映画レヴュー(55)「ヴィーガンズ・ハム」


風刺の効いたホラーコメディ

 2021年のフランス映画。フランスっぽいブラックコメディ。
 経営難の肉屋夫婦ヴィンセントとソフィー。彼らの店を過激派ヴィーガン(動物由来のすべてを食べない完全菜食主義者)が襲う。後日、その一人を見つけた二人の車に当のヴィーガンが追突して死んでしまう。
 殺人の汚名をかぶらぬように、死体を持ち帰りバラバラにして冷凍庫に保存するヴィンセント。ところがソフィーが間違えてその肉をスライスハムにして売ってしまう。そのハムの旨さが評判を呼び、彼らはヴィーガンのハムを売るようになる。
 と、ここまで観ていて、おいおいこれはミュージカル「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」の主人公と共犯のパイ屋の女主人を思わせるじゃないかと気づいた。

「スウィーニー・トッド」の本歌取り

「スウィーニー・トッド」で殺されるのは当時の裕福な階級で、下層階級にとっての復讐の意味もある。今作でも殺されるのは過激なヴィーガン達で、観客サイドから見れば、やはり同情も湧かないという仕組み。
 作品では「ヴィーガン」が標的になっているが、これは「信じ込んだ~の為には暴力やテロも辞さない狂信的なバカ」の代表としてヴィーガンが選ばれているだけで、「信じ込んだ~」には、色々な言葉(例、愛国心、平和、反原発、反捕鯨など左右を問わず)を代入して貰えばなんとなくわかるであろう。

本歌取りはネタの宝庫

 先日アップした映画レビュー「ラン・ハイド・ファイト」が、舞台を高校に移した完璧な「ダイ・ハード」の本歌取りだったように、伝統的な物語構造を活かして新しい作品を作るのは参考になる。
 ゾンビで囲まれた館モノのミステリー「屍人荘の殺人」とか。見たり聞いたりしてるだけで、「俺も何か突拍子もない組み合わせで本歌取りやろうかな」と思ってしまう(苦笑)
「ヴィーガンズ・ハム」

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