映画レビュー(128)「ラーゲリより愛を込めて」

2022年作品

 辺見じゅんの「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」の映画化作品。
 シベリア抑留で亡くなった山本幡男氏の体験と、ソ連兵の厳しい監視を盗んで届けられた遺書のついてのお話。
 絶望に沈み、自棄になってしまう抑留兵たちの希望の灯をともし続けた山本氏と彼を待ち続けた家族たち。見ごたえあった。
 しかし、ソ連による抑留のいかに非人道的なことか。後半、抑留者を思想教育するためにアクチーフ(積極分子)を作って優遇する、不平分子をあぶりだすために人民裁判をするといった、集団教育の恐ろしさよ。
 実はこの部分、胡桃沢耕史黒パン俘虜記(第89回直木賞受賞作品)が詳しい。シベリアよりももっと過酷なモンゴルに抑留された作家自身の体験がベース。軍律の崩壊した集団(ソ連側が意図的にそうさせた)に君臨するやくざあがりの大ボス・小ボス。食糧といえば、黒パンとわずかなスープ、それも搾取され、強制労働にかり出される毎日。興味を持たれた方は、この本もぜひお読みください。
 戦後の教育界は組合の力が強く、学級運営の集団教育にもこのラーゲリで行われていたような手法を垣間見ることができる。何しろ学級運営で積極的な生徒をリーダーにする記述でアクチーフ(積極分子)というロシア語の用語が使われていたくらい。さすがにまずいと気づいたのか、1972年の改定で、この言葉は削除されているそうだが、まさにお里が知れる。
 私が小学低学年だったころ、日教組の組合員だった両親のもと、レコードプレーヤーとロシア民謡のソノシートがあったぐらい(苦笑)
 そんな戦後すぐの教育を受けたのが全共闘世代である。
ラーゲリより愛を込めて
(追記)
この恐ろしい集団教育、洗脳教育だが、本家のソ連では12歳以下の児童には禁止していたという。それを嬉々として小学校の教育に取り入れていたのが、日本の教員組合だったそうだ。


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