見出し画像

Love FM出演で話した名建築の解体

明治産業 presents「OUR CULTURE, OUR VIEW」に出演し、『Sitespecific現代建築』というテーマで福岡の現代建築を解説しました。

Radikoの有料アカウントになっている方は、タイムフリーによって聴取可能かと思いますが、聞き逃した方もいらっしゃると思うので放送で話したことを記事にしてみます。

磯崎新の名作のひとつである現・福岡シティ銀行福岡本店(元・福岡相互銀行本店)が解体されると発表されました。解体が発表されるとTwitterや様々な場所で「この建築が解体されるなんて…」という意見が見受けられました。同じように思っている方もたくさんいらっしゃると思います。

 西日本シティ銀行(福岡市)は、JR博多駅前の本店ビルを建て替える方針を固めた。容積率緩和で再開発を推進する市のプロジェクト「博多コネクティッド」を活用し、オフィスや商業施設が入る大型複合ビルに再開発する。本店ビルは世界的な建築家、磯崎新氏(88)が設計。駅前のランドマークとなっているが、老朽化に伴う耐震対策などが課題で、2022年度の市営地下鉄七隈線博多駅延伸、九州新幹線西九州(長崎)ルート暫定開業後の街づくりも見据え、建て替えを決断した。近く発表する。
(西日本新聞の記事より冒頭文を抜粋)

まず、この建築がどのような経緯で建築されたのかを知ることが解体の意味を捉える上でとても重要です。

建築の主題と手法

ネット検索で見ることもできますが、この建築が竣工した1971年の当時の博多の街には高い建物はありませんでした。福岡相互銀行の当時の社長である四島司さんからの依頼は「街のシンボルに相応しい建築」というものだったそうです。この建築にはその依頼に答えるための大きく二つの要素があるように思います。

竣工同時の写真はこちら

まず、当時の銀行機能を支えるための1フロアの広さを小さくし、それを積み上げることで高層建築としていること。1層あたりの面積を広くすることでコストを抑えて低中層の建築を実現できるはずですが、ここではウエハースのように建物を薄く高く面を大きくすることで高い建物のない博多の街で存在感を出しています。

もう一つは素材です。外壁に使われているインド砂岩は経年変化により現在ではベージュに近いやさしい印象の表情と色です。竣工当時はまだ真新しく、色が濃かったそうです。高い建物のない博多の街に広がる青空とのコントラストを狙った結果に選ばれた素材といえるでしょう。

近現代建築の誕生

ラジオの中で近代建築の始まりについても話しました。19世紀に絶頂を迎えた産業革命により封建主義を終り、資本が権力を持つようになりました。精神性の高い神社仏閣や一部の貴重な公共建築物などとは異なり、近現代建築は資本主義の中で成立していますから、その役目を終えるのは当然の流れです。

磯崎新の言説とこれから

磯崎新さんは建築は『廃墟』から始まるとし、使われ始めた時から建築の終焉を予告しています。建築はメンテナンスさえ行えば物理的に保存することは可能ですが、近現代建築は誕生した時からライフスタイルや時代の変化、経済の論理の中で運命を左右されています。

また、磯崎新さんの言説は都市の新陳代謝論にも肯定的な印象です。もしも新しい福岡シティ銀行本店を磯崎新さんが手掛けるのならばどのような建築になるのか。できれば磯崎新さんご自身に設計を手掛けて頂きたいという思いが芽生えました。

この建築のある場所は開発緩和制度が導入されて再開発が行われていく予測のできる場所です。このような名建築が解体されることに悲観的になるだけでなく、新しい建築が生み出されるこの機会に、この時代のこの場所に相応しい建築がどのようなものなのかを私たちが考える機会であると私は考えています。


最後まで読んで頂きありがとうございます!あなたのサポートが執筆の活力です。応援よろしくお願いします。