映画レビュー(75)「宮松と山下」(2022)


静かなる心理劇

 端役専門の俳優・宮松。ロープウェイの整備士という日常の他、来る日も来る日も、無名のキャラを演じ続けている。
 最初は映画の中の役と宮松の日常とがあえて混乱するように描かれる。
 淡々たる日常と虚構の中で殺され続ける宮松の生活は世捨て人のようだ。実は彼には過去の記憶がなかったのだ。気が付いたら京都の駅で保護されていた。頭には傷。なにが好きで、どこで何をしていたのか、自分が何者だったのか。なにも思い出せない中、彼は毎日数ページだけ渡される「脇役の人生」を演じ続ける。
 医者は、頭の傷よりも、思い出したくないトラウマが原因だろうと語る。
 やがて映画を観た昔の職場の知人が現れ、自分の本名は山下ということがわかる。そして、妹のいる実家に行くことに…。

自分の過去と折り合いをつける

 香川照之演じる宮松の、静かな表情とその裏の葛藤の演技が実に味わい深い。静かでありながら劇的。巧い脚本と、それを生かす演技の妙。
 こんな作品に出合えるとは、アマゾン・プライムビデオに感謝だ。
宮松と山下
 


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