ブックガイド(109)「虚栄の肖像」(北森鴻)
花師にして絵画修復師の佐月のシリーズ第二巻。残念だが、このシリーズの新作はもう読めない。
連作シリーズのお手本
この作品は、無店舗の美術商・旗師の冬狐堂こと宇佐美陶子のシリーズと同じ世界にある物語である。
この巻では、佐月の過去など、登場人物たちの背景情報が少しずつ明らかになる。個別のエピソードの起承転結とは別に、シリーズ全体を通してキャラの秘めた過去が読者に提示されていく過程を楽しめる。
小説などの創作を志望する者にとっては、昨今のミステリドラマの王道、そのお手本のような物語である。
知らなかった世界への扉を開く
一般にはなじみのない絵画修復、その詳細が実に興味深く描かれていて、まったく興味のなかったものでさえ、一読した後はアートや絵画などを観た時の印象が変わってしまう。良質な作品を楽しんだうえで、さらに未知の世界への知見を開く、すごい作品である。
翻って、自分にはこれほど読者を楽しませる知的なエンターテイメントが書けているだろうか、と自問せずにはいられない。
ここしばらくは、北森作品の読み直しが続くなあと私的なブームの到来に苦笑いする俺である。
「虚栄の肖像」
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