映画レビュー(69)「ある男」(2022)
原作・平野啓一郎なのか。納得。
短くも幸せな再婚生活の後、夫は事故で死んでしまう。その一周忌の際にやってきた夫の実家の人間が遺影を見て、これは別人だと告げる。では、夫は本当は誰なのだ、というミステリ。前半の妻から、後半は、その謎解きを担当する弁護士に主役が変わる。目の離せない物語になる。
タイトルの「ある男」とは死んだ夫でもあり、彼を調べる弁護士でもある。過去を隠そうとした夫、その過去を追う弁護士。その二人の周りで揺れる人々の思いを丁寧に描いていく。
彼の人生とはなんだったのか。それを問いながら、弁護士は自分のアイデンティティにも向き合うことになる。
見ごたえのある物語を、謎を追うエンターテイメントの形で提示する手腕。観客に問を投げかける素晴らしい作品。
残された息子の亡き父に対する思いが救いになる。そして、人は誰でも、本当の自分とは別の、もう一つの人生(家族に向けての人生、職場に向けての人生など)を意識せず演じているのだと気づかされる。
こんな作品に出合えるからプライムビデオはありがたい。
「ある男」
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