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【2】迷求空間〜知識産業時代の都市像

先進国において少子高齢化による人口減少による労働者不足は差し迫った問題であり、特にサービス業や製造業の現場では人間に代わる労働力を確保するためのロボットによる製造やIOTを活用した無人化による高効率化が進んでいる。一方で、そういったシステム全体を支える技術者の需要は増している。そういった企業や労働者は「イノベーションを生み出し続けるために質の高い知的資源との接触会を増やす必要性が高まっていること、知識創造の時代を迎えた現代の産業システムが単体企業の内部で完結せず、知識同士の多様な新結合を求めて、組織の枠を超えた「地域」への広がりを強く指向して…」おり、多様な知との出会いの場としての「まち」※1が求められてきた。

しかし、感染症拡大により在宅ワークが推進された一方で、市街地で積極的に交流することが難しくなり、多様な知との偶機な出会いが難しくなっている。「ICTが発達した今日、わたしたちは常に世界中と接続されており、その気になれば求めている情報に辿り着くことはたやすい。しかし、目当ての情報に最短距離で到達できる利便性が、想定外の知と出会う機会を喪失させてしまったことの負の側面も大きい。ユーザの利便性を最大化する提案アルゴリズムの介在も、多様な知との「素敵な偶然の出会い(セレンディピティ)」 の喪失を後押ししている。」※1のである。

感染拡大の中で企業が地方の郊外や既存集落に本社機能の一部を移転する事例やサテライトオフィスを構える事例も増えている。極度に密集した市街地とは違い物価が安いこと、大らかな土地で働けることは精神衛生の向上や知識労働者の生産性向上が見込めることがメリットであり、オフィス機能を郊外や既存集落に移転することに限らず、リモートワーカーにも同じことが言える。市街地に暮らすことも、大らかな地域に暮らすことも、自由である。それぞれの職能や感性にあった場所で多様で自由な働き方ができることが大切であり、在宅ワークに限らず、地域のシェアオフィス、カフェや公園、ワーケーション(workcation)等、個人的に仕事の捗る場所など、選択肢が豊富であることが重要である。移動の時間に費やされていた時間を教養や趣味の時間に回すことによる新たなセレンディピティは知識労働者と組織の知の育成と成長を促す。介護や家事子育てなどの家庭内労働との共存や家族との充実した時間は生活の満足感を高めることにも繋がるだろう。

地方には地域特有の文化や産業や技術があることから、新しい製品や市場の開発、技術革新も期待できる。知との出会いは人に限らない。自然や風景とのセレンディピティが革新的な創造に繋がる事例もある。また、リラックスした時間は、異なる知と知を融合させて新たなアイデアを生み出す創造的思考に繋がる。職場同士が仮に離れていたとしても、拠点を増やすことで中心市街地では成立し得ないセレンディピティが、ICTのネットワーク通して地域を越えて知識と情報の共有を可能にする。

一方で産業の転換により衰退する地域の問題もある。地域産業の転換や変化が求められているにも関わらず、若年層を中心に中心市街地への職を求めた人口流出は益々増えている。自給率の低い日本においては一次産業の高効率化と外貨獲得のためのプロダクトの高付加価値化が課題になっているが、地域のキーマンとなる人材のIターンやUターンによる地域の盛り立てが一部で話題になる中でもまだまだ不十分に思える。私たちの暮しを支えてくれている地域産業こそ、産業の構造を超えたセレンディピティと先進的な技術の導入が求められている。

※1:オフィスから「まち」へ ―知識創造の時代における協働の舞台としての都市空間 山村 崇 早稲田大学高等研究所 (2020年5月)

Illustration by Genta Inoue


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