ブックガイド(95)「不夜島(ナイトランド)」荻堂顕

第二次世界大戦終結後、米軍占領下の琉球。その最西端の与那国島では、一本の煙草から最新鋭の義肢まで、ありとあらゆるものが売買される密貿易が行なわれていた!
腕利きのサイボーグ密貿易人・武庭純は、ある日顔馴染みの警官からとんでもない話を耳にする。終戦とともに殺人鬼と化した元憲兵が島に上陸したというのだ。元憲兵探しに乗り出した武だったが、時を同じくして、謎のアメリカ人女性から 「姿も形も知れない “含光” なる代物を手に入れろ」という奇妙な依頼が舞い込んでくる。相棒の島人とともに奔走する武は、やがて、世界を巻き込む壮絶な陰謀に巻き込まれていく……。 琉球と台湾の史実をもとに描き出す、 サイバーパンク巨編!
一攫千金の夢が渦巻く欲望の“街”(Amazonの紹介文より)

ありえたかもしれない架空世界

「琉球と台湾の史実をもとに」と書かれてはいるが、世界自体は架空の世界である。
 第二次世界大戦直後とは銘打たれているが、実際の史実よりサイバーパンク寄りに盛られている架空史の世界である。与那国島と台湾という国境の地域を舞台に、与那国で生きる台湾人の主人公。彼の帰属意識の希薄な過去もあいまいなキャラ造形と、国境を行き来する密売人という設定がシンクロしていて見事。
 彼を取り巻くキャラクター達の造形も見事で唸った。何よりもサイバーパンクSFという物語をハードボイルド・スタイルで語っていること。

引用
 夜にサングラスを掛けていても細部まで十分に見えるほど、久部良の街はまばゆいネオンの光に包まれている。不夜島(ナイトランド)という渾名に相応しい輝きは、集魚灯のように飢えた人々を引き寄せる。

 これですよハードボイルドの魅力は!

映画を観るようなノンストップアクション

 四部構成の随所に活劇シーンが点在するが、最後の章のクライマックスは映画のような描写で綴られるアクションシーンだ。前段のすべてが、この大アクションのために用意されていたのだという満足感を得た。
 第二章までは、少々きついのだが、それもこのためなのだとわかる。重厚で少々重いが、それだけの価値がある読後感だった。

サイバーパンクな仮想史

 これだけだとよくある設定と思われがちだが、記憶や魂まで電脳化されコピーされ、改変されうる世界とは、まさにこれからの未来に起きうることである。同様に現在、我々の社会でも、人々の感情や思いは、データ化されコピーや改変を経て利用されている。仮想の過去を描きながら、起きうる未来を描いている。これこそがSFである。

「不夜島(ナイトランド)」荻堂顕

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