映画レビュー(115)「マッド・マックス・フュリオサ」

劇場で鑑賞してきた

封切日に、劇場へ足を運んだ。それだけ期待してたが、それは裏切られなかった。未見の読者のためにネタばれはしていないから安心してお読みください。内容よりも「作者と作品」といった創作系の記事にもなってます。


異形のヒロイン前日譚

 物語は、「怒りのデスロード」の前日譚である。
 前作でマックス以上の強烈な印象を与えたフュリオサ。監督ジョージ・ミラーの脳内では、そのまま放っておけないキャラになっていたのだろう。なぜ片腕を失ったのか、ボスたちに対する怒りの原因は、等。
 作者は、物語を作る際、登場人物たちの過去の因縁などの人物背景を用意する。これは物語を転がすキャラたちの行動理論や動機付けをおろそかにすると、ストーリーの都合で動き回る薄っぺらいキャラになってしまうからだ。
 この人物のバックグラウンドの重要性を作家の鈴木輝一郎さんは、キャラには「二種類の履歴書」を作れと語っている。物語が始まる前の履歴書と、物語が始まってから終わるまでの履歴書である。
 監督ジョージ・ミラーは前作のキャラ、フュリオサを考えた際、匂わすだけにとどめていた過去の因縁などが頭から離れなかったのだろう。
 実は、物語作家にはこのようなことが珍しくない。後日談、前日譚、スピンオフ。特にスピンオフ譚は、モブだったキャラが作者の脳内で育った結果である。

悪役の造形が見事

 今作は、そのようなドラマが中心なのかと心配される方もいようが、ご安心を。アクションは前作同様飛んでいる。ミラー作品に感心するのは、必ず前作にはなかった武器やアクションが盛り込まれていること。新機軸を怠らないのだ。
 今回も、思わず「そうきたか!」と手をたたいた。
 そして倒すべき悪役ウォーロード・ディメンタス将軍と彼の率いる巨大な暴走族のバイカー集団「バイカー・ホード」。その造形に感心した。
 彼は最低の男なのだが、その根底にあるのは絶望感だ。家族を亡くして暴力だけで生きていく元軍人。この設定で私が思い出したのはアメリカ生まれのバイク集団ヘルズ・エンジェルスだ。
 このエンジェルスの起源は1948年、第二次大戦の帰還兵たちの中で心の傷などで日常に戻りづらかった者たちがバイクを軸に寄り添うように集まったグループだ。その後、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争とアメリカ合衆国ではトラウマを刻まれた帰還兵は尽きることがなく、未だにバイク・ギャングたちは健在だ。ヘルズ・エンジェルスの名称は一次大戦の米陸軍航空隊を描いたハワード・ヒューズの映画「地獄の天使」から来てる。
 水や作物、石油、武器などで曲がりなりにも共同体を経営している他の悪役(イモータンジョーたち)と比べると、このディメンタスというキャラは破滅的だ。過去作でいえば「マッド・マックス2」の敵役・ヒューマンガスと似ている。イモータンジョー達は第三作の敵役・統治者アウンティのタイプだろう。
 今回、感心したのがラスト。凡庸な作品ならディメンタスを無残に殺したうえで満たされぬ思いの彼女の顔を重ねて終わるところだが、今作ではフュリオサの復讐は、あのような形をとった。母から託されたあるモノが初めてその意味を観客にわからせる。死ではない形のある意味残酷な償い。極めて現代的だ。2024年のエンタメになっている。これも同時代性なのだろう。

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