映画レビュー(7)「NO MAN'S LAND ノーマンズ・ランド」

「NO MAN'S LAND ノーマンズ・ランド」

(2005年 05月 24日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)


 バルカン半島での戦争を描いた作品。練られた脚本が効果的な、程よいブラックコメディである。
 敵陣との間にある塹壕に取り残されたセルビア人とボスニア人の兵士。
まず、互いの正当性を譲らない二人の姿が笑える。
 一方、傷を負って動けないセルビア人兵士は死体と間違われて体の下に地雷が仕掛けられている。
 どちらの陣営もにらみ合って助けに行けずに、結局は、国連保護軍のフランス戦車部隊や、画策を練るイギリス人テレビレポーター、ドイツの地雷撤去班、国連の最高司令部などが絡み合う。
 地雷の爆発を防ぐためには停戦しかないのだが、それができない(憎しみの連鎖を絶てない)のだという現実を、苦く苦く描いていて、ここだけはどうしてもコメディにはならなかったラストである。傑作だと思う。
 ところが驚いたのは、アマゾンのレビューの中には、「突拍子もないシチュエーションを殊更強調して、現実に起きた無防備の市民の虐殺などからは目を背けているかのようである」というものがあった。
 そして、この映画のテーマは、中立な国連軍は無力であるという胡散臭いメッセージだ、と。
 いやはや、恐ろしく鈍い人がいたものだ。

 この映画で、「身動きも出来ずに、体の下に地雷が仕掛けられている兵士」こそが、両派の間で板ばさみになって、悪戯に命を奪われる無防備な市民たちの象徴に他ならないではないですか。これを暗喩(メタファ)というのだが、こんな明らかなことが、感じ取れないとは・・・。
 ラストシーンで、地雷の上に横たわったまま空しく夜空を見上げている彼こそが、ボスニアの国民たちの絶望を語っている。直接的に描けばいいというものではないよ。
 パレスチナとイスラエルなどのように、「憎しみ」が「憎しみ」を生む悲劇は誰の目にも明らかだ。にもかかわらず、世界の中には、義務教育で「他国に対する憎しみ」を燃やし続ける国もある。困ったものである。

ノー・マンズ・ランド

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