クレーマーの心をつかめ~言葉の裏の本音を読む~(第3回)

コールセンターでは「指示」が命取りになる

 コールセンターでのコミュニケーションは、顧客とオペレーターとの間だけではありません。SV(スーパーバイザー)が、オペレーターに対しどのように指示を出すのかも重要な要素となります。
 本記事では、コールセンターで実際に起きた事例をもとに、どのように「指示」や「教育」を行うべきかを考えます。

説明不足の指示が招いたトラブル

 SVと、実際に顧客のコールに対応するオペレーターとの意識がズレていると、コールセンターはトラブルを解決するどころか、トラブルを生み出してしまいます。以下、自動車メーカーのコールセンターで実際にあった例を紹介します。
 ある自動車メーカーのコールセンターに、苦情の電話がかかってきました。
「たとえ中古車とはいえ、人の命を預かる商品だ。メーカーが修理費用を負担すべきだろう」という、無償修理を求めるクレームです。

 このコールに対し、新人の苦情担当者が対応をし、ベテランのSVがモニターを担当します。クレーマーと苦情担当者の会話の内容をSVが聞き、クレーマー側に聞こえないよう、苦情担当者にどのような対応をすべきか具体的な指示を出す、という図式です。

苦情担当者「すでに保証継承もされていない中古車ですので、それはちょっと……」
クレーマー「自動車は普通の商品とは違う。保証期間を理由に逃げようとしてもそうはいかんぞ」
苦情担当者「中古でご購入ですから、メーカーの保証そのものがありません。ですので、無償は……」

 苦情担当者はクレーマーの剣幕に配慮しつつ対応していますが、どっちつかずの曖昧な対応を取ってしまい、対応に時間がかかっています。
 そこでSVが、苦情担当者に対し「そこは、きっぱり断って」と指示をしました。すると苦情担当者は、SVに了解のサインを返しながら電話に向かい「いやね、ですからできないってことなんですよ!」と叫んでしまいました。
「その言い方はなんだ!おまえでは話にならん、上司に代われ!」
 当然、相手は怒ってしまいました。

 なぜこのようなことになったのかといえば、苦情担当者がSVの「きっぱりと断って」という指示を「強い口調で断れ」と解釈してしまったために起きたのです。
 SVが「曖昧にぼかさずに断れ」と言う意味で使った「きっぱり」を、苦情担当者は「強い調子」と解釈したのです。

「クッションをきかせてほしい」はどういう意味?

 コールセンターでの事例をもう一つ挙げましょう。
 顧客に対する「そのような対応はできません」という苦情担当者の言葉に対して、SVは「今後はもっとクッションきかせた言い方をしてほしい」と指示しました。
 その後、この苦情担当者は「そのようなご対応いたしかねます」と言うようになりましたが、電話をかけてきた顧客は、もっと反発するようになりました。
 SVの指示の真意は、「できません」という拒否・拒絶ではなく、「できる・できない以前に、そもそもそのような対応はしていない」という状況説明に変えてほしいというものです。
 しかし、苦情担当者は、「丁寧に言えばいい」と解釈したのです。
 実際には「いたしかねます」という丁寧語でも、内容は拒否・拒絶です。慇懃無礼な役所言葉による拒絶では、逆に相手の反感の炎に油を注ぐだけなのです。
 あいまいな言葉や、相手に指示をする言葉の解釈には、個人差があります。重要な指示や教育はその個人差があることを配慮しなければならないのです。
 本来であれば、「きっぱりと断って」という指示は「曖昧な言葉でごまかさず、メーカーとして対応できないと明確に伝えて」という内容に、「もっとクッションを利かせて」は「できない」という拒否・否定より、「していません」という状況説明をすることで、相手の心にとげが刺さらないようにしてと伝える必要があるのです。

教育とは、言葉で伝える力

 このようなケースは、コールセンターに限らず、ビジネス全般に起こり得ます。
 筆者が以前、Webサイトの制作に携わっていた際にも、似たようなことがありました。営業から「クライアントから“かわいいデザインにしてほしい”とリクエストを受けている」という指示があったため、そのようにWebサイトをデザインしたものの、クライアントのOKはなかなか出ませんでした。

 その原因が、クライアントの要望を伝えてくる営業が、クライアントが望む「機能的でスマートなデザイン」を、「かわいいデザイン」と表現していたのが原因だったのです。彼にとっては「かっこいい=かわいい」だったのです。そういえば彼は、日常でも「これは、かわいいですねえ」を頻発していました。
 野球などのスポーツでは、名選手が必ずしも名コーチにはならないとよく言われますが、その理由のひとつに、感覚やコツなどが「言葉では伝えられない」ことがあるでしょう。
「そこは、もっとドーンといっていいんだよ」
 かつての名選手がこのようにしか指示が出せないのでは、その意味は同様の天才にしか通じません。
 コールセンターのSVは、いわば相談員として名選手だった人。それだけに、普通の選手である相談員を指導・教育するときには配慮が必要です。
 教育や指導とは、この「コツ」や「経験則」といった定量化できないものを、的確に言語に変えて伝える力なのです。そしてそれはまた、顔の見えない電話の向こうの相談者に、誤解なく伝える力でもあるのです。
※(2017年9月28日 Bizコンパス掲載)

第四回 「クレームが生きがい」な人たちへの対抗手段とは
https://note.com/hajime_kuri/n/n8608c8744ab0

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