映画レビュー(26)「沈黙の艦隊」

 1989から96までコミックモーニングに連載されていたかわぐちかいじ作品の映画化である。
 冒頭の潜水艦事故、実は極秘裏に製造した日本初の原子力潜水艦「シーバット」に乗員を乗せるための日米の偽装工作だった。しかし、その艦長・海江田は、極秘裏に核兵器を搭載するとアメリカの指揮下を外れて外洋に出てしまう。
 そして、全世界に向けて、「独立」を宣言するというストーリー。
 多くの作品レビューを読むと、潜水艦映画には珍しくつまらないとか、意味不明といったものが多い。
 この作品、ラストが中途半端だと思われるが、ちゃんと「まず日本と条約を結ぶ」という海江田の台詞で作品のテーマは明確である。
 海江田は核兵器の力を十分知っている。その力で、世界に発言する。だが、同時に日本や米国の支配下にも入らない
 これは、「単純に国防重視、核武装を叫ぶ保守派」と一線を画すと同時に、「教条的に非武装中立を絶対視するお花畑左翼」とも一線を画している。
 互いに対立し、議論も対話も不可能な現状に対して、「どうするんだよ日本国民」という「問いかけ」こそが、この作品なのだろう。少なくとも映画化された作品はそう問うている。
 お互いに否定しあうのもけっこうだが、現実に会わせて対立を止揚して前に進むことこそが必要なのではないか。この作品はその止揚(アウフヘーベン)を問いかけているのだ。
 この問いかけに気づかせて答えは観客に委ねるというスタイル、「空母いぶき」と通じるものがあるなと気づいた。
 いわゆる問題提起型ストーリーだ。

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