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読書記録と思考記録

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本の内容に関する思考整理の記事です。
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#思考

【2023年07月】読書記録と思考記録

真の多様性尊重は対話の先に実現される朝井リョウの『正欲』を読んだ。 「これは共感を呼ぶ傑作か?目を背けたくなる問題作か?」のあおり文のとおり賛否両論ありそうな作品だが、「多様性」という言葉の氾濫・過大評価に対する疑問と問題提起が本書の主題であり、今の時代に必要な作品だと感じた。 同時にこの作品は、多様化の時代に個々人のコンテクストの「ずれ」とどう付き合っていけばよいのか、という迷いに対する一つの提言であるように思えた。 コンテクストの「ずれ」とは、平田オリザの『わかりあえ

【2023年06月】読書記録と思考記録

アンラーニングとは「新たな視点の獲得」であるビジネス書にしては表紙が特徴的で気になっていた『冒険の書 AI時代のアンラーニング』を読んで、「アンラーニング」という言葉の認識が大きく変わった。 新たな知識・技術を獲得することは、真の意味での「アンラーニング」ではない 真の「アンラーニング」とは、これまでに身につけたものの見方(視点)を捨て、新たな視点を獲得することである 既存の視点を自ら捨てることは難しいため、他者との関わりを通して新たな視点を獲得していく必要がある 新

【2023年05月】読書記録と思考記録

真の「利他」は思いがけず生じるものである先日手に取った『「利他」とは何か』という本がとても学びになった。 真の「利他」とはしようと思ってできるものではなく、結果的にできてしまっているものである、というのが、本書の要点だ。 「利他」的なことをしようとすると、その背後には必然的に「これをすれば相手は喜ぶはず」という自分の思いが含まれてしまう 相手が想定通りの反応をしなかった場合、思いは「相手は喜ぶべきだ」という支配欲に変化しかねず、それは真の「利他」とは言えない 相手の反

【2023年04月】読書記録と思考記録

幸福とは、自分の在り方・生き方を信じることいろいろとご縁があって、福田恆存の『私の幸福論』という本を読んだ。 昭和の、しかも女性向けの雑誌に連載されていたとは思えないほど苛烈な主張が随所に登場するが、その内容は非常に論理的かつ現実的で、現代の文脈で語ってもまったく遜色がない。 こんな本があったのかと、自分の選書範囲の狭さを改めて認識した。 とても簡単にまとめると、福田の考える幸福とは、「自分の在り方・生き方を信じること」だと読み取った。 中でも「ひがみは、現実に敗北した不

【2023年03月】読書記録と思考記録

作品間に通底するテーマは何か?東日本大震災から12年が経った。 仙台で被災した時の記憶はだいぶ薄れてしまったが、せめて毎年3月11日ぐらいはあの時の体験を思い出し、地震の恐ろしさを忘れないように努めたい。 偶然にも今年の3月11日は、新海誠監督の『すずめの戸締まり』の小説版を読んでいた。 読みながらふと、新海監督の直近の3作品は、東日本大震災に対する監督自身の「喪の作業」なのではないかと感じた。 君の名は(2016年)|時空を超えて彗星直撃を回避する → 否認・抗議

【2023年02月】読書記録と思考記録

いつ何を読むかで読書体験は変化する先日図書館に行った際、十数年前にベストセラーになった『生物と無生物のあいだ』が特集されていたので手に取って再読してみたら、ものすごくおもしろかった。 福岡博士曰く、 生命とは「動的平衡」にある流れである 局所局所では破壊と再構築を繰り返しつつ、系(システム)全体としての秩序が維持されている状態が「動的平衡」である 「動的平衡」を維持するために、生命は負のエントロピーを食べて生きている(自然的な崩壊スピード < 意図的な破壊・再構築スピ