活気が戻ってくるのにと思うのです。
僕はこうなったら、それぞれの団体やユニットの殻に閉じもっていないで、団体・個人同士の「コラボレーション」や「協業」に活路を見出すべきだと考えているのですが、皆さんその余裕もないのでしょうか。

答えが出ないまま、少ない取っ掛かりを求めて、取り敢えず前に進んでいくしかないのが現状なのです。

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